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8.婚約成立

お読み下さり、ありがとうございます。

本日二話目の投稿です。

 ――翌日。


 ガルシアからの報告では、使用人の間で失踪者が出たとは誰も気付いていなかったそうだ。

 ただ、侯爵家の方はどうだか判断はつかない。明日の模擬戦の時には、分かるだろうけど。


 全く、お兄様は……どれだけの人間の意識を操ったのかしら?


 模擬戦にむけ、特訓をしているオードリックを訪ねようと、訓練場に向かおうとした時だった。長い廊下の先を、数人のお供を連れて此方に歩いてくる人物が見えた。

 

 は? 来るのは明日ではなかったのだろうか?


 私に気が付いてキラキラした笑顔を見せる、ジェラール殿下がそこに居た。完全に殿下は演技中。仕方がないので合わせる事にする。


 では……やるか。


 恋焦がれた彼を見つけ、パァァッと顔を綻ばせる。――駆け寄りたいのを我慢しつつ、歩みを進めて徐々に近付いていく。側から見たら、可憐(いじら)しく見えるように。

 周りの目が温かくなるのを感じた。うん、成功。


 自分で言うのも何だけど、私には悪女の素質があるのではないかしら? 勿論、これはジェラール殿下とお父様の合意の上の演技ですからねっ!と、モヤッとする気持ちを無理やり納得させる。

 そう、全ては平和な明るい世界で私がのびのびと暮らす。その為だったら、何だってやるわ。いや……そうね、私の良心が許す範囲で。


「セレスティア……すまない。早く貴女に会いたくて、内緒で来てしまったよ。驚いたかい?」


 あ、呼び捨て。……ええ、ええ、合わせますわよ。


「ジェラール殿下、私も明日が待ち遠しくて……。」


 ウルッとした瞳で、嬉しいと言わんばかりに殿下を見上げる。ジェラール殿下はコクっと唾を呑んだかと思うと、殿下の手が私の頬にそっと触れた。


 はい? え、演技ですよ……。


 一瞬動揺したのが伝わったのか、フッと微笑むとその手を下ろした。


「皇帝陛下には、本日ご挨拶に伺う旨は伝えてある。セレスティア、一緒に来てくれるかい?」

 

 そう優しく言うと、スッと手を出した。そのジェラール殿下の手の上に、自分の手を重ねる。そして、エスコートされてお父様の元へ向かった。



 ◇◇◇◇◇



 形式的な婚約の挨拶と互いの国の契約等を済ませ、晴れて婚約者となった。


「それで、私の役目はオードリックの剣を弾き飛ばせばいいのだな?」

 

 手入れの行き届いた美しい花々に囲まれ、庭のガゼボでお茶を楽しみながら話していた。


 ここは、何代か前の皇帝によって建てられたものだ。女性との逢瀬の為ではなく、策略を練る密談場所として。ある一定の時間帯……光の屈折を利用された造りで、読唇術や覗き防止。当然、盗聴防止の結界を張ってしまえば、優雅にお茶を楽しみながら秘密の話ができるのだ。そう、これを考えたのは女帝だった。


 甘いお菓子を食べながらお茶を一口飲むと、まるでその感想を言うかの様に和かに伝える。


「はい。出来れば……サクッと、例の侯爵令息に命中させて頂きたいのです。」


「……サクッと、命中?」


 微笑みを崩さないまま、ジェラール殿下は手に持ったお菓子を皿に落とした。


「まあ、殿下ったら。ふふっ、冗談ですわ。」

「なんだ、冗談か。」と、安堵した様だ。


 暗殺依頼だとでも思ったのかしら?


「ええ。流石にオードリックを相手に、剣を弾いて飛ぶ先まで定めるのは難しいですよね。ですから、そこはガルシアの魔法で少々の軌道修正をするつもりです。ちょっとだけ掠ればよいので。」


 別に殺そうという訳ではない。ほんの少しだけ、ヴァレンティン侯爵令息の身体に剣が当たってくれたら良いのだ。そう、小さな傷をつける。自分が指示を出し、毒が塗られていると思っているオードリックの剣によって。それで、全てがハッキリする筈だ。


 嘘を見抜ける私が問えば、結果は直ぐに判明するだろう。でも、それでは駄目なのだ。なるべく多くの人間の前で、たっぷりと狼狽えてボロを出してもらわなければ。先ずは息子を捕らえ、(しか)()き場所へ引っ張り出す……その為に。

 私が覚醒する前の……セレスティアを消した罪は重いのよ。まあ、そのお陰で私が覚醒できたのだけど、それとこれとは話は別。


 ふと気が付けば、ジェラール殿下の表情が不機嫌そうに変わっていた。


 おやぁ? 何か誤解されたかしら……オードリックの剣の事は魔道具で伝えた筈だけど。

 もしかして、命中出来ないと勝手に決めつけたから、プライドが傷ついたのかしら?


「どうかなさいまして?」

「……そなたは、ガルシアへの信頼が絶対なのだな。」

「はい?」

「婚約者は、私だ。」

「知ってますけど? ある意味協力者ですが。」

 

 ジェラール殿下は利害が一致した婚約者。そして、ガルシアは最も信頼できる元番犬なのだから、比べようがないじゃない。


 ――何故かよく分からない深い溜息を吐かれた。


「……もうよい。セレスティアは、その侯爵家の者が犯人だと睨んでいるのだろう? 掠らせる程度なら、私がやる。」


「……出来るのですか?」

 少し失礼かなとは思いつつも、聞いてしまった。


「私を侮るな。」と、ニヤッと自信に満ちた笑みを浮かべる。


 大丈夫そうね。ま、念のためガルシアを待機させておくけど。


 最近のジェラール殿下の言葉には嘘は無い。私がそれを見抜ける事を知っているからかもしれないが、恋愛演技を抜きにすれば……一緒に居て楽な相手だと感じるようになってきた。


 

 



 


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