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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第六章 レベルは運命を呼んでいる。
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第54話 レベルに選ばれしもの

 失敗してきた。し続けてきた人生だった。そう思っていた。

 ここに生れ落ちて、若返って、レベルというズルを手にして、やりなおせる。


 やりなおすんだ。そう思った。


 何をやりなおすんだ?



 人生?



 人を殺す人生が果たして素晴らしいのか?


 誰も殺めず、平穏に暮らす方法があったんじゃないのか?


 今以上の失敗なんてあるのか?



 思えば――転移する前。前世と言っていいのか? 前世での失敗なんて無いのかもしれない、弟や世間に嫉妬はしていたかもしれない、満たされない自尊心に不幸を感じていたかもしれない。

 

 でも。

 

 でもそんなの普通だろ、平凡な話だ。


 そして平凡ってのは、幸せなことじゃないのか?




 だめだ、目がかすむ。

 左手に握力がない。

 ひょっとしたら目はもう潰れているのかもしれないし、左手は消えているのかもしれない。

 思考が正常じゃない。ずっと正常じゃなかった気もする。

 意識がにごる。

 肉体が活動を止めたがっている。

 呼吸が、息が苦しい。肺にもっと酸素をくれ。

 

 立っているのか、寝ているのかも解らない。


 闇雲に、出鱈目に命を振るう。


 女の声がする。男の剣が俺を攻め立てる。


 何発目かの横に走る雷が、風と逆巻く炎と共に炸裂する。


 まだ死んでない。それは解る。

 しかしここは夢か現実か?


 本当はもう封印されていて、夢の中にいるんじゃないのか?


 じゃあもう寝ても、目をつぶって楽にしてもいいんじゃないか?



 刀を手放して。楽に――。




 ――満たせ――。 ミタセ。 (かわき)きを――。


 誰かが(ささや)く。ずっと誰かが(うそぶ)いている。


 ずっと、ずっと渇いている。

 この渇きは幸せでは埋めれない。

 幸せとは遠いところにある渇き。渇望。飢え。







 キャサリンは待っていた、待ち続けた。

 船で、故郷の町で。二人で過ごしたあの家で。


 ムサシは、愛した男は帰ってこなかった。



 突如海に巨大な何かが落ちたらしい。

 どうやら城のような形をしているらしかった。


 どうでもよかった。



 ロアーヌは、皇帝ユリウスはキャサリンを裁かなかった。

 ムサシがいないのなら、それで良かった。


 

 子供達は大人になった。

 修羅に殺されることを希望に生き続けた。

 誰も殺されることはなかった。


 とある竜はレベルを失った。

 落胆はすぐに消えた。

 彼は群れに迎え入れられた。


 いつしか人々は修羅を忘れた。

 星も月も、かつて自分の光の元で踊った男女を忘れた。

 古の勇者や魔王や同様、実在したかどうかさえ、あやふやになった。








 『テレテーテーテッテレー♪』


 愉快なファンファーレが鳴る。ステータスの上昇、体力の回復を感じる。


 黒衣の男が刀を払う。刃についた鮮血がアスファルトに弧を描いた。

 崩れたビルをまたいで、無人人型殺戮兵器が歩いてくる。その数、三機。

 戦闘ヘリがミサイルを飛ばした。一斉射だ、黒い空に殺意のカタマリが何百本も咲き乱れようとしている。

 虚空獣が空の裂け目から無尽蔵にあふれ出す。奴等の光線が真っ直ぐ飛ばないことを男は知っている。

 化け物どもの文字なのか、複雑な軌跡を描きながら飛来するのだ。


 燃えた空、砕かれた大地。血と鉄と硝煙と、化学兵器と生物兵器と、悪魔と魔法と殺戮の匂い。いつもの匂い。


 景色の片隅に優しい女の顔があった。古い、けれど大事な記憶。


 男の生き方は決まっていた。


 誰の意思でもない、己で決めた道。


 もう誰の声も聞こえない。



 誰の――。






「おーい御主人様、聞いてますか? 三時方向から新手ですよ」


「ん? 嗚呼、あいよ」


 スキル[アマテラス]から声がする。


「さーて、もうひと暴れするか!」


 

 

 

                 (了)

初めての執筆でしたが、皆様のおかげでエタらず最後まで書くことが出来ました。

本当にありがとうございました。

次回作は今以上にレベルアップしたものを、お届けしたいと思います。ではまた。



2019・8・21追記

新作「虹徹剣羽 ゼンライガー」 


スタートいたしました。よろしくお願いします。


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