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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第六章 レベルは運命を呼んでいる。
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第50話 男は語る。自分の正体を。

 ここはどこだ?


 潮の香りは消えた。肌に残るキャサリンの温もりは、冷えた床に吸い込まれていった。 

 白く太い支柱に支えられた、高すぎる天井。宮殿を思わせる厳かな内装。

 石畳でも木造でもない。大理石なのだろうか、ひんやり、ぺたぺたとした鏡のような床。

 いままでいた場所より明るく、清潔。


 キャサリンがいない。船はどこにいった? 海ではないのか?


 ここはどこだ?


『楽園だ』

 念話が送られる。しかしこの声、マグナではない。誰だ?


 途端、気づく。何故気づかなかったのか? 冷や汗が湧き出してくる。


 レベル……レベルいくつだ? ()()()()。 俺のスキルで知覚できる範囲を超えているのか? それとも恐怖のあまり認識したくないとでもいうのか?


 俺より強い、そう言ってもいいであろうマグナと対峙した時でさえ感じえなかった圧力。足が震える。


 なんなのだコイツは。誰なのだ?


『そう警戒しなくていいよ、オレは奥で待っているから』


 嫌だ。行きたくない。死ぬ。きっと死んでしまう。


『不死身なんだろ? マグナから聞いたよ、大丈夫だ、殺さないよ。いいから来るんだ。それともこの女がどうなってもいいのか?』


 視界正面。手の届く範囲に映像が浮かぶ。

 まるでAR? ホログラム? いや違う。映像投射装置も何も無い。そんな理屈を抜きにしても直感的に解る。これはスキルだ。スキルによる映像。

 

 映像には艦内に取り残されたキャサリンが浮かぶ。うろうろして俺を探しているようだ。


『いつでも殺せる』

 若いが、落ちついた声色でそう告げられる。選択肢はない。


 足取りは重い。何がどうなっているか考える。俺と同じレベル保有者。人間。俺のレベルを遥かに超えた存在。俺に出来ることはなんだ? 無事に帰れるのか? 帰りたい。

 何でも出来る。そう思っていた、けどそんなはずなかった。人生とはそういうものだ、解っていたはずなのに。


 開けた視界。

 室内だと思っていたのに空が見える。

 地平線まで続く花畑の広がる庭園。手前には白で統一されたテーブルと椅子。いくつもの調度品ある。目を引くのは100人は眠れそうな巨大すぎるベット。

 ベットと調度品は、東京ドームより大きそうな絨毯の上に載せられている。

 いったいどうやって設置したのか。

 ベットの奥には支柱が、等間隔で並んでいて、支柱の白と花畑との色彩が交互にコントラストをつくっている。そしてベット奥の支柱達は、壁や通路にあったものと違って、巨大な宝石が支柱中央部につけられている。

 どのくらい巨大な宝石かと言えば、そう、ここがおかしなところだ、全体的におかしい空間ではあるが、特におかしいと言えばいいのだろうか、とにかく裸だ。半裸の美女がそれぞれの宝石に一人ずつ入っているのだ。

