第38話 継承
塔の外壁に埋まったまま考える。
やっと歯ごたえのある奴が出てきたと。
この国を出てからずっと、弱いものしか狩ってこなかった。
レベルを上げるには大量に殺さないといけないし、達成感も薄味だった。
戻ってきて、転位の騎士と昔闘技場で闘った男を、殺してからは楽しかった。
レベルは効率よく上がるし、騎士連中はひとりひとりがそれなりに動ける。
その楽しい遊びも、ユリウスというメインディッシュのあとは小物ばかり。
だからせめて、じっくり味わって終わりにしようと思った。
手を切断したユリウスを、一度は見逃したのもその為だ。
回復系の魔法を使える奴がいて、よかったとすら思った。
最後は初めて見せる技。“居合い”で苦しませず、終わらせてやろうと思った。
楽しいひと時をくれた、せめてもの慈悲として。
それがなぜこんなことに。
王だ。
あの黒騎士は帝国の王様らしい。
なんだあの馬鹿げた力は。
レベル30で手入れたスキル[武器強化:弐]は完了までに兎に角時間がかかった。
だから仕方なくスキルを使った後、動かすことも使うことも出来なくなった刀を、キャサリンにあずけて、キャサリンの分身と一緒に帝都見学でもしようと思ったのだ。
別に強化の完了を待たずに、暴れだしても、大丈夫だとは考えていた。
アヤカと再開できて、話が弾んだおかげで、死刑執行の日まで機会が来なかっただけだ。
結果的にそのことが幸運だった。
「細いが、良い剣だな、もろとも粉砕してやろうと思ったのだが、命拾いしたな」
「うるせーよ、つーか嘘つきやがったな」
「ふん、最初から冗談だと思っていたから、お主も笑ったのだろう」
「ぶっ殺してやる」
気づけば黒騎士はすぐそばにいた。先ほどの一撃といい、こいつは静かすぎる。
殺気もないし、前動作もない。
重量級の武器だからこそ『ふり』は大きくなるというのに。
「お主は、剣に似合わず、荒々しいな」
「ハッそういうお前は、デカイ剣のくせにやたら静かだな、おかげで反応が遅れる、なんだぞれ? それがお前の魔法か?」
「はっはっは。昔から同じようなことを言われるわ。これはな、小僧、技術だ」
……嘘はついていない。スキルに嘘の反応は無い。
つまり黒騎士の剣技は達人級。少なくとも俺以上ということだ。
ならばどうする? 確実に勝つには、やっぱレベルを上げるしかないな。
あと二つ。せめて一つでも上げれば有利とみた。
「そろそろ壁から出てきてくれんか? これ以上城を壊すと大臣から叱られそうだ」
「ッチ」
のそり、のそりと壁から出る。壁からは離れすぎないように。
本気を出してやる。
本気で逃げて騎士を刈る。
それでレベルアップだ。
[武装作製:弐]手の甲に隠して切羽をつくる。――投擲。
そして疾風となり走る。――だが。
「ふん!」
なんなく片手で切羽を弾いた黒騎士が、身の丈を超える剣を振るう。
直撃は避けるものの足元が深くえぐられる。
切り裂かれた地面が爆発し、衝撃とともに宙にほうり飛ばされる。
天地の逆転した視界の中で、黒騎士が急速に拡大。互いに上段から振り下ろした一撃が激突し、黒騎士は天空へ、俺は地上へと反発した。
騎士連中までの距離はやや離れているが、それは黒騎士も同じ。
走り出した俺を見て、こちらの狙いを察知したのか、黒騎士も走る。
鎧のぶんなのか、早いのは俺だ。
ユリウスと一緒に俺を取り調べしていた女騎士を狙う。
「死ね」
「させるか!」
間に入ったユリウスが盾で防ぐ。
「なら……お前から死ね!」
ユリウスの腹を蹴り、反動で開いた間合いで身体と刀を加速させる。
一合……二合、どこにそんな力が残っていたのか、必死にユリウスは俺の攻撃を凌いでいく。
殺気はない。しかし静かではあるが背中にプレッシャーを感じた。
近い!
反転しながら、目標を確認もせずに横薙ぎ。
大剣と刀が火花を散らす。
「後ろから斬ってやろうと思ったのにのう」
「てめぇに騎士道はないのか?」
「あいにくだが帝王なのだよ、我は!」
上から圧し掛かるようにして、鍔競り合いの形ととられる。
「ユリウス!」
「はいぃ!」
背後から襲いくる聖剣。
思考することは死に繋がる極限状態。咄嗟の閃き。
手が刀を放した。
死ぬ気か俺は?
ためらう暇はない。閃きを全力で具現化する。
手を離しながら、一瞬で黒騎士の背後をとった俺は、腰の下あたりを抱きしめて、黒騎士を持ち上げる。
何かをさせる暇など与えん!
勢いよく上半身を後ろに倒し、ブリッジの姿勢で黒騎士を頭から地面に突き刺した。
轟音。
地響きの中で刀を拾う。かなり危険な賭けだったがユリウスは反応出来なかった。俺の勝ちだ。
「てめーも寝てろ」
ユリウスの顎に手をあてながら、アキレス腱あたりでユリウスの両足を刈る。
この時、頭を地面に叩きつけるのを忘れてはいけない。
「さて、狩りの続きだ」
帝都の各所に配置されていた騎士や兵士は、全て、城に集結していた。
短く息を吐いて呼吸を整える。
女騎士の首をはねる。――足りない。
男の頭部を握り潰す。――足りない。
突撃してきた兵士達を解体する。――足りない!
背後で地面がめくれる、ボコッという音。
「ぺっぺっ。土が口に入ったぞ。今のはなんていう技だ」
兜を脱ぎ捨てた黒騎士が言う。
「さぁな。俺も詳しくないんでね、バックドロップだかスープレックスだか、多分そんなのだ。それよりもう少し寝ててくれませんかね?」
「ふざけるな!」
俺の返答に激怒したのはユリウスだ。こいつも起き上がってきた。
二対一の斬り合いが始まる。
体力と意思が削られてゆく。二人ともダメージはあるがそれでも不利だ。
「ユリウス様!」
「帝王様!」
闘いを見守る騎士や兵士、帝国の民が次々に二人に声援を送る。
「修羅なんかやっつけろ」
「王様頑張って!」
帝王の大剣と蹴りの二段攻撃。水切りの小石のように地面を弾んでとばされる。
「――負けないで、ムサシ」
「だぁりーん!」
!!……嗚呼。解ってる!
杖のように大剣を地面にさした帝王が宣言する。
「第四十六代目ロアーヌ帝国皇帝、ミカリエル・セレスバッハ・フォン・ラフタシール・ロアーヌの名においてつげる。次期皇帝をユリウス・リアン・フォン・ノール・“ロアーヌ”とする!」
ムサシのスキル一覧 レベル2から16
[レベル感知]
[言語理解]
[コントロール良]
[小さな灯]
[暗視]
[武器作成:壱]
[武器強化:壱]
[武器作成:弐]
[手入れ・組み付け]
[武器作成:参]
[武器作成:肆]
[武器作成:伍]
[武器作成:陸]
[武器作成:漆]
[サキナス]




