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4.最悪だわ

本日二話目の投稿です。

 まさか、私達の跡をつけていたのがジェラール殿下だったとは……。

 大方、ドレファンス国の諜報員がこの件を探りに潜り込んでいるのだと思っていた。だって、気配消すのも上手だったし、隠蔽の魔法まで発動するなんて。諜報員ならそれ系の魔道具は与えられていると思うじゃない。


 あぁ……ただの諜報員になら、私達の正体だけ隠すようガルムに脅してもらって、情報提供をしようと思ったのに。王子本人じゃ意味がない。後ろの護衛は、王族の影だったのね。


 ……最悪だわ。

 フードを取らずに、逃げればよかった。


「まさか、こんな場所でセレスティア様にお会いできるとは。これは……私達は運命で結ばれているのかもしれませんね。」

 自分の護衛を下がらせると、キラキラの笑顔を浮かべて一歩前へ出る。


 白々しく言ったジェラール殿下を、じと〜……っと見た。後半の部分は嘘だ。よくもまあ、この状況でその口説き文句を言ったものだわ。今から逃げるわけにはいかないので、話すしかないと諦めた。

 

 ――いつの間にか遮音結界が張られたし……ね。


「私も、まさかジェラール殿下が諜報員の真似事をなさっているとは、夢にも思いませんでしたわ。聡明でいらっしゃる殿下からの婚約のお話……私には勿体なく、到底お受けできませんわ。お断りするお詫びと言ってはなんですが、今回の()()()についての情報をお渡しいたします。」

 

 ニコッと微笑んでから、はっきりした言葉を返す。どうせ断るのだもの、こんな場所で社交界的会話は無意味だ。


 まさか、断られるとは思っていなかったのだろうジェラール殿下は、大きく目を見開くとボソッと呟いた。


 ん?『……またか』って聞こえた。


 王子がそうそう振られるわけ無いし、聞き間違いかしら……?

『またか』じゃなくて『まさか』って言ったのね、きっと。そんな事を考えていたら、ジェラール殿下からもストレートな質問がやってきた。


「先程のやり取り、セレスティア様は何か特殊な能力をお持ちなのでしょうか? それに、ガルム……ただの護衛には思えません。」


 会話も聞かれていたのか。


「ガルム……は、潜入用の名前ですわ。普段は、私の護衛騎士をしているガルシアと申します。この者は、とても強く信頼が出来るのですよ。私は、少々の魔法が使える程度ですから。」

 チラッと、ガルシアに視線を送ると外套を脱ぎ正式なお辞儀をした。


「ほう! 素晴らしい人材ですね。私の国の辺境の地にも、ガルシアの様に強い()()を持つ者がおります。」


 兄様ね、それはフェン兄様を指しているのねっ!

 ぐぅぅ……従者ではなく、従魔でしょうが。この王子、侮れないわ。ガルムがただの人間ではないと判断したのね。


「ぜひ、セレスティア様には私の想いをお受け取り願いたいのです。私は、貴女をもっと知りたい……。」


 真剣に見詰める表情は、とても魅力的だった。これが、普通に出会った男女ならねっ。


「ジェラール殿下、演技はもう結構です。」


「……何を仰っているのか理解が出来ないのですが?」

 笑顔を崩さない王子の瞳の奥が鋭く光った。


「私の能力は、人の嘘が判るのです。ですから、演技は無意味なのですわ。ジェラール殿下は、お好きなご令嬢がいらっしゃる……そう、お見受けしました。」

 これは、ガルシアからの情報ですけどね。


 ピクッと笑顔が強張った。図星を指され、一瞬だが動揺をした様だ。


「そこまで、見抜かれているとは思いませんでした。それでは、正直に交渉させて頂きます。」


 ――フッと、表情が変わった。

 今迄とは違うキラキラしてない大人びた表情。

 

 こっちが、本当の顔。あら……好みだわ。


「……交渉ですって?」

 やはり、この婚約話には何か思惑があったのね。


「我が国で、看過できない事態が起ころうとしています。そして今回のこの件も、その中の一部の勢力によって引き起こされました。このままいけば、此方の帝国と我が国の戦争も起こるでしょう。私は、ドレファンス国を……いつか民が平和に暮らせる国にしていきたいのです。」


「……平和?」


「はい。その為にも、帝国と我が国の関係性を友好的かつ強固なものにしたいのです。」


「では、ジェラール殿下は王太子になる事をお望みなのですか?」


「いいえ。国王となる兄を支える事が私の望みです。」


 真っ直ぐな言葉に嘘は無かった。

 いいんじゃない、それ。うん、いいわ!

 

「ですが、殿下には……思いを寄せている令嬢がいらっしゃるのではないですか?」

 国の為に諦めるのか、それとも側室にするつもりなのだろうか。


「もう、振られておりますので。」

 長い睫毛を伏せて言った。

 

「はい?」

 嘘ではないのは判ったのに、思わず疑問形で応えてしまった。


 普通に考えて、自国の第二とはいえ王子から告白されて断れるのだろうか?……あ、そうか。普通じゃないのだわ、辺境の令嬢は。多分だけれど、ジェラール殿下は無理強いしない、そんな気がした。

 さっきの『またか』は、聞き間違いでなかったのだ。


 其れはさておき、女性の喜びってのには興味があったが、平和と天秤にかけるなら――私が最優先するは完全に平和の方。あの暗闇に引き戻されない為なら……。嫁でもなんでも行ってやりましょう。


「ジェラール殿下、その交渉内容を詳しく教えて下さいませ。それから、私の出す条件をのんで頂きます。」


 ――そして、詳しい交渉を始めた。

 

 

 


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