表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6.記憶がないのは

本日二話目の投稿です。

 訓練場の中に入ると、一斉に視線が向けられた。

 そりゃ、普段なら絶対に来ない皇女がやって来たのだものね。好奇の視線は当たり前か。


「姉上! 急にこのような場所に、どうされたのですか? 言ってくだされば僕が伺いましたのにっ。」

 慌てて訓練を中断し、走って来たオードリックは開口一番にそう言った。


「いいのよ。私が、早くオードリックに伝えたかったのだから。ふふ。」


「何か良い事でも?」


「ええ。私……ドレファンス国のジェラール殿下との婚約が決まったの。」

 ニッコリと微笑む。


 案の定オードリックは固まり、聞き耳を立てていた騎士達はザワっとした。

 

「お、お待ちください姉上。先日その話は断られたと……そう仰っていませんでしたか?」


「そうなのよ、最初はお断りしたのだけれど……。素晴らしい人柄と優れた能力に聡明なお考え。そして、私に対する一途な思いに……私は……。」

 ポッ……と頬を染めたかの様に、頬に手を当て下を向く。


「し、しかし! あの方は、女性にだらしがないとっ。」


「それは誤解よ。きっと、誰かがジェラール殿下の優秀さに嫉妬でもして流した、根も葉もない噂でしょう。殿下からの素敵なお手紙……内緒でオードリックにも見せてあげるわ。ーーガルシア」

 

 ガルシアは持っていた手紙をスッと出した。

 中身は、恋文ではなく報告書の抜粋。賢いオードリックなら分かるでしょ。


 差し出されたそれに目を通したオードリックは、驚きと困惑の表情を見せた。セレスティアが口頭で伝えず、遠回しに報告書を見せたと言うことは、内容を口にしてはいけない物だとオードリックは理解した。


「これが事実なら……。」

「そう、素敵な方でしょう!」と、頷いて見せた。


 今回の、ヌヴェール伯爵とあちらの枢機卿の企みを阻止した一件をまとめた報告書。勿論、私の関与は入れていない。だから、全てジェラール殿下のお手柄だ。

 

「確か……ジェラール殿下は、かなり腕が立つのでしたよね。」と、オードリックの瞳に闘志が宿った。


 はい、いい感じに食い付きました。


「その様ね。あっ、そうだわ! 今度ジェラール殿下と手合わせしてみてはどうかしら?」


 ーーそして、後日ジェラール殿下に打診してみると約束して、訓練場を出た。



「さっきの二人は誰だったのかしら?」


 部屋に戻ると侍女を下がらせ、ガルシアを呼ぶ。毎度の事だが……護衛騎士とはいえ、男性を侍女が居ない状態で部屋に入れてはいけないので、こっそり呼ばなければならないのだ。二度手間だわ。

 まあ、声など出さなくても念じればガルシアには聞こえるので問題はないのだけれど。


「セレスティア殿下の侍女の一人と、エロワ・ヴァレンティンの従者でした。」


 なぜ、私の侍女と侯爵令息の従者が……?

 何の接点があるというのだろうか?


「何か、良からぬ事を考えているのかもしれません。少々、調べます。」

 そう言って、ガルシアはスッと消えた。

 

 ガルシアが探りを入れている間に、お父様から渡された魔道具でジェラール殿下へ連絡を入れた。何でも、書いた文字が対になっている同じ魔道具に表示されるという物らしい。直ぐに返事があり、模擬戦の了承を取り付けた。



 ◇◇◇◇◇



 ーーコトリと、ガルシアは小瓶を2本……テーブルの上に置いた。


「これは?」

「あの侍女が持っておりました。」

「……毒薬ね。」

「はい。」


 可愛らしいサイズの小瓶は、よく騎士達が使う回復薬の瓶に似ている。それも、かなり高級品の少量で効くタイプの。一介の侍女が簡単に手に入れられる物ではない。恐らく向こうの従者から、中身を入れ替えたこれを渡されたのだろう。高位貴族の従者なら、主人の為に高級回復薬を持っていてもおかしくない。


「1つは空っぽね……。」

 その言葉にガルシアは無言で頷いた。


 つまり、毒薬は使われたのだ。ーー誰に?

 

 キュポッと空瓶の蓋を抜き、臭いを嗅ぐ。普通ならこれは危険行為だけれど、ヘルであった能力を持つ私には毒は効かない。

 ん?……この毒、知っている。


「ねぇ、ガルシア……私、目醒める前はどんな状態だった?」


「私が、前世の記憶を戻した時……セレスティア殿下は、昏睡状態でした。ですが、セレスティア殿下からヘル様の魔力を感じたので、お目醒めになられる前触れなのかと。状況を把握する為に情報収集しましたところ、少し前から体調を崩されていたそうです。医者によると、薬を処方したので暫くすれば良くなるとの診断だった様です。」

 

「ふぅ〜ん。昏睡状態なのにね……?」

「医者はそうは言っておりません。ただ眠っているだけだと。」


 ガルムがそう判断したのなら、私は昏睡状態だったのだ。病いを司る私に、ずっと仕えていたのだから。


「ガルシアの……以前の記憶はあるのかしら? ガルムの覚醒前のね。」

「はい、ございます。」


 なるほど。


「で、その医者は?」

「もう、おりません。薬草を取りに行き、足を滑らせたそうです。」


 ……口封じか。


 想像だけど、以前のセレスティアの魂はその時に死んだのだ。多分、この毒で。そして、潜在していた……そう、ヘルであった私の意識が目醒めた。セレスティアの記憶は消え、能力と共に。だから、私……セレスティアは死ななかったのだろう。

 医者……ううん、刺客は失敗したから殺された。共犯者は、私の侍女と侯爵令息の従者。

 それを指示したのはーー。


「ガルシア、この小瓶を元の場所へ返しておいて。」


 中身を無毒化させて、回復薬に変化させた。

 だって、これでも私は元女神ですからね。

 




お読み下さり、ありがとうございました。

ブクマ登録、評価もありがとうございます。

励みになります!

時間はまちまちですが、これからも一日二話投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