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ヴィアニルズ家

 村長の家は、他の家に比べてとても大きい。村長でありながら、貴族のように使用人を数人雇っている。

 最初に訪ねた時には執事服を着た使用人が対応してきた。


 挨拶を終えたリツたちは、再び村長の家にやってきた。


「すみません、村長って帰ってきましたか?」

「リツ様とエイス様ですね。ええ、もうお戻りになられましたよ。お会いしますよね、どうぞ」

「ありがとうございます」


 旅館のように広い屋敷は、一階と二階にわけられている。村長の寝室は二階の正面だ。

 使用人はドアをノックし、村長を呼ぶ。


「フォリシス様、ご客人です」

「入れ」


 ドアの向こうから高い声が聞こえた。リツは村長というからには男だと思っていたが、違うらしい。

 使用人の後ろにつくようにして中に入る。


「お久しぶりです、村長さん」


 エイスがリツと使用人の横をトタトタと小走りで通り過ぎ、村長に抱きついた。


「エイスちゃんじゃないの! 随分と可愛くなったわね……客人は、そこの男の人よね?」

「そうです、はずれの農場に住むことになったんですよ」


 今日何度もした説明をエイスがする。


「ということは新しい村人だね。君、名前は?」

「リツです、あの、俺記憶がなくて迷惑かけちゃうかも知れませんけど、この村に置かせてください!」

「……すごくいい子じゃない! わたしはフォリシス・ヴィアニルズよ。この村に住むことになったんだから、わたしの家も確認を取らずに入っても構わないわ。他の村人達もそうだったでしょう?」


 リツは村人の家には勝手に入っても構わないと、会った村人全員に言われていた。

 何がとは言わないが、最中だと困るので、ノックは必要だ。

 世の中の親は、ノックをしないでズカズカと部屋に入ってくる。とても迷惑である。


「確かにそう言われましたが……村長の家に勝手に入っていいものかと……」

「わたしね、村は大きな家みたいなものだと思ってるの。みんなが家族だと思って、みんなで協力しながら過ごしていく……それって素敵だと思わない?」


 フォリシスは、みんなで仲良く暮らすことを目標としている。

 このウィーダ村は、城下町に直接干渉されていない唯一の村である。だからこそ、その目標を達成出来るとフォリシスは思ったのだ。


「素敵、ですね。俺もそれに馴染めるように頑張ります」

「よしよし、それでいいのよ。わたしもできる限り協力するわ」


 それからしばらく世間話をした。ふと、リツはツェントの言った言葉を思い出した。そう、フォリシスには娘がいるのだ。


「娘さんがいると聞きましたが」

「あの子は……隣の部屋にいるわ。口はアレだけど、心優しい子よ。会ってくれるかしら」

「もちろんいいですよ」


 ツェントは厄介だと言っていたが、言うほど口は悪くないのだろうとリツは思っている。


「まあ、ありがとう。それじゃあこれで今日はお別れね、娘によろしく頼むわ」

「はい、また今度です。リツさん、行きましょうか」

「おう」


 リツとエイスは部屋に残った使用人とフォリシスに手を振られながら、隣の部屋に移動する。


「村長の娘ってどんなやつなの?」

「とっても可愛い子なんです、私は照れてる顔が好きです」

「そうか」


 何一つ情報を得られなかったリツは、諦めてドアを見る。ドアには『フリンテの部屋』と書かれた板が打ち付けられていた。その板の下あたりをノックし、ドアを開けた。


「フリンテちゃん、遊びに来ましたー」

「あら、エイス久しぶりね。と言っても一週間くらいかしら。随分と面白い髪飾りじゃない、変わってるのね」


 藍色の髪の毛に大きな紫色のリボンをつけた少女フリンテは、エイスを見るや馬鹿にしているのか褒めているのかわからない言葉を投げかけた。


「エイス、あれは褒めてるのか?」

「すごく可愛いって言ってくれてます、とっても嬉しいです!」

「なっ! そんなんじゃないわよ! 大体その男誰よ!」


 浮気を目撃したかのような言い方で、フリンテはリツを指さした。


「リツだ、よろしくな」

「ふん、まああたしのことはフリンテと呼んでくれても構わないわ、リツ」

「呼び捨てで呼んでほしいらしいです」

「なるほど、何となくわかってきた。面白いなこいつ」


 リツはフリンテの頭を優しく撫でた。


「や、やめなさい! 怒るわよ!」

「おおすまん」


 リツは撫でるのをやめ、再び向き合った。


「あっ……」

「これは撫でて欲しかっ」


 フリンテはエイスの背後に回り、口元を抑えた。エイスは涙目になりながらんーんー唸っている。

 女の子同士が顔を真っ赤にして密着しているのを見て、リツのプリッツはポッキーしかけたが、なんとか耐えた。


「わー! わー! ……んんっ、そんなことより、あんたは何者なの? 観光? この村の変わった物なんて荒れ放題のクソみたいな農場くらいよ?」

「そのクソみたいな農場に住むことになったんだ、これからよろしく」


 フリンテは印象が悪くなってしまったのではないかと不安になったが、リツは実際にクソみたいな農場だと思っているので問題はない。

 エイスは口を抑えられたまま、ぐでっと力を抜いている。


「嘘でしょ!? いやまあ確かに空き家なんてあそこくらいしか……というか、見ず知らずの人を村に住まわせるなんてお母様が許可するわけ……あるわね、もしかしあんたいい人?」


 フォリシスは過去に盗賊であることを隠して村に住もうとした男を追い出したことがあった。それを見たフリンテは、お母様ならこの村に悪い人は入れないから安心だと思った。


「おう、めちゃくちゃいい人だ」

「あー、お母様見る目ないわね……精々迷惑はかけないでよね」

「そりゃもちろん」

「あなたもエイスに似て変わった人ね……」


 エイスは事ある毎に印象が悪くなる言葉を選んでしまう癖がある。しかし、リツとエイスにはそれが効かなかった。

 リツは『本当は優しい』ということを最初に知ったから。

 エイスはその優しすぎる性格で、常に相手のことを考えているから。


「そろそろ帰るか」

「そ、そう……さっさと行けば?」

「また来てやるって、凹むなよ」

「ふんっ、好きにすれば? あと凹んでなんかないわ」


 腕を組みながらふんすと見下すフリンテに見送られながら、リツは農場に、エイスは自宅に戻った。


 リツは村人全員に挨拶をしたと思っているが、実はまだ全員ではない。


「あっ、そういえばテルセロさんの家に行ってませんでした……今からだと遅くなってしまいますし、また今度にしましょう」


 リツがテルセロという男に会うのは、数日後のことであった。

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