第4話 竜レベル13
アヤカの視点から
ムサシを警備員さんにあずけて3日たった。
あれからムサシはどうしているだろうか、川を見つめて涙ぐんでいたのが印象に残る。
なにか凄く辛い想いをして遠くからやってきたのかもしれない、言葉通じないし少なくとも外国の人だと思う。
それにしては服が小奇麗だったのはなんでだろう。気にはなるが気にしてもしょうがない、自分には自分の仕事があるのだ。
人の入らない森のなかで不自然な男に会う。というのは奇妙なことだ。
だが、そんなことより明らかに異常で、極めつけなことが起きる。
地上に巨大な影がさす、日差しの明るさが一転、夜のが来たかのように。
竜だ。滅多に人里に現れず、一生見ることがなくても不思議ではない存在。
竜が飛んできた。
私も生まれて初めて見たソレはとにかく大きかった。
翼と高い知能を持つ大型生物、生態は謎に包まれていて詳しいことは解らない生き物。信仰の対象でもあるソレはぐんぐん高度を落とし町に激突した。
飛んできたきたというより堕ちてきたという表現が適切かもしれない、なにしろ家々を破壊しながら着陸し、衝撃で町が揺れた。
今まで聞いたこともない大きな音は千の雷を束ねたようで、世界の破滅だと誰もが思った、少なくとも私はそう。
町の中心部、港からは離れた位置に竜はいた。竜の息遣いで巨大な筋肉が短縮と弛緩を繰り返す。翼を拡げた竜は再び飛翔しようとしているようだ。
巨体とその翼の影で町に闇がおとずれた。
直後、その羽ばたきが暴風をなって町のすべてを駆け抜ける。瓦礫や樹木が飛散し目を開けるのが困難になる。
着陸したときと同じぐらいの轟音とともに巨体が空に浮かび町の被害などなかったかのように竜は何処かへ去っていった。
――――同時刻・ムサシ――――
――暇すぎる俺の前についに生物がやってきた。最初にその生物を認識したのは視覚でも聴覚でもない、[レベル感知]がレベルを持つもの到来を告げる。
スライムとかゴブリンとかもしくは虫とか倒せそうな奴でよかったのにレベルを持った超ド級の生命体が来訪した。
勝つ可能性なんて万に一つもない。
地震大国日本でも、そうそう体験しない大地震ともに来訪した巨大生物、まるでゴジラのようなソイツのおかげで、個室の壁が崩れさった。外の風を二日ぶりに浴びた。
おかげで町はひどい有様だ。
間違いなく人も死んでいるだろうがそんな事はこの際どうでもいい、自分の命には代えられない。
俺と翼の生えたゴジラもどきとの距離も安全とは言えない、むしろ近い。早急にこの場を離脱する必要がある。
この建物も倒壊しかかっているのではなかろうか、壁が壊れてたし。
壁から外に出たいがここは2階だった。
飛び降りても平気かもしれないが、そんな度胸は俺にはなく大声で助けを呼んだ。
「た……助けてくれぇー!」
言葉が通じたのか、逃げる途中で通りかかったのかは定かではないが、衛兵の一人が鍵を開けてくれた。
緊急事態だし出てもいいらしい。1階から外に出ると思った以上の惨状だ、倒壊している建物が多く怪我人や死人が多く出ている。
翼の生えたゴジラもどき・・・もとい竜にはレベルがある。
[LV13]だ。初めてみる自分以外のレベルをもった生物だが13というのが高いか低いのかは全くわかない。俺も13まであげればこの竜のように強くなるのだろうか?
いや、ありえないな土台が違いすぎる。
逃げなきゃいけないと本能が訴えてはいるが、ダメージを与えれば経験値が入るかもしれない。
落ちている石をつかみ全力でなげてみた。レベルアップのおかげか石は200メートル以上飛んで竜の足に命中した。
そんな俺の暴挙を近くで見ていた人は、信じられないといった激しい眼差しをよこした、たしかに竜を刺激するのは愚考だが竜は全く気にしなかったので結果オーライということで。
……そして経験値には全くならなかった。
とにかくそばにいると危険だ、全力で走りだす俺。翼を拡げる竜。
こいつ、飛ぶ気だ、つーか何しにきたんだよ。俺を助けにきたのだろうか、じゃあもう少し待ってほしい。お前の羽ばたきで俺は走れない、吹き飛ばされたあとは地面にへばりついているだけになった。
風がいっそう強くなる。
ドカン
あるいはズドンだろうか、なんでもいい。大きすぎる音というのがオノマトペでは到底表現しきれないことを、異世界にきて知った。
竜が地面を蹴った轟音は着地に匹敵するか、それ以上の音と地響きで世界を震撼させた。地面。大地が気の毒に感じるほどに。
竜が米粒になるまで見送った俺は身の振り方を考えていた。
衛兵さん達のところに戻るべきだろうか、飯も寝床もあるし彼らも俺を害す気はないので安全だ。
それともアヤカのところか?
無事を確かめたいし、方角もだいたい解る。
衛兵の詰め所まで歩いてつれてこられたことし、距離もそれほど遠くはないだろう。
考えた末に、俺はもう一度森の中に戻ることにした。
人の社会で生きるのならば、言葉がわからないのは痛い。
普通の人間ならば学習するしかないが、幸い俺にはレベルがあるし、レベルさえあげればどうにかなる気がしていた。
言葉を覚えるかもしれないし、テレパシーで会話できるかもしれない。もしくは一人でも生きていける能力が手に入るかもしれない。最後のはちょっと寂しいが。
とにかく森へ向かおう、行動するなら町が混乱している今がチャンスだ。
そうして、アヤカの顔を思い出しては後ろ髪を引かれながら、森に逆戻りしたのだった。