10.ジェラール視点②
本日二話目の投稿です。
どうして、私はこうも手強い女性にばかり惹かれてしまうのだろうか。
模擬戦の打診が来た時には驚いた。
しかも、魔道具に書かれた内容……。どこをどう調べたら、その地位の人間の悪巧みをあっさりと見破れるのだろうか。
――あの枢機卿達の件にしてもそうだ。
何となく、セレスティアを驚かせてみたくなった。
皇太子のオードリック殿下に使いを出し、やり取りを開始する。以前見かけた時は、まだ幼さの残る少年だったが、連絡を取り合ううちに実際に剣を交えてみたくなった。
だから、皇帝陛下に許可をとった上で、一日早めて帝国入りをする事に決めた。
勿論、セレスティアには秘密で。
会って挨拶を交わすと、オードリックはセレスティアに話を聞くまで誤解をしていたと、素直に謝ってきた。
なんて……真っ直ぐな良い奴じゃないかっ!
剣を交えると、更に意気投合した。
それから、正式な挨拶を皇帝陛下にする為に、セレスティアを迎えに行った。
丁度、正面からやって来たセレスティアは、私を見つけると明らかに驚いた様だ。そして、甘い言葉で婚約者の演技を誘うと、賢い彼女は乗ってきた。
これが、演技でなかったら良かったのにな……。
思わず、見上げてきたセレスティアの頬に触れてしまった。何だか、胸が熱くなる。
……愛おしいとは、こんな気持ちなのだろうか?
未だ心の隅には、辺境伯令嬢のリーゼロッテが忘れられずにいる。ただ、それは彼女を目の当たりにすると、湧き上がる感情。初めて会った時からそうだった。まるで、自分が自分でない様な……。だが、離れていれば然程でもない。
彼女が好きな相手と結ばれる、その手助けまでしてしまうのだから。
けれど、自分ですら理解出来ない感情を……人の嘘を見抜く力があり、私に向かって好きな人が居るのだろうと言い切ったセレスティアに、どう説明したら良いのか分からない。
私に触れられ、動揺の色を見せたセレスティアを……抱きしめてみたかった。
しかし、まだ正式に婚約が成立していない。嫌われたくなかったので諦めると、皇帝陛下の元へ婚約の挨拶に向かった。
挨拶と契約を正式に済ませ、庭での茶会という名の打ち合わせを行うと……それは、またもや唖然とさせられる内容だった。
これは、もう一度オードリックと打ち合わせが必要だ……。
――そして、模擬戦は作戦通り上手くいった。
自分自身、セレスティアの驚く顔をまた見られて満足だった。
本当、セレスティアは見ていて飽きない。
◇◇◇◇◇
自国へ戻り、枢機卿らの企みや……黒幕を全て捕らえる事が出来た。辺境の地の者達の協力によって。
――結果、私が王太子になった。
婚約者であるセレスティアにも関わる重大な事だ。だからこそ、言葉を慎重に選び王太子になった事を告げようとしたのだ。
何故かその雰囲気から、セレスティアは婚約破棄を言い渡されると思った様だ。
それも、とても嬉しそうに顔を輝かせて。
あー、参った。
婚約破棄ではなく……私が王太子になったので、セレスティアが将来王妃になると告げると、明らかに嫌そうな顔をした。
――っく! いくら何でも、傷つくぞっ。
確かに、この婚約はお互いの利害が一致した契約だ。
ただの第二王子としてなら、白い結婚……触れ合う事のない偽装結婚でも問題無かった。だが、次期国王となればそんな訳にはいかない。
だから、セレスティアが婚約を望まないなら……当初の契約と内容が変わってしまった時点で、婚約は白紙に戻してもいいと考えていた。
……それなのに。
セレスティアの顔を見たら、意地でも手放したくなくなった。例え、それが白い結婚だとしても。
過去に一人だけ……ある女性だけを想って妃をとならかった王が居たと、聞いた事がある。殆ど当時の資料が残っていないので、詳しくは分からないが。確か、弟王がその跡を継いだ筈だ。
だから、子が作れなくとも……その過去の事例があるのだから大丈夫だろう。
幸い、兄上は廃嫡されたが関係は良好だ。公爵令嬢との婚約にも変わりはない。
だから、つい言ってしまった。
「すまない、セレスティア。けれど……婚約破棄は絶対に出来ないのだ。」と。
神妙な面持ちで考えこむセレスティアを見たら、切なくなった。
また、これも片思いで終わる予感がする……。
当初は、国の為に皇女と結婚すれば良いと思っていた。契約では無く、ただ普通に求婚して……いつもの様に、甘く囁けば簡単に受け入れられると。
まさか、これ程までに想像の斜め上を行く皇女だとは思いもしなかった。辺境伯令嬢も相当だと思ったが、セレスティアも負けてはいない。
そして、二人共……恐ろしいまでの強さを持った護衛が付いている。
ガルシアは、感情を表に出さないので、何を考えているのかよく分からない。けれど、セレスティアの為ならば躊躇なく死をも受け入れる……それだけは、分かった。それをセレスティアも、知っている。
――絶対の信頼関係。
まるで従魔のようだが、その関係性には嫉妬してしまう。
セレスティアは、「私が嫌か?」と言う質問に対して答えをはぐらかした。
しかし、暫く考えた後……彼女は言った。
「いいえ、何でもありません。契約は続行しましょう。」
何故か、スッキリと迷いの無い表情で。
もっと……セレスティアを知りたい。ただ、それだけ思った。




