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修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~  作者: 雷然
第一章 運命は貴方を呼んでいる。
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第1話 ワシが俺にかえった日



 いつからだろう、己の人生の着地点を見失ったのは、死ぬときは愛する家族に見送くられて逝きたい。


 愛する女性(ひと)に感謝の言葉でも言って、安らかに眠りにつきたい。……しかしもう今更、遅すぎる。


 いつからかだろうか、身体が十分に動かなくなったのは。

杖が手放せなくなってもう長い。メガネも必要だ。補聴器もないと困る。

 若い頃の細胞はそのひとつひとつが生きてるって感じだったのではなかろうか……今にして思えば。


 一昨年の暮れに弟が死んだ。俺と違っていい奴だった。

その息子家族も良い人達だ、遺産もない手間のかかるだけのワシを、ひとりでは何かと不便だろうからと一緒に住もうと言ってくれた。


 弟の孫達は可愛いし、正直言えば、一緒に暮らしたい気持ちもあったが、くだらないプライドの凝り固まったワシは断った。

もしボケたり、下のほうで粗相(そそう)をしてしまったり、そういったところを見られたりするのが嫌だったのである。


 実に下らない。何の取り得もなくプライドだけが肥大し、他者を見下してきた己に全ての責がある。

 今なら、今ならばそうわかる。社会が悪い、ワシを理解しない他人が悪い。ワシは凄い、偉くて尊敬されるべき人間だと思い込み、自己を研鑽(けんさん)してはこなかった。


 努力や経験を積み上げ、自己を鍛え上げ。

 そして成長を実感する喜びにあふれた人生でありたかった……。


 今日も寒い布団で、ひとりで眠る。






  ――遠くで、遥かどこかで、誰かが。ナニカが笑っている。――







 ――日差しがあたたかい。

 まぶたの外が眩しい、布団が……地面が……カタイ?

 なんだろう、朝か? 土の匂いがする。

 布団から出て……いや、布団がない、ボケて変な場所で寝たのだろうか?


 ひとまず上体を起こして目を開けよう。

「あれ?」

 思わず声が出る、普段なら手や肘をついてノソノソと起き上がるのが今日は妙に身体が軽く簡単に上体が起こせた。


 いや、それより大きな異常が目の前にある。どうやら本格的にボケたようだ、変な場所で寝てた、というか野外だった。

 知らない、見たこともない森だった。

 幻覚を見るようになったのか? まだ寝ていて夢の中なのか、それもと寝ている間に外を移動してここまで来たのか?


 立ち上がってあたりを見渡す。脳は混乱していて事態が飲み込めない、昨日のことを振り返ろうとするが、それよりおかしなことがありすぎて何から整理していいかわからない。


 「ここはどこだ?」……森だ。家の近くには森なんてなかったはずだ、 遠くにビルすら見えない。

 右も左も、360度どこをみても森としか言えない。


 そして他の違和感に気づく。


 「つーかめっちゃ見えるんじゃが?メガネしてないのに?」


 「そういや杖もないけどしっかり立てる、膝も上がる。」

 

 手のひらを見る、誰の手だ? しわが少ない。耳の近くに手を持っていき手を叩いてみる。パチン! 聞こえる! 遠くで小さめに叩く……やはり聞える。

 ワシはどうなった?

 ワシではない誰かになったのか? 夢? 若返った? それ以外に体の不調が治った理由は?



 ――起床してどれくらいたっただろうか、ワシ……いや、『俺』は森の中で奇声を上げていた。

「うひょーーー」森を走る俺、裸足なので多少痛いがそんなことは気にならない、実感が湧いたのだ、恐らく信じられない話だが若返った、あるいは生まれ変わったのだろうと。

 たしかにまだ頭がイカれたか、夢か、幻覚か、そういった可能性はあるが、手に入れた若い身体の魅力の前では些細な問題だ。


 嬉しい、こんなに嬉しいことはない、神など信じたことはなかったが、もしこれが神の御業(みわざ)ならば俺は心から神に感謝しよう。


 そうして喜び、神に感謝し、時間を費やし、現実が襲ってきた。これからのことを考えなくては。

 戸籍はどうなる? 本人証明は? そもそもこんな深い森から出られるのか? 捜索とか来るのか? 自分が出て行ったことを知るものはいるのか?


 いかんな、まずはどうやって森を出るかだな、家の方向はわからんが同じ方向に歩き続ければ森は抜け出せるだろう、夜になると危なそうだ(昼でも危ないかもしれないが)

 同じ方向に歩くとしてどうすればいいか、太陽を基準に使えばいいのかな。

 などと、とりとめなく考えているとソレがやってきた。


 蚊だ。俺の血を吸おうというのか、少し前の俺なら苦労していただろうがこの肉体となった俺の前では下等な貴様に血をくれてやる俺ではないわ!

 と若干変なテンションになった俺の両手が蚊を襲う。


 撃破! 一撃の下に葬りさった。敵を捕らえる目、羽音を聞き逃さない耳、そして素早く動く体、やはり若さは素晴らしい。そして小さな違和感。何かが体の中に蓄積された感覚。

「――?」しかし程なく違和感は消え、不思議な事態に当然ほうり込まれ混乱している現状では気にすることもなかった。


 森をしばらく行くと音が聞える……川だ、運がいい。この川を下れば森を抜けられる、川を下りながら途中出くわす蚊に天誅をくだしていく、そうして何匹目かの蚊を返り討ちにした瞬間にソレは起こった。

『テレテーテーテッテレー♪』

愉快なファンファーレが鳴る。ステータスの上昇、体力の回復を感じる。

 ステータス? なんだそれ? いや言葉の意味は解するがいま俺は何を感じたんだ?

 まだある。

 『スキル[レベル感知]を獲得』誰だお前は? どこから喋っている?

 周囲を見渡す俺。

 あたりには誰もいない。





  …………マジでここは何処だ?






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