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5.交渉成立ね 

 お互いが歩み寄る事で、交渉は成立した。


 向こうの長男である王太子の婚約者は公爵令嬢。

 片や、弟で第二王子の婚約者が帝国の第一皇女では、王家の勢力図が偏ってしまうのではないかと思ったが……ジェラール殿下は、その辺の事はもうお父様と話し合いが済んでいた。


 私達は、政治的婚約ではない。

 ――大恋愛の末に結ばれた恋人同士。


 はあぁぁ? 何それ……って思ったわよ、正直。


 たまたま、恋に落ちた二人の身分がそうだっただけで、皇女が皇帝陛下を説得して勝ち得た結婚。帝国は権力闘争には加担せず、寧ろ平和条約を結び友好国となるのだと。当事者である私のいない所で、実の父親と未来の夫が勝手に作った大恋愛ストーリー。お二人共……純愛に憧れているのかしら?

 道理で、お父様にこの婚約話を断った時、あからさまにガッカリしていた訳だわ。男二人で何を語ったのだか。その様子……想像したら、ちょっと面白いけど。きっと裏では有力者達を上手く動かすのだろう。


 まあ、折角なのでその話に乗ってあげる事にした。


 ――そして、私からの出した絶対条件は2つ。

 

 ガルシアを、護衛兼側近として連れて行く事。それから、辺境の地の関係者には極力関わりを持ちたくないという事。


「もしかして、セレスティア様はガルシアを?」

 ジェラール殿下は複雑そうな顔をして、チラリとガルシアに目をやる。勝手に何かを勘違いしたみたいだ。


 そこはちゃんと否定したけど。……何故ガルシアが悲しそうな表情をしたのかは分からない。


 辺境の地の関係者の件は、振られたとはいえ殿下の思い人と会いたくない女心だと適当に言っておいた。思い人が()の令嬢だとわかったのは、私の能力によるものだと説明してね。

 私が本当に会いたくないのは、令嬢じゃなくて兄達の方だけど……とは、言えない。だって、もうヘルではないのだから。会ってしまったら、また暗闇に戻されそうでーー怖い。


 さて。

 婚約話は終えたので、お互い後始末に向かう事にした。ジェラール殿下は、枢機卿がいる自分の国へ。私は、勿論この国のヌヴェール伯爵の元にね。



 ◇◇◇◇◇



「ヌヴェール伯爵に加担していた者達は、全てあぶり出しました。私が始末してしまったのでも良かったのですがーー。」


 始末って……。ガルシアが言うと冗談に聞こえない。


「いつもの様に、お父様にお任せしましょう。」


 証拠と当人達を捕らえてあるのだから、罪状に合わせて罰を決めるのは私達の仕事ではない。それよりも、やらなければならない事があった。

 

 婚約が正式に決まり、近々ジェラール殿下が挨拶にやって来る。

 その前に、ジェラール殿下の評判を上げておく。あちらの国では、残念な第二王子の方が動き易いだろうけど、私が嫁ぐ先なのだから帝国の人間には一目置かれる存在にしておかなければ。でないと、例の純愛ストーリーをすんなり受け入れて貰えない。


 手始めに、可愛いオードリックにジェラール殿下を認めさせないとね。

 

「ねえ、ガルシア。ジェラール殿下の剣の腕はどうかしら?」


「なかなかの技量の持ち主かと。相当な実戦も……いえ、鍛錬も積んでいるのではないでしょうか。……それがどうかなさいましたか?」


「オードリックに殿下を認めさせるなら、手っ取り早く剣を合わせてみたらどうかと思って。」


 この国では『剣筋には性格が出る』と、言われている。私には理解できない類の格言が色々とあるのだ。昔から血気盛んな者が多い国だったのだろう。だからこそ、騎士や剣士を志望する者が多いのも頷ける。

 戦争ではなく、競技としてなら大賛成だわ。


「成る程。オードリック殿下はお若いながらも、セレスティア殿下を除けば帝国一の魔力の持ち主です。剣の稽古にも余念がありませんし、良い感じの対戦になるのではないでしょうか。」


「では、オードリックに話してみましょう。それからかしらね、ジェラール殿下に連絡をするのは。」


 早速、ガルシアを連れて滅多に行く事のない訓練場へ向かうことにした。ちょっとその前に……訓練場を見下ろせる、城の二階にあるバルコニーへ出た。剣を打ち合う音や、掛け声などがよく聞こえる。


 正に訓練真っ只中ね。

 

 基本、戦死した者は私の屋敷には来なかった。そのせいか、体格の良い男らしい人間には慣れていないので、接し方が分からず苦手だ。あくまで、好意的にと言う意味でね。敵なら、別に問題ない。


 だけど、ガルシアは特別……だってガルムだし。

 ふと、斜め後ろを見ればガルシアと目が合う。うん、安心する。


「ところでーー。訓練場からこちらを物凄く睨んでいる、あの人物は誰かしら?」


 さっきから、刺すような鋭い視線が向けられている。私にと言うより、ガルシアに。


「ああ、あれはヴァレンティン侯爵家のご子息です。セレスティア殿下の婚約者候補の一人でした。……身の程を知らない人間です。」


 へ? 

 侯爵令息なら身分はかなり高めよね。身の程って……ああ、皇女ではなく()()相応しくないと、ガルムが判断したのね。

 おや? 

 では、ガルム的にジェラール殿下は許容範囲だったのかしら。ちょっと、殿下の好感度が上がったわ。


 ――それから。


「あの訓練場の入り口に隠れている2人の人物を調べて来て。」


 死角の影になっている場所から、やはり此方を見ている者が居る。これは、私に向けて。しかも、ちょっと嫌な感じだわ。


「はっ!」と、ガルシアは下がると直ぐに戻ってきた。報告は後で聞くとして……だいぶ皆からの視線が私に集まったわね。


「では、下へ参りましょう。皆に、ジェラール殿下との婚約話を広めないとねっ。」




 

 

 


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