第15話 騎士中の騎士
そして本戦がスタートした。
といっても今日は俺の出番はない、本戦トーナメント1回戦は2日間に分けて8戦ずつ執り行われる。
今日の注目は予選を免除されている2人の内の1人、ユリウスという騎士だ。
本名、ユリウス・リアン・フォン・ノール。
この国の兵士達の上に騎士がいてユリウスはその騎士達の頂点。聖騎士の称号を与えられた存在だ。
例の資料にそう書いてたった。
平和な国のナンバーワンの騎士。
その実力見てやろうじゃないか、この国、あるいはこの世界のひとつの目安になるはずだ。
1回戦だというのに6万人収容できる闘技場は満員で、その人気の高さが伺えた。
チケット代すらもったいない俺達だが実は、本戦参加者はお金を払わずに観戦できることを知らされていた。
流石は大きな大会だ、運営側の配慮がありがたい。
闘技場の案内所に出向くと顔パスで、ひとつの部屋に誘導された。
30名ほどが入れる個室だ。そこにキャサリンと連れ立って入室した。
別にVIP席って訳じゃない、俺みたいな金のない本戦出場者が観戦する為の席だ。
俺達の他にも本戦参加者や、その連れが何名かいるが当然見知った顔はいない。そしてレベルの有る者もいなかった。
さて、ユリウスはどうだ?
出てきたユリウスに闘技場の歓声があがる。
室内にもトトカルチョの券だろうか?紙を握り締めて応援しだした奴がいる。
ユリウスは装飾を施された立派な全身鎧と盾、仰々しい鞘に入った剣。それとは別に闘技場が貸し出している刃引きされた剣を手に持っていた。
レベルは無しだった。
見た目は立派だがあんな重そうな装備で戦えるのだろうか?
疑問を持つ俺を他所に、開始の合図が放たれた。
敵の得物は槍だ、間合いは有利だし相手が鈍足となれば懐にも入られにくい。
「ぜあぁー!」
気迫のこもった一閃。ユリウスはまるで何も装備していないかのような速度で槍をかいくぐると盾をたくみに使い、槍を下からかち上げる。
「ふっ!」
そこから相手の首すじに剣を滑らせ―――寸前で止めた。
圧倒的な実力さに対戦相手も素直に降参する。
「勝者!聖騎士ユリウスー!」
――控え室に戻ったユリウスに声がかけられる。
「お疲れ様ですユリウス様、1回戦突破、おめでとうございます」
「楽勝でしたね、ユリウス様、鎧脱ぐのお手伝い致します」
彼女達は従者ではない、若いが立派な騎士だ。貴族出身だが不断の努力によって騎士の称号を授けられている。
「ヨーヘンブルクは名手だよ、楽勝なんかじゃないさ」
どうみても楽勝だったが、ユリウスは相手に対する敬意と気遣いを忘れない。
そうして剣のみを腰に帯びたユリウスは闘技場の最上階、VIP席にいる王のもとに出向く。
「王、ユリウス様がお見えになっています」
「通せ」
「ハッ」
扉が開かれユリウスが入室し、王の前で跪く。
「ユリウス、見事であった。そなたこそ国の宝、騎士中の騎士である。この国の威信、そして強さを見せつけよ」
「仰せのままに」
短いやり取りを交わし、場の空気が和らぐ。
「なぁユリウスよ、お前は最強だ、武闘祭を通し様々な勇者達を見てきたが、お前程の奴はおらなんだ、貸し与えた武具もお前でなくば力を発揮せぬだろう。我はさきほど強さを見せつけよと申したが、相手が弱すぎればそれも適わぬのではないか?」
王に断りなく面をあげたユリウスが言う。
「恐れながら我が王よ、世界は広いものです」
「そうか……ふむ、そうだな」
歓声が聞こえてくる……。次の試合が始まろうとしていた。
「ユリウス、一緒に見ていくか?」
「ハッありがたく」
王の指示で部屋の端で待機していた兵士が椅子を持ってくる。
帝国の王と椅子を並べた騎士中の騎士は下界を眺めるのだった。
「ねーダーリン試合どうだった?」
「どう?とは?」
「ぶっちゃけ勝てそう?あのユリウスに」
「力負けすることはないはずだ、見た目以上に早いが俺なら問題ない、しかし今日のアレじゃ実力の底がまったく見えないのも事実。要約するとわからんってのが答えだな」
「ふーん、やっぱりユリウス様は凄いんだ」
『様』なんてつけやがって、そう思ったが口には出せない、からかわれるのがオチだ。
「どのみち聖騎士と戦うとしたら決勝だ、今は明日の試合に集中する、明日の相手はどんなのだ?」
「ダーリンの対戦相手はねぇ『人形使い』だよ」
王の言う勇者とは勇敢な者という意味の勇者です。RPG用語の勇者ではないのであしからず。