12.ガルシア視点
お読み下さり、ありがとうございます!
本日二話目の投稿です。
私にとって、ヘル様の言葉は絶対だ。
けれど、セレスティア殿下から離れるのは嫌だった。前回の様に、時折探りに行くのとは訳が違う。ヘル様がセレスティア殿下となった今、身体は人間……以前程の力はお持ちではない。
例え、それが人間の能力を超越していたとしても、だっ!
馬車の屋根の上で揺られながら、少々不貞腐れていた。
ジェラール殿下を乗せた馬車は、あの辺境の地に向かっている様だった。あの令嬢に会いに行くのだろうか? セレスティア殿下と婚約しておきながら。
偽の婚約者だとしても、浮気……セレスティア殿下を裏切るなら、私が許さない。
ふつふつと込み上げる物を抑えつつ、そんな事を考えていた。だが、辺境の地はドレファンス国の最果て、帝国からは一番近い場所だと思い出した。
多分、近くに……王宮に繋がる転移陣が敷いてあるのだろう。
転移先が分からなければ……場所によっては馬車の上は見つかる可能性がある。それは不味い。
……面倒だな。
今まで座っていた馬車の屋根に触れて、印を付けた。これで何処へ行っても、居場所は分かる。
馬車から飛び降りると、近くで動向を探る事にした。
予想通り、馬車がある場所に止まると転移陣が発動した。ジェラール殿下の魔力で行ったのだろう。昔から、王族の魔力量はなかなか侮れないものだ。
目を閉じて、印を追った。
やはり、王宮のあの場所か。以前、ジェラール殿下を探った時に王宮の造りは把握している。パチっと目を開けると、自分も転移した。
ジェラール殿下の部屋の窓が覗ける、木の上に。
◇◇◇◇◇
数日間、様子を見たが大した変化は無かった。
しいて言うなら、ジェラール殿下が以前とは比べ物にならない量の仕事をこなしていた位だ。確かに、これでは眠る時間も無いだろう。
一度戻ってセレスティア殿下に報告を入れるか……そう思って立ち上がった時だった。
いつもより大分早く、使用人達を払い就寝しようとしていた。具合でも悪いのだろうか?
いや、ヘル様の御力を使ったのだ。暫くは体調も良い筈だ。たまたま仕事に切りがついたので、早めに床につこうとしただけかもしれない。
けれど、……不自然。ただ、そう思った。
戻るのを止めると、様子を見続けた。
案の定、ジェラール殿下はそっと起き上がると、気配を消して動きだした。
――と、その時。
王宮の一室に、大きな魔力を二つ感じた。隠蔽されているが、私には分かる。
「……これは、あの令嬢かっ!?」
思わずカッとなり、思わず小さく声を出してしまった。
その途端。
――ぅぐっ!!
背後から凄い力で首を締め付けられた。身体中を戦慄が走る。
……な、何だっ! 気配など感じ無かったぞ!?
『だめだよ〜、ガルム。潜入中に声なんて出しちゃったら。兄上に気付かれちゃうよぉ?』
パッと、首から絡めていた腕を解いた人物は笑って言った。
『……ヨルムンガンド様。何故……こちらへ?』
全く理解できなかった。
けれど、『兄上』と仰った。
つまり、あの令嬢ともう一つの魔力はフェンリル様。そして、これから何が起こるのかをヨルムンガンド様は知っているのだ。
『それは、秘密〜。だけど、これ以上ジェラールに近付いちゃ駄目だよ。王太子に用事があるのは僕だから。』
『ジェラール殿下に用事ですか?』
『うん、そっ。だから、帰ってヘルに問題無かったと伝えなさい。……出来るよね。』
有無を言わせない圧だった。
『……けれど、私の主人はヘル様ですっ! 嘘などつけません。』
『ガルム、これはヘルを騙すのではないよ。全てヘル自身の為になるんだ。だから、僕の言う事をききなさい。』
『……はい。』
圧倒的な力の差、悔しいが――もう、逆らえない。
『そんな悲しそうな顔をするなよ〜ガルム。じゃあさ、これから直ぐに帝国に帰って、ヘルと一緒に辺境の地の方を見ていてごらん。僕はね、優しいお兄ちゃんなんだよ。』
面白いものが見れると言うと、ヨルムンガンド様は消えた。
――そして、王宮からジェラール殿下と令嬢の気配も消えていた。
くそっ!
急いで報告する為に、セレスティア殿下の元へ転移した。
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明日の二話で完結いたします。
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