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14.祝福

これで完結致しますm(__)m

 ――ドレファンス国民へ、結婚のお披露目の日がやって来た。


 王都の大きな通りを、豪奢な馬車に乗りパレードを行う。ひと回りしたら、宮殿へ戻ってジェラール殿下と一緒に登壇し、殿下は王太子として国民へ向けて宣誓するのだ。


 真っ白なウエディングドレスに身を包み、ジェラール殿下から贈られたアクセサリーをつける。


 少し前の時代の貴族は、色付きのドレスが多かったけど……。殿下は白が好みなのかしら? まあ確かに、国民に見てもらうのだものね。これなら殿下の瞳の色の魔石がより際立つわ。


 左手の薬指に嵌めた、翡翠色の魔石が埋め込まれた指輪を眺める。


「セレスティア、準備はいいか?」

「はい、大丈夫です。」


 正装をしたジェラール殿下が迎えにやって来た。上から下まで、ジッと見詰めると「……美しいな。」とだけ言った。本心からの短い言葉。


 照れるわ。


 華やかに彩られた街並は、正にお祝いムードだ。馬車の中から、国民に手を振ると更に歓呼の声が上がる。ジェラール殿下が、王太子として国民に支持されているのがよく分かる。


 歓声の中、馬車から降りエスコートされて登壇する。


 ーージェラール殿下が国民へ向けて話そうとした時だった。


 突然、青かった空が薄黒い雲で覆われた。

「こんな時に雨か?」と、小さく殿下は呟く。


 雨雲なんかでは無い。

 暗い、闇がやって来る。


 ……何で!?


 全身が粟立ち、ガタガタと震えが止まらない。思わずジェラール殿下の袖を掴む。


 ……嫌だ、嫌だ嫌だ……嫌だっ!


「……大丈夫か?」と、心配そうに私を見た殿下が言った。

 すると、震える手を優しく握ってくれた。けれど、恐怖で声が出せない。


 ――その時、全てが暗闇に包まれた。

 

 国民は、突然の闇に一気に静まりかえったかと思うと、徐々にザワつき出す。……混乱して悲鳴を上げる者も居た。


「落ち着くのだ、皆の者っ。大丈夫だ、この国は何があっても私が守るっ!!」

 ジェラール殿下の、怯みの無い大きな声が闇に響き渡ると、国民はシーーン……となった。


「セレスティアも、私が守るから安心しろ。」

 私にだけ聞こえる声で言うと、握った手に力を入れた。


 そうだ……まだ、連れ戻されると決まった訳ではない。ギュッと、殿下の手を握り返す。

 顔を上げて、静寂に包まれた闇を見据える。

 ジェラール殿下と……離れたくない。ただ、それだけだった。


 次の瞬間、遠くから咆哮が聞こえた。


 ――んんっ!? ……咆哮?

 

 暗闇から一筋の光が、此方に向かって飛んでくる。

 それは、どんどんと大きな光となり、国中を明るく照らした。

 まるで、空に現れた何色にも輝く光のカーテンの様に。


 いったい、何が起こってるの?

 

 そして、そのカーテンから……私とジェラール殿下だけに、キラキラとした光が降り注いだ。


「「女神様からの祝福だー……っ!!」」

 誰からともなく、国民がワーっと歓喜の声を上げる。辺りは歓声に包まれた。


 歓声と光の中、ジェラール殿下は国民に向けて言葉を述べた。ずっと、私の手を握ったままで。

 そして……締めくくりに


「セレスティア、私と共にこの国を守って欲しい。……愛している。」


 まさかの、国民の前でプロポーズをされた。それも、嘘偽りの無い言葉で。


「はい。どこまでも、殿下について参ります。」


 目頭が熱くなる。この胸の苦しさは、あの時の痛みに似ているが……とても幸せなものだった。

 私は、いつの間にかジェラール殿下を愛していたのだ。


 またしても、大きな歓声が上がる。王太子として、その声に応えるかの様に、私を抱き上げると降壇した。

 


 ◇◇◇◇◇



「あの……そろそろ下ろして頂いても?」


 いくら鍛えているとはいえ、重くは無いだろうか?


