第51話 勇者は語る
「オマエを召喚したのはオレだ、レベルは返してもらった」
レベルは返してもらった? だから、つまり俺にはレベルが無いってことか?
確かに[レベル感知]は機能していない、しかし腰には重くなった刀がある。いつか名前をつけようと思ったまま、結局まだ銘の無い刀。いままで幾人も斬ってきた俺の愛刀。
こいつがあるってことは、スキルはまだあるんじゃないか?
テーブルに手を置いて[武装作製:壱]を試す。何も出ない。サキナスの召喚を試す、影も現れない。[植物作成]は種すら生み出さない。
道中の心配事のひとつを解消した[食物判定]はもうないらしい。はたしてコーラは安全だったのか? 嘘を見抜くことも出来ないから確かめようがなかった。
「現状は理解したか? オッサン。いや、人殺しのクソガキ」
テーブルを叩きつける。手がジンジンする。テーブルは割れない、それどころか小さなキズすらもつけられない、弱い弱すぎる。こんなのが俺の手なのか? 俺の腕力なのか?
……これが俺なのだ、本当の本来の俺。
「いつだ? いつレベルを奪った? そうだ、俺の背中に触ったときだな」
「違う。この城に来たときに返してもらったのだ、勘違いするな、オマエのレベルなどというものは無い、勇者であるオレのレベルだ。といっても返してやらんでもない」
「返してくれるのか?」
「焦るな、ひとまず話を聞いてくれ、オレはずっと待っていたのさ、この時を」
「どういう事だ?」
「オレは勇者だ、名前はシンイチ。……名前はどうでもいいか、オレもオマエのことを名前で呼ぶ気もないし、忘れてくれて結構。で、オマエはこの世界に来てから勇者の。オレの話を聞いたことがあるか?」
「多少なら」
「それはどんな話だった?」
「魔王を討伐した男だ、それ以外だと話が昔すぎて曖昧だが、仲間がいたとか伝説の武器を持っていたとか、一人で大陸を消滅させるぐらい強かったとか。まぁそんな感じだ」
「ふふっ、最後のは誇張されすぎだな。でも大方そんなだ、でな。オレも召喚された人間だ。その時から使命と力を与えられた。使命とはこの世界を滅ぼうとする魔王を討伐すること、そして力とはレベル。オマエに貸していたモノのオリジナルだ。さらに言うとオレはレベルに召喚された」
「レベルに召喚?」
「オレには[鑑定]と[賢者]という調査や分析に向いたスキルがある、それらを使って調べてたのさ、色々と。このレベルというのは、ある個人によって創造されたものだ、それが誰でどんな奴なのか詳しいことはスキルでも解らなかった、世界の細やかな情報でさえ取得・調査できるスキルを駆使してもだ、これがどういうことかわかるか?」
「待って、待ってくれ。その前に質問だ、その[鑑定]やら[賢者]というのは使い勝手がいいのか? 俺も物事を調べるスキルを覚えようとしたのだが、上手くいかなくてかなり限定されたものになった。世界の情報がわかると言ったが限定的なものではないのか?」
「……[鑑定]によると貴様の名前は曽根賀島武蔵、こっちではムサシと名乗っていたらしいな、最適化されても筋力、知力ともに平凡。
[賢者]によるとこっちに来てから女とよろしくやってたみたいだが、お互いの深いところまでは話してないみたいだな、底辺同士の傷のなめ合いってとこか? 怠惰な関係だな」
「貴様に何がわかる!」
「解るさ、どんな事でもオマエ以上になんでも解るんだよ俺は。この星の上で起きたことなら、調べさえすれば何でも解る。オレのスキルはオマエのものとは別次元の性能。オマエのレベルは、云わば劣化コピーなんだ。当然レベルに付随するスキルも。
……どうした、そんな睨んで、どんなに睨んでも怨んでも斬りかかられてもオマエじゃオレに傷ひとつ、つけれないんだよ。
