第41話 インビシブル・キャッスル
「今度は何処にいくの?」
「東だ。海を背にして飛んでくれ」
「もう人殺しはやめたの?」
「わからん。ただ、レベルの好きにはさせない」
「レベルの?」
ユリウスは法を正義とした。俺はそれを、自分で善悪を判断していないと証拠だと言った。しかし人の判断、人の思考というものは自己から自然発生するものではない。
もっと言えば人格というのは、大なり小なり世界の影響で形成されていくのだ。
レベルが俺という人格に影響していないとは言えない。俺の判断も。
「ああ、しかし全ては俺の責任だ」
「セキニンだなんてダーリンらしくないぞっ」
キャサリンはバイクから手を離し、体重をあずけてくる。
上半身をひねって精一杯顔を俺に向けた。
かなり窮屈な体勢だ。
「確かに。ならばこれはケジメだ。落とし前をつけさせてやる」
薄く笑ったキャサリンと口付けを交わす。まだ目尻には涙が残ったままだ。
そっと指で拭ってやる。
「それはダーリン自身に? それとも誰かに?」
口内にキャサリンの舌が入ってくる。夜のそれよりひかえめで、そして短い時間、お互いの唾液を交換する。
「それもわからん。だから確かめる」
「確かめる?」
俺の腹の下に手を伸ばしてきたキャサリンが言う。こんなときなのに、相変わらず手癖の悪い奴だ。
いや、こういった時だからこそかもしれない。
「キャサリン、高度を落とせ。墜落されちゃかなわん。今後は竜の住みかを探す。また長旅になるぞ。今日は休む」
「はーい」
前へと向き直ったキャサリンが、ハンドルらしきものを握りしめた。
必要以上に前傾姿勢となって高度を落としはじめる。
――――降下する黒い影を、見下ろす城があった。
その城主はまだ眠っている。
誰にも認識されない城は、今も彷徨いつづけていた――――。




