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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第四章 聖騎士と修羅と
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第37話 黒騎士

「セリアンヌご苦労だった」

「はい、聖騎士様、御武運を」


 一度目は勝った。二度目は友を失った。先ほどは負けた。今度は勝つ。

 私一人の力では無理だ。騎士だけでも。

 それでも。


 だからこそ……。


 飛び出した私は、聖剣を天にかざして叫ぶ。

 皆に見えるように。

 皆の思いを一つに。

「我が名は、我が名はユリウス・リアン・フォン・ノール! ロアーヌの聖騎士なり! 皆の者。我は健在! 今こそ悪を討つとき。総員集結! 力を貸してくれ!!」


「「うぉぉぉおおーーーーーーー!!!」」


 先ほどまで萎縮していた騎士達はもういない。ここに居るのは一騎当千、いや、万にも十万の兵にも引けをとらぬ英雄ばかり。これなら勝てる。


「へっ覚悟が決まったぜ」 赤髪の騎士が言う。

「そうだな。やってやるぜ!」 青髪の騎士が答えた。


 青と赤の左右同時斬撃、修羅はカタナを鞘にしまい、開いた両の手でそれぞれの刃を握り締める。

 剣にこだわらず、瞬間的に離脱する二人。そこに先ほどまで自分達の武器だった曲刀が投げ返される。

 回転しながら飛んでくる曲刀を、バク転しながら(つか)む二人の騎士。


 曲刀を投げ返す、一瞬の(すき)をついた怪力の騎士が岩を頭上に落とす。


 岩が砕けると同時に、再度連携攻撃を繰り出す、青と赤。それにフィリップとカレンが続く。

 同時に襲い掛かる四騎士の咆哮。

 

 「おそい」


 修羅は、後ろからきたフィリップには蹴りを。正面のカレンには掌底(しょうてい)をいれて、跳躍。

 青と赤は互いにお見合いする形になり、踏みとどまった。


「放て!」


 私の号令とともに数々の魔法や矢が飛ぶ。騎士だけではない。兵士や駆けつけた戦士もいる。矢も魔法もない者は、剣でも何でも投げつけた。

 

 空中では逃げ場はなく、修羅はカタナで攻撃を跳ね返してゆく。戻ってきた矢じりにこちら側にも被害が出る。

 されど、修羅とて全てを防ぎきることは出来ない。圧倒的な物量が空中に集結し、修羅を押しつぶしてゆく。


 誰かが「勝った」と言った。いや、まだだ。

 これで倒せるような相手じゃない。だから力を。ありったけの力を聖剣に込め続ける。――


 落下――

 落ちてきた修羅が始めて膝をついた。


「いまだ!」

「とどめを――」


「おう!」


 左腕を水平になぎ払い、盾を低く飛ばす。その後ろから神速で修羅に迫る。


 修羅は下を向いている。今が好機。


 飛翔する盾に飛び乗り、さらに踏み台にして私自身を発射する。全てが刹那の出来事。突き出した聖剣ごと修羅を貫かんとす。


 瞬間。全身をなめ回す悪寒。無限に等しいほど、引き伸ばされた時の中で修羅が(わら)ったのが見えた。


 その左手は鞘を。右手は柄を握っている。


 低い膝をついたままの、その姿勢から技を繰り出そうというのか?


 いや、絶対に間に合わない。こちらが早い。


 しかし身体が死を確信している。


 目が合う。


――『死』そのものと目が合ってしまう。


 攻撃を捨てて防御。きっとだめだ。聖剣でも防げない。


 ゆっくりと、ゆっくりと鞘から白刃が姿を現してゆく。


 それより更に遅く、聖剣を太刀受けの構えへと移行してゆく。

 

 みんなすまない。私が弱いばかりに。




――ズガンッ

 静止した時間は、黒く巨大な剣、に破壊された――


 

 あの日の剣が地面に立っている。深く、突き刺さっている。


 修羅と私の間に。あの日見た大剣が。


 修羅は動きを止め、再度白刃を鞘に納める。


 私は後ろえりを掴まれていた。鎧の(えり)の部分だ。


「王……」


 あの日見た、黒い騎士がそこにはいた。


「ユリウスよ、大義であった」 

 私をおろした黒い騎士は、静かに言う。兜の下から出る白髪は以前より長い。


「……貴様が親玉か」


「親玉? はっはっはっ。いかにも。我は王。我こそ帝国そのものである」


 引き抜いた大剣を肩にかつぐと、黒い騎士は、無骨な鎧と同じ無骨な言葉を話された。

 されど、その気配はまさしく王、そのもの。

 荘厳(そうごん)で気高く。絢爛(けんらん)であり洗練。


「小僧、いや修羅よ。我が軍門に降らぬか?」


 誰もが予想外の言葉。今度は修羅が大声で笑い出す。


 その様子をいつの間にか地下牢から出てきた、刺青と木こりが見ている。国の一大事に、警備の者が、持ち場を離れたのだろう。


「笑うか修羅よ。すきあり!!」

「ねぇよ!」


 


 ……恐ろしい剣の冴え。聖騎士であるユリウスをもってしても見えなかった。

 大剣という鈍器のような得物を扱いながらも、その技はひたすらに無駄がなく、美しかった。

 その一撃を修羅もいつの間にか抜刀していた剣で受け止め、――否。

 受けはしたものの、止めきらずに吹き飛ぶ。

 城の一部を大きく破損させて、なおも一直線に飛び、塔の壁にぶつかってようやく止まった。



 なんつう重い剣だ。[武器強化:弐]が済んでなかったらヤバかったな。

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