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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第六章 レベルは運命を呼んでいる。
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第53話 命

「命ってのはお前やレベルより、俺と気が合うのかもしれん」


 真偽はわからない。沢山の命を奪っておきながら虫のよすぎる話だ。


 まして自分を殺した相手や、その武器を守ろうなんざ。


 ああ、確かに。確かにそうだ。

 しかしそれは、古い考え方なのかもしれないな。


 刃を押さえる勇者の手の平、そこに薄い、一筋の赤い線が見えていた。


 物理法則もレベルをも超えた、なにかのちからが働いている。


「お前も、そしてレベルを創った奴も知らないし、考えたことも無かったんだろうさ、命がなんなのかってな? 命はな、全てに宿やどる。全てにだ」


「くそ、それがどうした!」


 風が()ぜる。距離をとった勇者が、両の(てのひら)を俺に向けて叫んだ。


「バインド!」


 両足が万力で固定されように動かなくなる。

 俺の足が動かなくなったことを目視で確認した勇者は、いくらかゆったりと構え。広げたのは両の腕、右手には白い光が、左手には黒い闇が握られている。


「貴様には過ぎた技だが、使ってやる。この世のあらゆる物質を消し去る、消滅魔術を! 魔王の鎧をも消し去った必殺魔術だ。光栄に思うがいい、消えろ! バニッシュ!」


 白と黒のマーブル模様が、螺旋(らせん)を描いて飛来する。あれを喰らえば消えるらしい、封印の為に即死はさせないかもしれないが……。

 動かないのは足だけだ、そして俺の刀、(ミコト)(いのち)を吸うらしい、ならば!


「俺は! 死なない! 封印もされない! 生きる! 生き続ける!」


 ミコトの切っ先を螺旋に向けて構える。全てを消滅させるという螺旋が切っ先に衝突する。


 吸え、奪え、取り込め、いのちを! その魔法だか魔術だかにもいのちがあるんだろ、そうだろ、それでいいんだろ?

 

 拮抗(きっこう)する(ミコト)とバニッシュ。勇者は雄叫びとともにエネルギーをバニッシュに送り続けている。


「人も動物も、木にも花にも、星にも空にも風にも色にも命はある。刀にも、そしてきっと魔法にも命はあるだろう。時間の命はすでに発見された。わかるか? あらゆる物質、概念、言葉にすら命はある。そのことが科学的に証明されているんだ。レベルが命を(かて)にするだって? 笑わせんな。レベルは命を認識などしていないし、まして取り込むことも出来ない。レベルを創った、デザインした奴が命だと勘違いしていた虚像(きょぞう)、それを経験値というシステムに組み込んでいるだけだ」


 そうだ、(アイツ)は正しかった。だからこそ今。


「バニッシュだっけか? 貴様のイノチ、ここに置いていけぇぇぇ!」


 ついに奴の魔術は消滅した。これで俺もひとつ証明したか、魔術にも命があるってことを。


「なんなんだオマエは、なんだその刀は。命を奪っているのか? まだ奪い続けるつもりか? レベルもないのに、クソが! 悪魔か、いや魔王よりタチが悪いぞ」


「我は修羅! そしてこいつはミコト、今名づけた。命を奪い、命を糧とする者よ! 今までも、そしてこれからも変わらない!」


「ふざけるなァ! オマエのような奴をのうのうと生かしてはおかない! 世ため、人々のために今、ここで封印するッ!」


「ならば、その封印の命も頂く」



「クリスタル!」

 勇者の呼び声に(から)の宝石が動き出す。硬質を思わせる外観、しかし斬りつけた刀と手はズブリと飲み込まれる。そして緩やかに全身を飲み込んでいこうとする。


 ――させるか! 奪う! こいつにも命があるだろ。


 砕け散る巨大なクリスタル。美しく光を反射させながら落ちてゆく破片。

 そして破片が落ちきる前に勇者は次の行動をとっていた。


「すまない、全クリスタル起動! みんな起きてくれ、最後の仕事(冒険)だ、力を貸してくれ」


 クリスタルの中から目覚めた女達が出てくる。勇者はいつの間にか鎧に身を包み、光り輝く剣を持っていた。


「シンイチ様、これはどういう」

「説明は後だ、あの人型の化け物を封印しなければならない、油断するな」


 勇者の様子に、ただならぬ事態を把握したのか、金髪の美女は眼つきを変え、杖を手にした。他の女達も何処から装備を取り出し、臨戦態勢である。


 俺は走る。拘束魔術(バインド)ならもう食った。

 逃げても無駄だ。活路は前にしかない。

 この勇者パーティを、食い散らかしてやる。

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