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13.これは何?

「まさか、ヨル兄様が関わっていたとはね……。」


「申し訳ありません。……私が不甲斐ないばかりにっ!」


「あー。ガルシア、大丈夫よ。ヨル兄様には私でも敵わないから。お兄様に関わり過ぎると、普通の人は精神がやられるわ。」


 ガルシアからの報告を受けて、城の鋸壁(きょへき)に登って辺境の地の方角を見ていた。

 あんな兄でも……大丈夫だと言うなら、ジェラール殿下は大丈夫なのだろう。

 

「一体、何が起こるのかしらね?」

 

 そう独り言のように呟いた時だった。辺境の地の方角から、眩い光の粒子が一部の場所からフワフワと、溢れ出したかの様に輝き出した。

 やがてそれは二本の閃光となると、天に向かって勢いよく昇って行く。


 何が起こっているの……!?


 瞬きするのも忘れて、ひたすらその光を凝視する。


「……あれは、2つの魂よね?」


 お願い、違うと言って。


「はい……そのようです。」


 ガルシアの返答に、嫌な想像が頭の中をグルグル巡る。


 ――誰の魂? 


 胸が、苦しい……今まで感じた事のない痛みに、息が出来なくなった。

 ふらっ……と、倒れそうになった私を即座にガルシアが支えてくれる。


「……ねえ、ガルシア。私、とても胸が苦しくて痛いの。これは、何?」


「それは……」と、言いかけたガルシアは私を見ると、キュッと口を結んだ。

 そして、黙って頬を伝う涙を拭ってくれた。


 ――私は泣いていたのだ。


「ヘル様、申し訳ありません。私には()()()()()()()分かりません。……ですが、今からジェラール殿下の安否を確認して参ります。」

 それは、ガルムとしての返答だった。


 それだけ言うと私を部屋まで送り届け、ガルシアは彼の地へと向かった。



 ――翌日の夜。


 戻ってきたガルシアからの報告に、胸を撫で下ろした。

 ジェラール殿下の安否の他に、色々と調べてきたそうだが特に変わった事は無かったそうだ。辺境の地の人間を含め、亡くなった者は居なかったと。


 では、あれは誰の魂だったのだろうか。



 ◇◇◇◇◇


 

 それから半月が過ぎ、ジェラール殿下がやって来た。相変わらず、疲労を溜め込んではいたが特に変わった様子は無かった。

 

 定例のお茶会も続いている。


 前に、眠り込んでしまったのを気にしているのか、その後は頑として眠らなかった。

 あれを目の前でやってしまったら、私の存在が普通の人間とは()なものだと気付かれてしまう。仕方ないので、お茶に私の魔力を流して、身体の中の病の元は叩いておいた。

 

「このお茶には何か入っているのか?」と、体調が良くなったジェラール殿下は不思議そうに聞いてきた。


 全く、本当に勘がいい。


「ふふ、これは外国から取り寄せた茶葉で、疲労回復に効くのです。」と、誤魔化しておいた。


「そうなのか、それは良いな!」

「私がそちらの国に行く時には、持参いたしますわ。」


 いつしか、この何気ない茶会が楽しみに変わっていた。


 ――ただ、あの時感じた痛みの正体は未だに解らない。



 ◇◇◇◇◇

 

 

 ドレファンス国の国王陛下に謁見する日がやって来た。

 

 迎えに来たジェラール殿下と一緒に向かう。

 かなりの距離を馬車移動だと思っていたが、ガルシアの報告にもあった転移陣を使い短時間で到着できた。これなら馬車での行き来も辛くない。


 国王陛下の第一印象は、お父様に良く似ていた。


 人は悪くないが……この国が成り立っているのは、ジェラール殿下の存在がとても大きいのだと感じた。何故あれ程までに、殿下の仕事量が多いのか分かった気がする。


 無事、謁見も終わるとジェラール殿下の私室へ向かった。


「セレスティア、君に会わせたい人が居るんだ。」

 エスコートしながら、殿下はそっと囁いた。


「……会わせたい人、ですか?」

 

 いったい誰?


 部屋へ入ると、ジェラール殿下は人払いをした。室内には私とジェラール殿下、それと護衛のガルシアだけになった。

 暫くすると、殿下の机の上に置かれた魔道具が点滅した。


「来たようだな。では、行こう。」


 手を差し出され、入ってきた入り口ではなく本棚へと向かう。

 1冊の本を指で棚の中へと押し込むと、棚が左右に別れて扉が出て来た。扉に嵌め込まれた魔石に魔力を流すと、静かに開く。


 隠し扉……これも魔道具の一種なのね。この国の魔術師は、帝国よりも随分と優秀な者がいるようだわ。


 通路を抜けると、また違う扉があった。


「さあ、どうぞ。」


 ジェラール殿下が開けた扉の中には、2人の人物が待っていた。


「リーゼロッテ・フォン・エアハルト辺境伯令嬢と、従者のテオだ。」


「初めまして、セレスティア皇女殿下。お会いできて、光栄です。」


 可憐にお辞儀を披露し、美しいブロンドの髪と瑠璃色の瞳を輝かせて、ニコニコと私を見る令嬢と……驚愕の表情で固まったまま、私を凝視するテオと呼ばれた従者がいた。


 ――なっ!?


 なんでフェン兄様が……? しかも、テオって誰よっ! 普通、王太子がわざわざ従者まで紹介とかする? 意図が……ジェラール殿下の意図が解らないっ。


 私の背後で、ガルシアが凍りついたのを感じた。


 そうよね、私だって凍るわ。……逃げ出したい。

 

 こうなったら、フェン兄様は無視してセレスティア皇女として貫き通してやるわ。暗闇に戻されたくないし、ジェラール殿下に私がヘルだと絶対に知られたくない。

 

 とにかく! 皇女らしく、淑やかに……かつ洗練された仕草で振る舞うのだ。


「セレスティア、この部屋では自然体で大丈夫だ。」

 ジェラール殿下は、私の作戦を全て台無しにするような事をあっさりと言った。


 えぇーい! ちょっと待て! と、怒鳴りたくなるのをグッと堪えて、ニッコリと微笑み頷いた。絶対に、皇女の仮面は崩すものか。


 思いの外、和やかに時間は過ぎた。


 会話の内容は、フェン兄様が気になって殆ど頭に入って来なかった。けれど、この国にとって……彼女達が、どれ程重要な地を守っている者であるのかを、ジェラール殿下は私に知って欲しかったのだろう。


 ええ、知ってましたけどね。


 そして、ジェラール殿下が彼女に惹かれたのが見ていて理解できた。確かに、とても魅力的だったのだ。

 

 何だろう、胸がチクチクする。


 そして、別れ際に彼女は貴族院の卒業後には結婚をすると言った。

 

 結婚……それを聞いたジェラール殿下は、大丈夫だろうか?


 けれど、殿下の顔を見る事ができなかった。

 もしも、悲しさを堪えていたら……私は、それを知るのが怖かったのだ。

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