表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

11.変化

 月に一度のお茶会にも、だいぶ慣れた頃。


「父上が、セレスティアに会いたいと言っているのだが……。」と、ジェラール殿下が言った。


「そうですか。そろそろだと思っていました。」


 正式に婚約者になったのだから、挨拶は必要だ。

 ただし、相手は国王陛下。陛下からの呼び出しがあって初めて謁見が可能になるのだ。

 帝国の使者を送り、ジェラール殿下によって報告はもう済んでいる。国民にも、王太子の婚約情報を流している筈だ。それも、かなり大きく噂を広めている事だろう。

 この婚約は、ジェラール殿下の計画の一つなのだから。

 

 だから、後は私がドレファンス国へ向かえば良い。遠いから、チャチャッと転移してしまいたいけれど、正式な訪問には馬車が必須。面倒くさい。


 おや?


「ジェラール殿下、だいぶお疲れのようですね?」


 常日頃から、ジェラール殿下はキラキラした偽の笑顔を貼り付けている。珍しく、今日はそれに綻びが見えた。

 いつか見た表情……そう、大人びた感じがする。


「本日は此方のサロンですから、ゆっくりされて大丈夫ですよ。」


 ここは私専用のサロン。人々を呼んで社交場にする大きく華やかなサロンではなく、私個人への来客の為にある。

 まあ、滅多に客人は来ないけどね。座り心地のよいソファー、派手すぎない内装、私好みに改造済み。中に入れる侍女も限られている。

 ソレンヌを下がらせ、ガルシアを呼んだ。

 

「……ありがとう、セレスティア。」

 疲れた顔にフッと笑みを浮かべると、ソファーに腰を下ろして目を閉じた。


 王太子になってから殆ど眠っていないのだろう。ジェラール殿下からは、回復薬の香りがした。きっと回復薬を常用して、無理をしているに違いない。


 全く、仕方ないわね。これでは、病に(むしば)まれるのも時間の問題だわ。


 殿下に近付くと、手を(かざ)して病の元となる物を取り去る。これは、ヘルの力。人間……よく聖女とかよばれている者達が使う、光の魔法を用いた癒しとは別物だ。

 これで、目が覚めれば、疲労も消えているだろう。寄っていた眉根から力が抜けたのが分かる。


 本当、綺麗な顔をしているわね。何気なく寝顔を見てしまった。……んん?

 

「これは、どういう事かしら?」

 思わず顔を近付ける。


「何かございましたか?」

 ガルシアが怪訝そうに、ジェラール殿下を見た。


「殿下の中に、もう一つの魂が見えるの。」

「……魂ですか?」

「そう。ほんの僅かなものよ。まだ、目醒めていないわ。」


 一人の人間の中に魂が二つあるのは……普通なら有り得ない。私の管轄は死者だった。つまり、肉体ではなく対象となる魂をずっと管理していたのだ。一つの魂が、別の身体に生まれ変わっていくなら理解できる。ガルシアはそれだ。


 私とセレスティアの場合は、本来の彼女の魂が無くなったから私が覚醒した。ジェラール殿下も同じだろうか?


 それとも、この魂……何か特殊な魔法を過去に使っていたのか?


「以前から、ジェラール殿下の中に二つあったのでしょうか?」

 

 ガルシアの質問に、首を横に振った。


「分からないわ。何度か、恋人の様に見詰める演技はしたけれど、その時には見えなかった。今……殿下が眠っているから、分かっただけかもしれないし。」


 もしかしたら、この魂が覚醒しようとしているのだろうか?


 そうなると、本来のジェラール殿下が消えてしまう可能性がある。この魂が、平和を求める者とも分からないわ。

 ……それに、今のジェラール殿下は嫌いじゃない。


「ガルシア、暫くの間……暇を与えます。ジェラール殿下を見守りなさい。」


「……しかし。」

 ガルシアは唇を噛みしめた。ガルムにとって、私の命令は絶対だ。


「私はこの城から出ないから大丈夫よ。オードリックも居るし、いざとなれば魔力を解放するから。その時は、直ぐに戻って来なさい。ま、私を倒せる人間なんていないでしょうけどね。」


 ニコッと微笑むと、ガルシアは頷いた。


「承知致しました。」と、言った。

 そして、直ぐに別の護衛の手配をする為、部屋を出て行った。


 ソファーで、スヤスヤと眠るジェラール殿下を見詰めた。


 ……ジェラール殿下。貴方は、セレスティアのように消えてしまってはダメよ。

 そっと、美しい寝顔に触れた。


 

 ◇◇◇◇◇



「セレスティア、本当にすまなかった!」


 漸く目が覚めたジェラール殿下は、うっかり眠り込んでしまった事を詫びた。


「相当無理なさっていたのでしょう? お気になさらず。少しは楽になりまして?」


 私が病の元を取ったのだから、深い眠りに入って当たり前。必死で謝る姿が面白かった。


「あ、ああ! 驚く程に身体が軽い。セレスティア……もしかして癒しが使えるのか?」


 やはり、ジェラール殿下は勘がいいわ。

 でもね、事実は言えない。


「私に、光属性の魔力はありませんよ。きっと、寝不足が解消されたのですわ。これからは、ちゃんと睡眠は取って下さいね。」

 そう医者の様な事だけ言っておいた。


 少し照れくさそうに笑った殿下は、自国へと帰っていった。馬車の屋根の上にガルシアを乗せて。


 ーーガルシア、頼んだわよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