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1.目醒め

多少、本編のネタバレ的な流れはありますが、こちらだけでも楽しんでいただけるようにしたいと思います。

よろしくお願いいたしますm(__)m

 目蓋の裏に外の明るさを感じた。


「んーっ! よく寝た。」


 重たい目を開くと、いつもよりスッキリとした気分がする。よく見れば、キラキラ眩ゆい日差しが入るド派手な部屋の中に居ることに気が付いた。


「げっ!」


 こんな光の中にいたら、頭痛と恐ろしい程の肌荒れに襲われる。慌ててフカフカの羽布団を被って潜る。

 

「……あれ?」


 ちょっと待って、この状況は何なのかしら?


 いつものジメジメした暗闇は何処へ行ったのか。決して、それが好きな訳ではないが、老衰や病いを司るのが私の仕事だ。戦死を誇りとした時代、老衰や病死して館に来た者を平等に管理する。当然ながら、平等とは人間にとってでは無い。そう、私は女神ヘル……の筈。邪悪とか、地獄の支配者とか、勝手なことばかり言われている……ただの管理職なのに。文句は最高神(上司)に言って欲しい。


 恐る恐る布団を剥ぐと、視界に入るのはやはり見た事もない部屋だ。

 日差しを受けても肌が痛く無いので、ベッドから飛び降りて姿見に自分を映した。


「誰だ、これは?」


 見事な銀髪にブルーの瞳、肌は白く陶器のようだ。年は13〜4歳位だろうか。部屋を見渡せば、明らかに身分が高い人間が住まう場所だと分かる。スカートをまくり上げればやはり白くて美しい脚がある。


「黒くない?」

 思わず、息を呑む。


 それは、死んでしまった筈の……黒ずんだ足ではなかった。スカートを摘んだままピョンピョン飛び跳ねてみれば、なんて軽く動けるのかと驚いてしまう。


 ノックと共に誰かがやって来た。


「皇女殿下! お目覚めになられたのですね……本当にようございました……まぁ! なんて格好を!?」

 

 涙ぐんだかと思ったら、今度は甲高い声で喚く女。服装からして侍女だろう。


「ごめんなさい、足に違和感があったものですから。」


 パッとスカートを離すと、ニコッと笑いかけてみた。笑顔なんて一体いつからしていないのか分からないが……どうやら自然に出来たらしい。

 侍女は、ポーっと見蕩(みと)れたかと思うと、ハッと我にかえり足の心配を仕出した。大丈夫だと(なだ)めて、今の自分の状況を把握すべく探りをいれた。


 どうやら、私はこの帝国の第一皇女らしい。帝国と言えば、戦いを好み領地を増やしていく……私の嫌いな場所だ。


 何故かって?


 それは、戦死した者を讃え、病死や老衰を悪と考えて、私の屋敷に追いやり私に管理をさせるから。平等に死者を管理するって結構大変なのよ。

 そもそも、全ての死者が平等に天国の方へ行ってくれたら、私の仕事は無くなって解放されるのに。そう幾度となく考えたが、無理だった。


 あら? じゃあ、なんで私は此処に居るのかしら?

 

 考えられるのは一つだけ。そう、私の管理する者が居なくなった……人々の思想が変わり、対象者が天国行きになったのだわ。

 だから、私は生まれ変わった!! 


 そう考えたら合点がいく。舞い上がりそうな程嬉しくなった。これからは、自由に生きられる。思わず、部屋の中をダンスするかの様にクルクルまわる。

 おっと、侍女の視線が鋭くなった。ピタリと足を止めて大人しく座ると、ふと思う。


 ちょっと待った。

 

 此処は帝国……もしも、また以前の様に戦死が最高なんて事になってしまったら、また私はあの屋敷に引き戻されるのではないのかしら?


 それは絶対に、嫌。

 ならば、全力で阻止しなければ。

 

『ガルム、来なさい。』


 取り敢えず、侍女が居なくなった頃合いを見計らって愛犬を呼んでみた。気配があるから、近くに居るだろう。


 ーートントン。


「失礼致します。お呼びでしょうか、セレスティア殿下。」


 扉を開けて入って来たのは血塗れの獰猛な番犬では無く、立派な騎士服を身に纏った容貌魁偉(ようぼうかいい)の青年だった。

 しかも、感極まったのか瞳を潤ませると、こちらにやって来て膝をついた。


「あら、貴方も人間に?」

 

「その様です。今はガルシアという名前で、気付いたらこうなっておりました。……ヘル様、御目醒めになられて……本当に良かったです。」


 ガルムは、切れ長の美しい目を真っ赤にすると、涙をポロポロ零す。見た目に反した泣き顔に思わず苦笑してしまう。


「相変わらず、泣き虫ね。けれど、そう……私は今、セレスティアと呼ばれているのね。まあ、なんて皮肉な名前かしら。地獄から、天上とはね。」

 頬杖をついたまま、ため息を吐く。


 そして、ガルムに今の詳しい状況を教えてもらった。ガルシアは私が病に伏した時に、ガルムとして目醒めたそうだ。


 父親の皇帝は、最近即位したばかりで、先代に比べて戦いは好まない平和主義者らしい。


 なんて素晴らしい、お父様! 


 私は、平等を保つため、時代と共に移り変わる人間界についての知識は常に更新してきた。この時代の雰囲気だったら……他領の侵略よりも、上手く立ち回って友好関係を築いて国を潤せば良いのだ。

 そして、長寿を増やし老衰を幸せな死と位置付けてしまえば……。


 ふむ、それで行ってみるか。


 善は急げでガルム……じゃなかった、ガルシアに隣国や友好国、敵対国を調べさせて動向を決めよう。それ迄に、私自身の事をもっと把握して皇帝に口出しできる位の信頼を得なければ。



 ◇◇◇◇◇

 


 ――たった1年で、驚くほどに事は順調に運んだ。


 ま、人間の嘘を見抜ける能力が消えていなかった事が幸いだった。どうして、()()が出来るのかは知らない。出来て当たり前だったから理由なんて考えたこともないし、私には必要だった。

 

 だって、人間は平気で嘘をつくのですもの。

 

 目の前で、私に向かって話される言葉が”嘘”か”真実”のどちらなのか、自然と判断出来てしまう。

 父である皇帝の臣下には、何故そんなのばかり集めたのかと問い質したくなるほど残念な嘘つきが多かった。

 だから、ガルシアに一掃させた。


 勿論、人間らしく色々と裏から手をまわして穏便にね。伊達に何百年も、下から人間界を覗いていたわけじゃない。


 そのせいか、近頃お父様の顔色が大分良くなったみたい。そんな事を思いつつ、目の前の皇帝が言いにくそうに話す言葉を聞いていた。


「それで、セレスティア。……ドレファンス国の第二王子のことだが」


「無いです、お父様。」 

 皇帝の言葉に被せ気味に返事をする。


 近隣国である、ドレファンス国の王子との婚約話がもちあがったのだ。

 確かに、人間にしては聡明で外見も正直好みだった。けれど、言葉には”嘘”が見えた。彼には思慕する女性がいる……。


 せっかく生まれ変わったのだから、ちゃんと私を愛する男性でなければ嫌。私だって、女の幸せってやつを感じてみたいわ。


「お父様。ジェラール殿下には、お断り下さいませ。」


「……そうか。仕方ない、断りを入れておこう。」


 ガッカリと残念そうに肩を落とした皇帝に、美しくお辞儀をして部屋をあとにした。


お読み頂き、ありがとうございました。

今夜、もう一話投稿予定です。

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