 未だ、抱き上げられた状態で移動していた。以前通った通路なのか、お付きの者が誰も居なくなった。


「嫌だ。」

「はい?」

「やっと想いが通じたんだから、暫く好きにさせろ。」

「なっ……。」


 ニッとジェラール殿下は子供の様に笑った。


「……辺境伯令嬢は、もういいのですか?」

 つい反発したくなって、本当は聞きたくない事を聞いてしまった。


「惹かれていた。けれど、多分それは……もう一人の私の想いに引き()られていた様だ。」


「もう一人って……」

 あの魂の存在を知っていたのか。


「そんなに驚くな。これから先、セレスティアには私の事をちゃんと知って貰う。何と言うか……色々あったのだ。まあ、()()の兄達に比べたら、大した事では無いが。」


「……んぇっ!? い、今、何と!?」

 自分の耳を疑った。


「先程のは、ヘルの兄達とその令嬢の仕業だ。暗闇になる瞬間に眼が見えた。それに、あの咆哮に祝福……。全く、してやられたな。大方、国民は癒しでも与えられたのだろう。」


 そうか……私は暗闇への恐怖で、混乱して何も分かっていなかった。道理で、ガルシアが動かなかった訳だ。

 

 暗闇に引き戻されなかった安堵で力が抜ける。


 いや、ちょっと待って。それよりも、ジェラール殿下は私をヘルと呼んだ!? しかも、兄達って!


「セレスティアでも、そんな表情をするのだな。」と、可笑しそうに言って、私を下ろした。


「だって……」

 視界が涙で歪む。……もう何が何だか理解出来ない。


「ちゃんと、()()兄達にも認めてもらったんだ。私はセレスティアを幸せにするからな。」


 ――そして、私を強く抱きしめた。


「これは、女神との誓約になってしまいますよ。本当にいいのですか?」

 もう、女神じゃないけど。嘘の無い言葉を聞きたくて、意地悪を言った。


「任せておけ。お前を離さない。」

 そう言って微笑むと、優しく唇を落とした。



 ◇◇◇◇◇

 


 ジェラール殿下はのちに国王となり、この日の出来事は後世にも語り継がれた。

 国の平和を築き上げ、女神に祝福された仲睦まじい国王夫妻がいたのだと。

 

 

 

お読み下さり、ありがとうございました。

誤字脱字報告、いつも助かっております!

ブックマーク登録、評価もありがとうございました。

これからの励みにさせて頂きますm(__)m



以下、活動報告に載せていた小話です。

  ↓↓↓


『おまけ 』〜ガルム視点〜



「お二人から直接お祝いの言葉を頂いたら……きっと、ヘル様はお喜びになると思うのですが」


 盛大にサプライズをした、フェンリル様とヨルムンガンド様に恐る恐る言ってみた。


「何を言っている、ガルム。ヘルは素直ではないから、直接会わぬ方が良いのだ」


 そう言ったのは、長兄フェンリル様。


「そうだよぉ〜、ガルム。ヘルは困った顔が、可愛いんだからさぁ。僕らが近くに行ったら、ジェラールとイチャイチャし難いでしょう? ほら、すっごく真っ赤になっているよ〜!」


 次兄のヨルムンガンド様は、確実にヘル様の戸惑った様子を楽しんでいる……。


 なんだかんだ、お二人は妹のヘル様が可愛いくて仕方ないのだろう。

 こんな木の上で、私と一緒に見守る位なら……素直に「おめでとう」って言えばいいのに。


「ガルムはさ、ジェラールにヘルを取られちゃって、寂しいんじゃないのぉ? せっかく、同じ人間になったのにさぁ」

 

「寂しくないですが」と、答える。


「強がり言っちゃって〜」

「我らの前で無理する事はない」


 ……この方々は、何を言っているのだろうか? 


「強がりではありません。ヘル様と私は伴侶よりも深き絆の……主従関係。何度生まれ変わっても、私にとってヘル様は尊き存在です。ですからっーー私は、これから先もずっとヘル様の番犬なのです!」


((ずっと番犬っ!? それでいいのか、ガルム!?))


「あ……うん。それは、誰も敵わないね」

「……これからも、ヘルを頼む」


「はいっ、お任せ下さい!」


 どうやら私も、お二人に認められたようだ。


 ――誇らしそうに言ったガルシアに、複雑な笑みを浮かべる二人だった。


 

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