第18話 現状確認
輸入ができなくなってから昨今、飲み物は味気ないものが多い。緑茶は細々と生産されているが価格は高く、一般的な家庭では手が出しにくくなっている。そこでそこらに生えている雑草を加工して作られた飲み物が多くなってきた。たんぽぽコーヒーやらヨモギ茶、笹の葉茶が多い。だが、そられの需要が増えると取りに行きやすい場所はすぐに枯渇する。要は都会は雑草すら取り合いになるのだ。熊笹茶を飲みながらそんな事を考える。
「聞いてる?」
たつなが口をとがらせる。
「はい、しゅつどうが ふえる」
「そう、今までは盛岡近郊の警戒だけで間に合ってたんだけど… 警察からの情報をまとめると他の地域にも出始めたみたい」
港町や県境の山間地にも幽鬼出現情報が出ているらしい。どちらも食料自給に直結する重要な場所だ。漁船が海へ出られなければ魚は獲れないし、山間地には養鶏場や養豚場がある。メガソーラーと併設して管理まで担っている養豚、養鶏場は重要施設だ。
「だから私たちも別れて出撃しなきゃならないかもしれない」
うわっ…私の職場、怖すぎ?
どう考えたって負担が大きい。素人の俺が考えても悪手だ。やっとのことで勝てた人型が現れた点も加味しなければならないのに、戦力を分散するなど愚かしい。
「ひとりじゃかてない てきがきたら?」
たつなは口を噤む。わかっているのに受け入れなければならない状況ということだろうか? しかし、いままでも自衛隊や警察が対処してくれていたのだから急に出動が増える理由がわからない。
「『他県の魔法少女部隊が一定の効果を上げた』って話でね… 人数も揃ってない私達にもそんな話がきたってわけ」
goddamn! 危くお茶を噴くところだ。“他所でうまくいったからみんな見習え”など腐った頭の経営者だ。上手くいくには原因が個別にある。一人一人の思考が違うように答えが一つである訳がない。相手は幽鬼、純粋に人間を殺しにかかってきているのだから同じ手法で対策するなど愚の骨頂だ。例え同じ地形同じ戦力でも、士気だけで大きく戦況は変わる。天候などの大きな要因が変われば致命的な一打を受けかねない。
「かんがえられない…」
「うん、沖縄で上手くいった作戦だってさ…」
素人ながらに言葉もでない。沖縄ならば島を転戦するにあたって燃料無しで空を飛べる魔法少女は最適だ。弾薬も使わなくて済む彼女達なら自衛隊戦力を温存しながら有効な打撃が可能だ。食料も繁殖力の高い外来種がはびこる沖縄ならえり好みしなければ豊富に手に入る。
「…いわてじゃ…」
本州最大の面積と過酷な冬。携帯Wi-Fiどころかスマホの電波すら入らない所はとても多い。昔ながらの農家が多く、点在する住居は防衛の妨げとなる。幽鬼は人間を食って成長すると言っていた。助けを求める事さえできずに食いつくされた集落が有ってもおかしくない。
「言いたいことはわかるけど、やらなきゃね」
本当にたつなは好人物だ。あの人型だって自衛隊戦車の火力と全員の全力があってようやく倒した。支援無しの単独戦であんなものとやりあったら確実に死ぬ。人型を思い出すたびになにか思い出さなければならないような気はするが、歯の隙間に挟まった青のりくらいの違和感しかない。
「大丈夫?」
ぼんやり考えていたらたつなが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。ゲームならヒロインだな。距離が近い。
「…だいじょうぶ」
冷めた熊笹茶を飲み干して返事をする。見た目は少女でも中身は成人男性であるから少しは警戒して欲しいものだ。
「一応何人か増員して二人一組にする目標らしいけど… しばらくは一人で回ることもあると思う あ、心配しないで! いっちゃんは誰かと一緒だから!」
助かった。
右も左もわからずに「行け!」と言われれば死ぬしかない。俺も…魔法?を覚えたことだし少しは戦える。何個か覚えられると言っていたからきっと、きっと遠距離攻撃もできるようになるだろう。
「よろしくおねがいします」
「お願いされました! それじゃ早速、着替えよう オムツ、気持ち悪いでしょ?」
goddamn!!
岩手県の海側はリアス式海岸です。宮古は浄土ヶ浜、大船渡は碁石海岸が有名… 知ら、ない?あ・・アワビ!岩手はアワビが有名なんです!