 わからない、異質すぎる空間に、好奇(こうき)よりも戸惑いを覚える。

 それに、普段なら美しい光景に見惚れるかもしなれいが、重圧が凄すぎてあらゆる色彩も灰色に思える程だ。目を色を認識しているのに脳がうまくつかめない。


「良く来たな」

 声は後ろからかけられた。

 俺が振り返るより早く声の主が背中に触れる。

 攻撃? 反射的に飛びのこうとするが身体に異変。先ほどまで重かった身体が軽くなった? いや重くなったのか? ()()()をおぼえる。

 振り返った俺が見たのは若い男。裸足に破けたデニムのハーフパンツ、ゆったりめのTシャツを着ている。気取りのない、ラフな格好の男だ。


 身体が質量を増したかのように重い。コイツが圧倒的なレベルの持ち主、コイツの圧力で重く感じているだけかと想ったが違う。むしろ目の前の男からは何も感じない。

 さっきまで、莫迦みたいにでかい力を感じていたはずなのに。

「どうした? 身体でも変になったか? とりあえずこっちに来て座れよ」

 背中を見せて歩き出す男。隙だらけだ、なんなのだコイツは。


 円形のテーブルにいくつかの椅子が並べられてある。男はそのうちの一脚に腰をかける。

 少し迷って男から一番遠い対面にある椅子に座る。

 なんだか解らんがコイツのペースで進められるのは癪にさわる。

「誰だ、お前は? どこだここは?」

 ありきたりだが、最初に聞いておかねばならない質問をする。聞きたいことを聞いてあとは逃げるなり殺すなりしよう。

「まぁ慌てるな、何か飲むか?」

 そういって男は何もない虚空に手を伸ばす、見えなくなった腕が戻ってくると手にはジョッキが握られていた。

 ジョッキには、黒い液体が氷と一緒に入っている。


「オレはよ、長いことオマエを待っていたんだぜ? いや、実に長かった」


 そういって男は液体を飲む。ゴク、ゴク、ゴク。

「ふーうまい。あ? これか? コーラだ。他にもコーヒーでも酒でも大抵なんでもある。色々聞きたいんだろ? ちゃんと答えてやる、長い話になるかもしれない。さ、なんか飲むか?」


 毒でも入っているのではないか、そう想ったが[嘘を見抜く]スキルは反応がない。

「じゃ、俺もコーラを」

 欲望に抗う必要なんてない、今更俺に毒なんて聞きやしないし、なんでもやりたいことをやればいいのだ。今はコーラを飲む。

 さきほどと同様、何も無い()()()()()()虚空に手を突っ込んで、男はコーラを取り出した。

 渡され、手にした取っ手から、よく冷やされていることを察する。

 飲む、嚥下する。食道と胃に広がる冷えた感触。味覚が甘味に喜び、脳が記憶を呼び起こす。ああこれがコーラだ、こんな味だった。そうこれだ。

「うまい」思わずそうこぼす。

「そうか、そりゃそうだろう、オマエこっちに来て何年だ?」

 身震いする。

 コーラか、そうコーラなのだ。この男も地球から来たのだろう、顔立ちも日本人っぽい。

「二年目だ」

「二年でレベル39か、そりゃずいぶんと殺したな」


 ヤバい。

 なんだか凄くヤバい、これは良くない方向だ、早くこいつを殺して逃げないと。


「何を殺した? 魔物? 動物? いや、答えは知っているんだ。マグナからそれとなく聞いているしな、でもオマエの口から聞きたい、何を殺した?」


「話をそらすなよ小僧。最初の質問に答えろ、お前は誰で、ここは何処だ?」


「小僧ときたか、オマエなんも解ってねぇな、オレがその気になればオマエなんて瞬殺だぞ? 口の聞き方に気をつけろ」


 瞬殺? この俺を、俺の方が圧倒的に強い、この男にはレベルが無い、強大な圧力は感じない。

 ……レベルが無い? どういうことだ? 確かに[レベル感知]は何も感じなかった。しかしコイツはスキルを使ったぞ、少なくとも普通の人間は何も無いところから飲み物を出したりなんて芸当できないのだ。

 いや、まて落ち着け俺は何を考えている? いや、でもだとしたら……。

 [レベル感知]で見る。何も見れない。

 [レベル(なし)]の表示すらない。この男にレベルが無いんじゃない、俺のスキルが無い。俺の[レベル感知]が無い。俺の、俺のレベルは?

 自分のレベルを()()ことも出来ない。なんだ? なんだこれは?


 …………落ち着け、落ち着け。

 コーラを飲む。飲み干してテーブルにジョッキをやや乱暴に置く。

 まだだ、まだ大丈夫だ、レベルが無くなったと決め付けつけるのは早計だ、認識を阻害するスキルが使われているかもしれない、そもそも今見ている全てが幻覚かもしれない。神経を研ぎ澄ませ、五感を集中させろ。


 ……目の前の男は俺を見たまま話しかけてこない、この男が何者かは解らないが俺を侮っている。そこに賭けよう。


「気分は落ち着いたか? オッサン、肉体年齢は置いといて精神はオレの方が上だと思うがな、なにせこっちは三千年以上人間、つーか勇者やってんだ」

 

 そこで自称勇者は言葉を区切り、ゆっくりと喉を(うるお)す。ジョッキは優しく置かれた。そして落ち着きを取り戻しつつある俺に追い討ちを。

 否、トドメをさした。


「オマエを召喚したのはオレだ、レベルは返してもらった」



ヒント

計測不能。認識阻害。

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