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第46話 偉大にして最強

 俺の操るスキルにはおよそ説明というものががない。レベルアップと共に得たスキルの名前を聞かされるだけだ。仕方がないので大抵は使う中で仕様を覚えていく。

 スキル[再上映(リバイバル)]は生き返るスキルだ。破格のチートスキルだと言っていい。されど、無敵でも最強でもない。

 ましてや運命に抗うことなど。



 目覚めた俺は店の中にいた。キャサリンの“実家”だ。

 美魔女と言っていいだろう、煙管を咥える妖艶な女を中心に、色々なタイプの美女や幼子(おさなご)に囲まれていた。皆が心配してくれた。

 胸焼けがするような色気の中にキャサリンの姿はなかった。


 あれから四日たつそうだ。

 どこにも見当たらなかった俺が、四日目の朝に突如店の前に倒れていたらしい。

 竜は去っていた。

 町の被害は竜の着地や飛翔で倒壊した建物。そして店の前に出来た、海まで続く穴。

 穴の表面はガラス質になっていた。


 この町の主だった顧客。異国からくる軍人達は竜に驚いたのか、引き揚げていった。

 

 キャサリンは皆が止めるのも聞かず、海で俺を探したらしい、そしていなくなった。

 波にさらわれたのか、それとも。


 俺のスキルの中に、探し物を見つけることに向いたものはない。

 スキルを得る為に、殺すか?

 この町に戦力は無い。


 キャサリンがこの町を怨んでいるのなら、滅ぼしてもいいと思っていた。海の向こうの国諸共でも。

 しかし……どうなのだ? 俺の見た様子では、怨んでいるとはまた違うように見えた。


 死んだかもしれない、とは考えない。

 生きている。きっと。



 店の女共の目を盗んで外に出た俺は、海を見ていた。

 あんなことがあったのに海はおだやかな表情だ、日差しは暖かさを、潮風と波飛沫(なみしぶき)が涼しさを、与えてくれている。

 なぁキャサリン。この広い海の何処かにいるのか?

 それともその向こうにか。


――

『生きていたか? いや確実に殺した。消滅したはず……だよな?』

――「誰だ?」

 突然の声。上下左右、後方にも誰もいない。

 いや、それよりこの声の響き方。まるでレベルアップの時のように直接。


 そして俺を殺した者、特に直近では一人、いや一体しか心当たりは無い。


『上だ、上。もっとも、貴様の視力では見ることは出来ぬ。宇宙は解るか? 雲より遥か高いところに我はいる。それと声を出す必要はない、貴様の意識の表層を読み取る。言葉を脳裏に浮かべろ、それで会話が出来る』

 

『……こうか?』


(すじ)がいいな。さて確認だ、貴様は消滅したな? 何故生きている?』


『…………』


『無駄だ、意識の表層を読み取ると言っただろう? 我のスキルだ』


『クソが』


『フン、なるほど、再上映か。“アタリ”を引いたようだな』


『ああ、そうだよ! 俺は不死身だ。一度目は即、発動したが二回目のあの炎? なのか? ともかく攻撃で死んでから今日で四日だとよ。ついさっき目覚めたばかりだ。クソが、おかげでキャサリンが……ッチ、それで? また殺すのか?』


『そうだな、死なないのならば意味はない、さらばだ』


『まてコラ……おい、聴こえているのか?』


『恨み言のひとつでも言いたいのか? 竜に会ったのだ、事故のようなものだと思って諦めろ』


『違う、そうじゃない。お前、俺を()()()()殺しただろ? ああ、恨み言じゃないぞ俺が言いたいのは、お前のスキルだ。探し物を見つけるスキルがあるんじゃないのかお前?』


『だったらなんだと言うんだ』


『見つけてほしい奴がいる』


『断る。調子にのるなよ人間』


『まだ話は終わってないぞトカゲ野郎。お前が俺を殺したかったのはレベルを上げたいからじゃないのか? レベルを上げたいのならいい場所を知っているぞ?』


『エメラルドソードのことか』


『知っていたか』


『当たり前だ、たわけ。それに我は同族殺しはしない。貴様と違ってな』


『そうか……それはいいことを聞いた。お前がいうことを聞かないのなら竜共を皆殺しにしてレベルを上げてやる』


『……いかに貴様が強くとも竜には(かな)わん、我程ではないにせよ、竜の性能は人間のそれとは比較にならんのだ』


『本当にそう思うか? 俺のレベルはお前の倍以上だ』


『…………』


『意識の表層を読み取るんだろ? 読み取ってみろよ本当かどうか? 俺が竜を皆殺しするかどうか、それが可能だと思っているかどうか、読んでみろよ!』


『……度し難い、度し難い愚か者だ、貴様は』


『いいか? 名前はキャサリンだ、としは……』


『見つけている』


『え?』


『その者なら見たし、見つけている。会話の最中も表層に強くイメージしおってからに』


『ど、どこだ!!』


『船があっただろう。今はもう海の向こう側だ』


『無事なのか?』


『今はな、生体反応はある。それとな、ついでに教えておいてやるが(さら)われた訳ではないぞ? ずっと見ていた訳ではないので確証はないが、海で溺れかかっているところを救助された様子だった…………いくのか?』


『当然だ』


『ならば乗せてやってもいい』


『やけに協力的じゃないか? さっきまではそんな素振りもなかったのに』


『どの道、乗せろと言い出すつもりだったのだろう、一方的な交換条件をつけてな。それに我は暇を持て余しているからな、貴様のことはどうせ見るつもりだったし、我が協力しなくても、そう、遅かれ早かれ、お前は行っただろう。ならば早送りするのも良いかと思ってな』


『……』


『善は急げという言葉を知っているか? 貴様としても早くいけるのならそのほうが良かろう』


 隕石が落ちてくる。摩擦熱で赤い光を放ちながら俺に向かって落ちてくる。

 自然落下より速い。例えるなら無数のロケットをつけた隕石が最大出力で俺目掛けて、垂直下降してきた。――そんな感じだ。


 そいつは俺から数百メートル離れた海上で、翼を拡げで急停止する。衝撃波がまさしく波となって俺を飲み込んだ。


「我が名はマグナ! 偉大にして、最強の竜なり」

 町は無事だ、それなりに加減をしたらしい。

 



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