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はじめての農業

 フリンテがフォリシスと洞窟についての話をしている間、リツたちは雑貨屋に来ていた。

 小さな雑貨屋だが、村人だけで使うには十分な数の品が揃っている。もちろん、外からくる旅人などに売ることもある。


「種は奥じゃけぇ、案内しちゃる」

「悪いな。あれ、でも金はどうするんだ?」

「ツケで大丈夫じゃ、オリャはいつもツケにしちょる」


 雑貨屋に置いてある種は村で一番大きな農場を持っているベジルが提供している。

 村人たちは、一部を除いて皆小さな畑を持っているので、種は意外とよく売れるのだ。


「ツケは別にいいんだけど、お金返してくんない?」

「あ、セズナさん。こんにちは」


 店の奥から出てきたのは、茶髪を腰まで伸ばしたつり目の女性だった。彼女の名前はセズナ、雑貨屋の娘で、店員だ。


「おお、リツくんよく来たね。んでツェント、前に買っていったパンの代金がまだなんだけど? ですけど?」

「丁寧に言い直さなくてもよか……ほら、釣りはいらねぇ」


 ツェントはそう言いながら銅貨を一枚セズナに投げた。パンは一つ銅貨一枚で売られている。


「ツェントさん、投げちゃダメです!」

「お釣り出ないでしょこれ」


 銅貨をキャッチし、袋に入れたセズナは、ため息をついてからリツたちを見た。


「今日は何を買いに来たの?」

「作物の種を売って欲しい……というか、本当にツケでいいのか?」

「うん、話は聞いたからね。ツェントと違って一文無しなのも納得できるし」

「オリャ、そんなに金ないように見えちょるんか」

「お金はあんたが一番持ってると思うんだけど……」


 ツェントが雑貨屋に行くのはお腹が減った時で、いつもお金を忘れて家を飛び出す。そして毎回ツケにして買い物をする。

 これが延々と続き、今に至る。ツェントはもう先に金だけ渡せば楽になると提案したが、めんどくさいの一言で断られてしまった。


「作物の種は、ここだよ。この時期(フリュー)だと、カブがおすすめかな。初心者なら尚更ね」

「カブか……よし、ひと袋くれ」

「はいよ、銅貨四枚だけど、大きい農場持ちならお得意さんになるし、タダで上げるよ」

「それは流石に……アッハイありがたく頂戴致します睨まないで」


 受け取りを拒否しようとしたリツをセズナが睨みつけた。それに気圧されて、リツは袋を受け取った。

 袋には、カブの種が詰まっている。


「カブは初心者向けですね、さっそく植えに行きましょうか」

「だな。種、ありがとなセズナ」

「いいっていいって、また来てね」


 リツはカラランとドアに取り付けられた鈴を鳴らしながらドアを閉めた。

 村人の優しさに、リツはフォリシスの言っていた「みんなが家族だと思って、みんなで協力しながら過ごしていく」という言葉に込められた思いが、少しわかったような気がした。


* * *


 農場に戻ってきたリツは、種を持ちながら植える場所を探してうろうろしていた。


「はよ決めんか、どこに植えても同じじゃけ」

「じゃあさっそく……」


 リツは家に置いてあった小さなスコップで穴を掘り、そこに種を植えた。

 そして上から土を被せた。これを何度か繰り返した。


「ふぅ……こんなんで育つのかな」

「ここの土地は植物がよく育つからの、普通の雑草が、ここまで育っちょるんはそのせいじゃ」

「ああ、だからこんなに生い茂ってんのか」


 育ちやすい土地は放っておくと雑草が驚く暇もなく育ってしまう。メリットもあればデメリットもあるのだ。

 除草を疎かにしていると、ご近所から「あそこの畑は雑草を育てているのかしら、オホホのホ」と言われてしまうから気をつけよう。


「ジョウロ持ってきました!」

「ありがとう、これで終わりか。明日は一日草刈りだなこれは」


 終わる気配がしない草刈りに憂鬱になりながら、リツはジョウロで水を撒く。


「明日……そうです! 明日はダルドさんが村に来る日です!」

「ダルド?」


 聞いたことの無い名前に、リツが反応する。


「城下町から来る商人じゃよ、この村の資金源みたいなもんじゃ。変わったもんを買うもよし、取れた作物を売るもよしじゃ。リツは金がないからの、何か売れるもんでも探したらどうじゃ?」


 城下町から定期的にくる商人、ダルド。彼は趣味で村に来ては一泊して帰っていく。本業は城下町での商売なのだが、雇われるのが嫌いで城との関係は築いていない。

 村人たちにも慕われていて、特にツェントが金属関係でお世話になっている相手だ。


「売れるもんったって、まだ作物もできてないんだぞ?」

「別に作物じゃなくてもよかとよ、そこらに落ちとる山菜でもええ。アイツはゴミじゃ無ければなんでも買うからの」


 ダルドは村人に引けを取らない変わり者である。ヴィーダ村は、普通の人の方が少ないので、相性がいいのだ。


「それとも、洞窟の金属でも掘って売りつけると?」

「それだ!」


 今日は博多弁が多めなツェントの言葉に、リツが食いつく。


「ありゃオリャの金属になるんじゃぞ?」

「ツェントさんのでしたっけ……?」

「いや、俺が持っていったら農具にしてくれるって話だったはずだ」


 実際、お金も農場も道具も足りて満足している村人は、洞窟の金属を欲しない。あの金属を欲しがるのは鍛冶キチのツェントと金ナシのリツくらいなので、加工技術のないリツはツェントに持っていくしか使い道がなかった。

 しかし、商人であるダルドに渡せば貨幣が手に入ることを知ったリツは、どちらかを選べるようになったのだ。


「くそぅ、ダルドとオリャで分けることになるんじゃな……それでも打てる量は増えるし、むむむ……」

「ツェントさんが直接掘れば自分のモノにできますよ?」 

「たわけぇ! そんなことしちょる時間があるなら剣を作っちょるわ!」


 ツェントは金属は欲しいが、自分で掘りに行くのは時間がもったいなくて嫌らしい。


「余ったらツェントに持っていくってことでよくね?」

「確かに……」


 その後、フォリシスに洞窟の報告をしたフリンテが自由に使える許可を取ってきた。

 こうして、リツの農業生活が幕を開けたのだった。

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