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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第四章 聖騎士と修羅と
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第39話 太陽に焼かれた悪人

 空すら割れんばかりの歓声。歓喜。咆哮。狂乱。

 

 死刑に反対し、闘いの趨勢(すうせい)に一喜一憂しなかった団体までも号泣し、あるいは叫び声をあげ、それまでとは様子が異なる。


 なにがおきた?


「民よ! 勇者よ! そしてユリウスよ! 良く見ておけ、これが継承魔法。帝国を帝国たらしめる魔法よ! (いにしえ)の時代より受け継がれてきた秘()!」


 黒く、身の丈より長い剣を抜いた王は、その大剣を肩にかつぐ。

 黒い鎧が、淡く発光している。


者共(ものども)! 友を想え! 家族を想え! 国を想え! 我が剣に力をォ!!」


 金色に輝く王の剣もまた、黄金に輝いている。スキルで魔素の動きを見るまでもない、帝国中の魔素でも集めているのだろうか? 可視化するほど芳醇(ほうじゅん)な魔素が剣に凝縮してゆく、あれに触れたら形も残らない。

 スキルによって火や水、即死や毒など、あらゆる耐性を手に入れたこの身でも抗えないだろう。


「おやめ下さい、王よ! まだまだ教えてほしいことが沢山御座います。それを使ってしまっては御身がッ!」


「よいのだユリウス、民の声を聞け。皆、新たな王の誕生を喜んでおる。わしも我が子同然に思っているお前に、次を授けることが出来て満足だ、お前ならば立派な王になる。帝国を頼んだぞ」


「……王よ、貴方にずっと憧れておりました。貴方のような騎士になりたいと。私は、貴方のような偉大な王となります。必ず」



 ふざけた力だ。

 

 王はユリウスと話しながらも意識を俺から外していない。重くて静かな闘志。これまで闘ってきた誰とも違っていて、誰よりも強い。

 

 防御不能の技を前に、先に仕掛けたいのは山々だが……


「くそが」

 思わず毒づく。良い方法が思い浮かばない。

 向かえば迎撃されるだろう。

 逃げるか? いや、すでの奴の間合い。


 …………。

 背後にせまる敵意のない足取り、肩が優しく叩かれる。キャサリンか?

「下がっていろ、巻き添えをくうぞ」


 腕が前に回された、後ろから抱きしめられる。

「こうしてみると、案外背中が大きいね」


「アヤカ、お前どうして?」


「最後にお話がしたくって」

 首だけを動かして背後を覗く、離れたところでキャサリンが()ねているような、泣いているような顔をしている。


 至近距離で見るアヤカの瞳には、死すらも愛するような優しさがあった。

 

「木こりのアヤカ、その男から離れるんだ」

 ユリウスが騒いでいる。


「私ね、ムサシがしたことが、そんなに悪いことだとは思ってないの、ううん、違うね、えっとね、あのね」


 アヤカは自分の気持ちを確かめるようにポツリ、ポツリと話だす。

「つまり、私は私が同じぐらい悪いことをしたと思っているの。私にも固有の魔法があって、それは木の命や心がわかる魔法。こう言うとみんな笑って信じてくれないけど、木にも命や心があるの。本当よ」


「……知ってるよ」


「信じてくれるの?」


「信じるもなにも俺のいたとこじゃそれは常識になったんだ、科学的に証明されたからな」


「そうなの、嬉しい。それでね、私は来る日も来る日も樹木達の“死にたくない”って声を聞きながら木を切り倒し、加工し、出荷したわ。木によって柱に向いてるとか、壁に向いてるとか、はたまた家具に向いてるとか、個性が色々あるの。普通の職人は、木の種類や産地による性質なんかを勉強して、あとは経験と勘で使い分けるのだけれど私は命を見て、声を聞いて、心に触れるだけで解るの。ほんとみんな色々な事を想っているのよ、家族もいるし愛している相手もいる。川や風や日差しや夜や色々なものが好きで、それらの歌を唄うこともあるのよ、みんな私に気づくと唄うのを止めちゃうのだけれど、……嫌われているから仕方ないね。私がいつも聞くのは断末魔」


 王は何かを言いたげにしながらも、じっと待ってくれている。


「ムサシ、あなたと私は同じよ。他の人は違うって言うかもしれないけれど私にとっては同じ。どちらも命を狩る悪人」

 

「もういいだろう、木こりよ、そなたの罪は法では裁けない、修羅を庇ったことも、出会ったことも全て不問といたす。修羅から離れるのだ。これより修羅の死刑を行う」


 王が、光で輪郭のぼやけた大剣をかざす。まるで切っ先から太陽でも生まれたようだ。罪を滅ぼせ、死で(あがな)え。生まれたばかりの太陽にそう言われた気すらした。


「だからね、ムサシ、私の命を使ってほしいの。ムサシが人を殺す人で、よかったとすら思っているの。ごめんね、辛い役を押し付けて」

 

 キャサリンが泣いている。お前そういうことか、そうなのか、それで。


「地下牢から出たら、キャサリンさんが消えちゃってビックリしてたら、空から乗り物で現れて二回おどろいちゃった。生き方も生きる理由も今はあるんでしょ。なんだか悔しい気もするけど、ずっと仲良くね」

 そう言いながら腕をほどき、俺の前に向き直ったアヤカ、目尻に涙を浮かべながら瞳を閉じた。


「心中するか? されどその動き、捨て置けん!」


 ――太陽が空から降ってくる。――


 身を焦がし、全てが光と熱に包まれた。

 その中で俺は彼女の唇を捜し、そして――


 そして――俺は死んだ。



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