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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第四章 聖騎士と修羅と
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第33話 転位魔法の騎士

 ロアーヌ帝国北側の街道、監視拠点まで徒歩で10日といった距離。その道を殺人的加速で突き進む影があった。

 騎士の名はアウゲンスト=ペルシュベルン。鉛色のローブを身にまとうその姿は騎士というより魔法使いのそれに近い。彼は今、特殊な乗り物に乗っている。

 正確には、地面から少し浮き上がるだけの機能しかもたない、魔道具だ。

 その推進力は魔道具を引く綱の先端、竜の次に速く飛ぶと言われる男、異端のユーグリットである。

 絵面(えづら)としては巨大な、かまぼこ板の上に男が乗っていて、それをスーパーマンが引いているような滑稽なものである。

 しかし彼等は真剣そのもの、特にアウゲンストはこの任務に命を賭けている。

 王の勅命は二日前、自分の人生最大の仕事となるのは疑いようがなかった。なにしろ聖騎士の命がかかっている。

 

 

 ――星詠み姫・王女モリニカの魔法が、聖騎士ユリウスの死を予見した、上空から襲来した黒づくめの男に両断されると。

 王女の魔法は占いのようなもので、二年先から六割の確立で不作が続く、とか。盗賊がロアーヌの南側の何処かの町に来る、かもしれない。

 といった不確定なものだ。

 しかし具体的に誰かの死を予見した場合は、少々話が異なる。

 何も手を打たなければ、必ずそうなる。

 手を正しく打てば回避出来る。

 過去の事例では、そうであった。


 

 作戦は単純。協力してもらったユーグリットに、聖騎士ユリウスの所まで運んでもらい、聖騎士を連れて帰る。それだけだ。

 その為に、アウゲンストは呼ばれた。



 

 


 ――「チンピラのムサシを今後は識別名『修羅』とする。ロトチャフ連邦国は離れたらしいが、まだ付近に潜んでいるかもしれない。重々注意するように、私は帝都に帰り、王に報告する」

「ハッ! 承知いたしました。聖騎士様もお気をつけて」


 拠点を離れて帝都に向かう。王に修羅の脅威が、想定以上であることをお伝えせねばならない。


「修羅め、必ず見つけだしてやる」

 

 決意を新たにした帰路の途中、前方から接近してくるユーグリットとアウゲンストを視認する。

 魔力を使い果たしたのか、異端のユーグリットはその場に倒れこむ。と同時に今度はアウゲンストが全速力でこちらに駆けてくる。何か急ぎの用があるとみた。

 こちらもアウゲンストに駆け寄ろうとして、考える。

 伝令であればアウゲンストでなくても良いはずだ、彼の魔法は……長距離瞬間移動。

 そう転位だ。

 だとすれば私を転位させるために? どこに転位するというのだ? 

 いや場所は重要ではない、何故私が転位させられるのか?!

 答えは……


「そこか!」


 上空を睨んだその先に、太陽を背にして修羅が落ちてくる。 


 聖剣がまばゆい光と共に鞘から放つ。下段からの一撃はかつてのチンピラであれば命がない、少なくとも殺しても構わない、そういう気構えは済ませている!

 

 ――――!!!!


 ぶつかったのは二つの剣。音はその何千倍の質量が衝突したかのような不協和音。衝撃で足が地面に沈む、それでも足りず大地がひび割れる。


 重い、重すぎる。

 

 衝撃を反発力に変換したのか、修羅が遠くへ跳躍。着地するやいなや姿勢を低く下げ突進の姿勢。

 迎撃しようと剣を構え……腕が上がらない!

 視線を外している場合ではないと理解しながらも、自らの手を見る。籠手(こて)はまだ聖剣を握っている。しびれてはいるが指は動く、よかった。腕も手もまだちゃんとついている。

 ……いや、最悪だ。聖剣が、王より(たまわ)ったロアーヌの宝に亀裂が走っている。

 殺気が空気を塗り替える。私の周囲だけが暗闇になったような錯覚。

 やはりかつてのムサシとは別格。


「いけっ!」


 左手の盾を飛ばす。自動防御の魔法に従い、盾が修羅との間に割って入る。


「邪魔だ」


 盾が簡単に弾き飛ばされる。ありえない、どれだけの攻撃を与えられてもビクともしなかった盾が。

 飛ばされた盾が、再度立ちふさがろうと猛スピードで(くう)を飛ぶが修羅の速度はまるで瞬間移動。比較にならない速さで間合いが潰されていく。


 黒い殺意が近づく、空気の重さで呼吸が出来ない。陸で溺れる。

 感じたのは聖騎士にあるまじき心の弱さ。剣にひびが入るなど、あってはならぬこと、されど我は……。


「覚悟!」 

「ユリウスーーーー!!」


 二つの叫びと人影が、目の前で交差する。――――




 ――――凝縮された世界が再生する。


「ここは……」

 見覚えがある景色に安堵する。飛び込んできた人影はアウゲンストだ。

 こいつの転位に助けられた。


「ありがとう助かった」


「へっ! いいってことよ、これで少しは借りが返せたな」


 アウゲンストの口調が普段の硬いものではなく、同じ一兵卒(いっぺいそつ)時代のものになっている。


「――!! 誰かー! 誰かおらぬかぁー!」


「聖騎士がうろたえるな、そんなことじゃアイツに勝てないぞ」


「アウゲンストッ! お前、血が、血がこんなに」


「今回は勝負の邪魔しちまったがよ、なに、次勝てばいいさ。次は邪魔しねぇからよ。……なぁユーリ」


「しゃべるな、今人が来るからな。クソッ! 俺に回復術があれば」


「本当は一発で帝都まで行きたいとこだけどよ、俺の『転位』じゃこの村が限界距離でな、まぁあとは自力で帰ってくれや」


 アウゲンストが転位陣を作ったのは、村はずれにある納屋の中。

 声を聞いた村人が駆けつけ、多くの人に見守られながら騎士アウゲンスト=ペルシュベルンは旅立った。


「……お前は任務を立派に果たした。次は私の番だな」


 友の血だまりの上に立ち上がる。手のしびれは遠く、怒りと悲しみで胸が震えていた。

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