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草刈り

 村人全員との挨拶も終わり、一人で草を刈り始めたリツ。土で手が汚れながらも、順調に土地を増やしていく。

 やっている間は疲れるが、ふと終わった土地を見て嬉しくなる。見えていなかった土が、どんどん広がっていくのだ。


 少し休憩をするため切り株に座っていると、農場の雑草がガザガサと揺れた。話に聞いていた魔物かと思い、リツはカマに手を伸ばすが、すぐに人だと気づきカマを置いた。


「これは酷いのぉ、お前さんも大変じゃなぁ」

「ツェントか、なんで畑の中通ってきたんだ?」

「剣が完成したんでな、ちょいと試し斬りじゃ」


 ツェントの手には剣が握られていた。農場に来るまでの間に雑草を斬っていたらしい。


「うーむ、もう少し広げりゃ畑として使えそうじゃな。どれ、手伝ってやろう」

「本当か? 助かるよ」


 雑草に向かって歩き出したツェントは、手前で剣を構えた。そして、地面すれすれの茎を切り裂いた。

 切られた雑草は次々に倒れ、新たな空間が生まれた。


「こんなところじゃな、流石にオリャでも根っこまでは無理じゃけぇ、そっちで勝手にやっちょくれ」

「おおお! ありがとう!」


 キンッと剣を鞘にしまったツェントは、農場を見渡した。


「いいってことさね。それより、こんだけ大きい土地じゃ、畑だけじゃあなく酪農をしてみるのはどうじゃ?」

「酪農か……まあ考えとくよ」

「おうおう、魔物でもひっ捕まえて飼っちまえばいいんじゃよ、魔物なんぞ凶暴な動物みたいなもんじゃからの」


 この世界において、家畜は大きく二種類に分けられる。牛や鶏などを飼って牛乳や卵を手に入れる方法と、牛や鶏の魔物を飼って牛乳や卵を手に入れる方法だ。

 どちらも目的は同じだが、危険度が違う。

 普通の動物で酪農をする方法は、危険が少なく安定性がある。しかし、値段が高い割に動物は死にやすい。

 次に魔物で酪農をする方法だが、これは大変危険である。なにせ魔物だ、飼い主が死ぬ危険性がとても高い。しかし、手懐けてしまえばこっちのもの。タダで高品質な牛乳や卵などが手に入る。そして、死ににくい。


 どちらもメリットデメリットがあるが、今のリツにできるのは魔物を使った酪農なので、実質一択であった。


「記憶喪失と聞いちょる。このまま記憶が戻らなくてもいいんか? お前さんがそれでええならええんじゃが、どうせ気になっちょるんやろ?」

「まあ、自分の記憶だからね」

「手がかりを探すにしても、まずはここでの生活を安定させなきゃあいけねぇ。金になるモノを集めておったほうが何かと便利じゃぞ」


 金になるモノ。羊の魔物の羊毛や、鉱石、宝石、作物などだ。


「今はとにかくひたすら雑草を刈るしかないんだ、その時になったら、相談でもするよ」

「おう、いつでも来てええよ。じゃ、オリャまた鍛冶に戻る」


 鉄を打つことを生きがいにしているツェントは、最早鍛冶中毒と言っても過言ではないだろう。なぜ一酸化炭素中毒にならないのだろうか。


「頑張れよー、さて、俺も作業に戻りますか……」


 リツはクワを手に取り、根っこを掘った。


 空が赤く染まった頃、リツは草刈りをやめ、川で顔を洗っていた。

 ふと、上流に行ってみたくなった。リツは立ち上がり、川沿いに歩き始める。


「この山か……今日中に登るのは無理そうだな。ん?」


 諦めて帰ろうとしたリツは、岩と岩の隙間に空間があることに気づいた。中を覗いたが、真っ暗で何も見えない。光属性の魔法でも使えれば光源を確保できたのだが、リツには魔法の知識はない。


「エイスに聞いてみるか」


 この洞窟を、村人は知っているかもしれないと思い、場所を覚えたリツは、夕飯を食べるためにエイスの家まで歩いた。


* * *


 エイスの家まできたリツは、イルニスとエイスに洞窟について聞いた。

 しかし帰ってきた言葉は、知らないという言葉だった。エイスもイルニスも山にはたまに行くが、そんな洞窟は見たことがないらしい。


「洞窟かぁ……あ、あれじゃないか? この前にあった土砂崩れ」

「確かにそれから行ってないです……リツさん、明日ツェントさんも連れて行ってみましょうか」

「でもあそこ暗いぞ、小屋にあった光鉱石? とかいう奴は明るくなるけど重いし、持っていけないぞ」


 リツの小屋には金属のオブジェに光る鉱石、光鉱石が付けられた照明が置いてある。金属部分が大きく、重いため持ち歩くには向いていない道具だ。


「リツさんは、魔法が使えないんですか?」

「逆にエイスって魔法使えたの!?」

「みんな使えますよ? とはいえ、実は私全然使いこなせないんです……」


 リツは驚いた。記憶喪失とはいえ、残っている記憶はある。魔法があるのは知っていたが、誰でも使えることは知らなかった。


「もしかしてイルニスさんも……」

「もちろん使える」


 イルニスは指先に小さな炎をボッと出現させた。


「使い方を、教えてくれませんか」

「無理だな、俺たちはそもそも教わって魔法が使えるようになったわけじゃないんだ。城下町には、魔法を上手く使いこなせる方法を教えているやつもいるらしいが、俺たちは感覚で使ってるんだ」

「使い方を知らないとなると、その城下町で教えている人に教わるのが一番いいと思います。得意な属性も人によって違いますから」


 魔法、いや、魔力は誰にでもある。それぞれの属性の魔力を操ることによって魔法にするのだ。

 イルニスが今やっているような小さな炎は、正式には魔法ではなく、魔力だ。その魔力が大きくなったものが、魔法と呼ばれている。

 人によって、炎属性の魔力が多かったり、風属性の魔力が多かったりする。エイスは光属性の魔力が多いので、光魔法が得意ということになる。


「よし、城下町に行く時は絶対にその人に教わろう」

「水属性が得意だといいですね、水やりが楽になります!」


 エイスやイルニスなどの感覚で魔法を使っている人間は、大きく成長はしない。魔法の正しい使い方を学ぶことによって、成長の限界を増やすことができる。


 家に帰ってきたリツは、いつか城下町で魔法を教わろうと思いながら、ベッドに入ったのだった。

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