第14話 引けない
「たつな!」
「トレスアイナ!」
目くらましの様に光の玉を爆発させながら幽鬼を誘導する。自衛隊と合流した二人は必死に注意を引き付けていた。
市街戦、ショッピングモールには未だ民間人が残っており半壊した建物が粉塵を巻き上げている。
相手は筋骨隆々の男性型。頭は兜の様な物で覆われ口だけが見え、表情は確認することができない。背中には大きな羽があり、まるでおとぎ話の天使だ。74式戦車を簡単に破壊し、殺した人間の心臓を食っている。石膏のような白い肌は返り血で赤く染まり、さながら死神。厄介なのはその盾のような腕、硬く大きく74式戦車の105mmライフル砲を防ぐほどだ。
「ブレイドフルール!」
みちるの呼びかけに魔法は応える。人型の足元から無数の光の剣が咲き誇る。だが、人型は意に介さず左腕で薙ぐとあっけなく光の剣は砕け散った。
「トゥインクル・スターライト!」
腕の死角からたつなが仕掛ける。辺りを閃光が包み爆発が人型を襲う。飛び退いた二人は油断せず様子を伺う。
「そろそろ… っ!」
煙が収まると羽を広げて人型は無傷で現れた。
「ウソでしょ…?」
そこに戦車砲の精密射撃が直撃する。アスファルトが弾け飛び辺りに散らばる。続いて二射、三射と打ち込まれ辺りは再び粉塵が舞い、視界が奪われる。だが
「WHOOOOOoooo!!!!!」
肩翼を失った程度で人型は健在であった。目標を変えた人型は勢いよく煙の中を移動すると、戦車の砲塔を掴みギリギリと力をこめる。
「回せ!回せー!!」
砲手はM2重機関銃で人型を撃ち続ける。おそらく装填手に言っているのであろう。だが、ギヤの空回りする音が響く。瞬間派手な音を立てて砲塔が引き剥がされた。投げ出された砲手が転がる。
「ラディカルブレイド!」
みちるが光剣で人型に切りかかる。油圧オイルが噴き出る中、二回三回と切りつけるが四手目で吹っ飛ばされる。
「スターライト☆ナックル」
たつなの一撃で辛うじて直撃を免れたみちるは体を翻し着地する。その間に自衛官は戦車から退避して銃を撃ち続ける。光沢のある人型の肌はそれをものともせずにたつなを打ち抜く。重心を後ろに移動して衝撃を殺したはずのたつなだったが、打ち下ろされた拳に抗えず地面へ叩きつけられた。
「がっふ」
「たつなっ!!」
その時、一発の銃弾がたつなを救った。
「生きてるか!?」
「吾味さん!」
吾味の撃った弾は正確に人型の左目を撃ち抜き手を止めさせた。怒りを買った吾味に戦車の下半分が飛んでくる。側方へ飛ぶことで回避したが足に直撃して派手に転がった。吾味は声も上げずに耐えている。
後れて到着した74式が援護するように一発お見舞いして数瞬稼ぐが、羽で防がれる。
「おれは、おれは…」
少し離れて呆然と見ていた。吾味さんに隠れているように言われて建物の陰で震えている。魔法の効果もわからず、武器も無く。たくさんの人が命を懸けて戦っている。家族もいるだろう。恋人だっているだろう。俺は? 失うものは命だけ。たつなは?みちるは?俺よりまだまだ人生送っていない。吾味はあの状況に迷わず突っ込んでいった。戦車に乗っていた自衛官の若者も俺を見た瞬間逃げろと。気づくと俺は駆け出していた。
『それでいい、あとは たのむ』
駆け出した柿屋敷。
気付けば体が動いていた。
次回、決着
よろしくお願いします!




