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2.隣国調査よ

お読み下さり、ありがとうございます。

本日二話目の投稿です。

「姉上っ!」


 剣の稽古をしていたと思われる格好のまま、弟であるオードリック皇太子が血相を変えてやって来た。サラッとした金髪は私とは似ていないが、瞳の色は同じ。私に懐いている、ひとつ年下の弟だ。ヘルの時は、二人の兄はいたが弟は居なかった。しかも、可愛いには程遠い見た目の兄達。

 だから、オードリックが可愛くてしょうがない。


「あら、オードリック。どうかして?」

 思わず顔が綻ぶ。

 

「どうかしてじゃ、ありませんっ。姉上が、ドレファンス国の……その……婚約の……」


 急にしどろもどろになる弟は、先程の婚約の話を何処からか耳にしたのだろう。


「それだったら、お断りして頂くようにお願いしたわ。」


 明らかにホッとした顔になったオードリックは、饒舌じょうぜつになる。

「それは、安心致しました。ドレファンス国の第二王子の評判は良くありません。特に女性に対しては……」


 おや?

 オードリックの言い方では、まるで女性に対して節操の無い人間の様に聞こえる。寧ろ逆、あれは面倒なくらい一途な人間だ。だから、私は願い下げ……。ん?


「ねえ、オードリック。ジェラール殿下について詳しく聞かせて欲しいわ。」


 ――興味が湧いた。


 向こうの国との行き来のある、商人の知り合いがいる騎士団員が噂をしていたらしい。沢山の令嬢と浮名を流している、無節操な馬鹿王子なのだと。あくまでも噂であり、公にそんな事を言う者はいない。この時代も、王族批判などバレたら大変だから当たり前なのだけど。


「面白い噂ね。……ジェラール殿下に興味が出ちゃった。」

 ボソっと言ったら、「えっ!?」とオードリックは青くなった。


「ふふ、冗談よ。オードリック、訓練中ではなかったの?」と、ニッコリ微笑む。


 ハッとしたオードリックは、挨拶をして慌てて戻って行った。

 それを見送り、自分の部屋に着くとガルシアを呼んだ。


「ジェラール殿下について調べて。出来るだけ、裏の情報までね。」


 ガルシアは、驚いた様に眉を上げた。

「……婚約は断られたのでは?」


「ええ、断ったわ。ただ、ちょっと興味深いのよ彼。……多分、自分で変な噂を流しているのではないかしら。そうなると、婚約の話にも意味がある気がするの。」


「成る程……ヘル様の勘がそう仰るのですね。では、その様に。」

 ガルシアは、スッっと部屋から居なくなった。



 ◇◇◇◇◇


 

 ガルムは私のパートナーだった。伴侶ではなく仕事のね。屋敷から逃げ出す死者を、逃さず連れ戻すのが役目。決して失敗などしないわ。見た目は獰猛だったけど、私が唯一心を許せる相手。(だれ)の計らいかは知らないが、また一緒にいられる事に感謝だわ。

 そんなガルムが転生したガルシアは、目の保養にもなるし……とても頼りになった。


「やはり、そうだったのね。」


 どうやって調べたのかは聞かなかったが、ガルシアもガルムの能力を引き継いでいたようだ。


 ジェラール殿下は、具合の悪い兄である王太子の為に色々と裏で動いている。悪い噂で自分の優秀さは隠して権力争いを回避し、さらに自国の悪習や膿出しを行っているようだ。なかなかの人物ね。

 そして、ドレファンス国の辺境伯領の令嬢に想いを寄せているらしい。


 あの国の辺境の地か……。


「それって……どう考えても()()()よね?」

 違うといって欲しくて、ガルシアを見る。

 が!

「はい。あの場所です。」

 目を逸らさず言った、ガルシアの答えは容赦無かった。


 彼処は、大昔から曰くのある場所だ。魔界との入り口も有るし……何よりも兄達が居る。仲も悪かったから、会いたくないし。せっかく新しい人生を手に入れたのだから、絶対に関わりたくない!


 よし、近付かないようにしよう。

  

 ついでに、ジェラール殿下も避けると決めた。

 だが、その前にやらなければいけない事が出来たので、避けるのはその後になりそうだ。

 ドレファンス国の枢機卿とこの国の伯爵が繋がっていた。普通に関わっている程度なら別に構わなかった。奴隷密売や隣国の乗っ取り、最終的に帝国への反逆などを企んでいなければ。


「かなり大それた計画ね。」

「はい。それを、ジェラール殿下と辺境伯で食い止めようとしています。どうやら、辺境の令嬢に……あの女神とも魔王とも呼ばれた者の能力が受け継がれたようです。」

「ああ……彼女の。彼女は異世界からの転生者だったわね。」

「そうです。女神とはヘル様や他の神々の事なのに、全く人間は……っ」

「ま、呼び方なんてどうでもいいわ。」


 もしかしたら、その令嬢も異世界からの転生者かもしれない。


「それから……大変申し上げ難いのですが。その、令嬢の従魔に……」

 ガルシアの言葉に嫌な予感がした。


「……フェン兄様?」


 この人間界に居るとしたら、考えられるのは長兄だ。ざっと100年位前に、人間に捕えられた。下から見ていたから間違いではない。ええ、助けになんて行かなかったわよ。プライドの高い兄様だもの、行こうものなら冷たく追い返される。そもそも、私の方があの屋敷から助け出して欲しかったのだから……行けるわけがなかった。


「はい、長兄様が契約をなさいました。」


 長男の兄フェンリルが従魔になっていた。ちょっと勘弁して欲しい。その令嬢に恋するジェラール。私がその令嬢に恋敵だとでも思われたら、感動の兄妹の再会……チッ、絶対に関わるものかっ!

 この伯爵と枢機卿の件については、この帝国から一歩も出ずに壊滅させてやる。


 私のこの快適な人生、誰にも邪魔はさせないんだからっ。

 



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