…………悪かったよ、からかって、とにかく話を聞け。でな、万能なオレのスキルでも詳しいことが不明な存在が、レベルを創った。そいつがレベルを創った目的は、そいつ自身を殺すこと」
「つまり自殺か、でもどうして。」
「どうしてってのは死のうとした理由か? それとも死ぬために、どうしてレベルを創ったのかって事の方か?」
「後者。いや両方だ。それとソイツは死んだのか?」
「わからん。さっきも言ったけど詳しいことは解らない。生きてるのか死んでるのかもわからん、スキルで調べた限り、レベルを作った男がいて、そいつがレベルを創った目的は、自身を殺すこと。それだけ。スキルを何度使ってもそれ以上の情報は出てこなかった。
それに勇者というのは案外忙しくてな。長く忘れていたのさ、そんな奴のことなど。
でもな、魔王と戦ってわかった。オレは強すぎる。レベルという能力は異常だって。
魔王ってのはな、言わば神だ。レベルを封印する為に、この世界が創ったものだ。
順序が逆だったのさ、魔王を倒す為に勇者が召喚されたんじゃない。勇者というレベルをもった存在が、この世界にくることが解った。だからこの世界は魔王を創造して迎撃しようとした。
魔王は隠蔽魔法を施していたけどな、スキルの方が上だった。だから判明したんだが」
「例え神でも魔王は魔王なんだろ、滅んだのならそれで良かったんじゃないのか? 事実魔王が滅んだあとは多少の戦争こそあれ、地球の歴史と比べた平和だと思うがな」
「オマエこの場所が何をする場所に見える? 魔王を倒したあとオレが何をしていたと思う?」
水晶に入っている女と、広いベットを見る。
この美しい世界、信じがたいことに城の中らしいが、察するにイイコトをしていたのだろう。
俺の想像を理解したのか、水晶を指さしながら勇者が語る。
「クリスタル、時間遅延装置の中に入っているのはオレのパーティメンバーだ。
王女に、エルフ、奴隷とオートマタ。オレのレベルを分け与え、力と寿命を飛躍的に延ばした仲間達だ。
そりゃあすることもしたし、子供もつくった。全員死んだがな、子孫はまだ世界のどっかにいるだろ。
彼女達以外にも仲間はいたが、最後まで残ってくれたのが、今のメンバーだ。
……メンバーの寿命は無限じゃない。オレの寿命も同様だ。それに精神がな、精神ってのは200年持たない、150年が精々だ。だからオレ達は実験をしながら来る日をずっとずっと待っていた。それがオレの本当の使命だ」
「待っていた。俺が来るってことか? でも何故」
「いつかはオレも死ぬ。その時レベルは次の誰かに移るのさ。今のレベルを引き継いでな、強くてニューゲームだ。それを阻止しなければならない。どっかのバカが創った、他人の生命を糧にして無限に成長し続けるというこの悪魔の能力を、永遠に封印しなればならない」
話を聞いていた。興味深い話だし、レベルを返してもらう為だ。でもダメだ、レベルを返してもらって、キャサリンと生きる。俺の人生をやり直すんだ。そう思っていた。しかし……。
「よく来てくれた、この世界に。
一応なオレは勇者だ、善良な者に苦しみを与えるようなマネは出来ない。かといってオレ自身が、この先もずうっとってのはちょっとな。だから探した。召喚して観察して、呼んで寝て、起きて経過を見て。元大量殺人者とか呼んでも二度目の人生だとダメだな、環境が人を創るのか、本当はイイヤツだったのかは知らないが、まともなんだよ。いやーキツイぜ? あんまりキツすぎて、少し悪い奴に死よりも重い罪を押し付けようと何度もした。でも待っていてよかったよ。
――オマエのような極悪人には永遠という地獄が相応しい――」
――笑っている。ナニカが笑っている。目の前で――




