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放置された畑

 手首足首の傷はすっかり治り、普通の生活ができるようになったリツは、早速言われていた仕事をするため、イルニスの後ろを歩いている。


「この奥だ」


 村の端にある雑草だらけの土地に連れてこられたリツは、草を掻き分けながら先に進む。


「着いたぞ」

「小屋……?」


 背の高い草をずらし、イルニスが指さした先を見ると、木で作られた小屋が建っていた。

 家の周りは整備されていないが、家自体は定期的に掃除もしているように見える。


「ここでどうするんですか? うわぁっ!?」


 リツの足に何かが当たる。バランスを崩し、顔面からドシャァと転んでしまった。


「あーあー、何してんだよ」

「すみません……ん? これって、杭ですよね」


 何につまずいたのかを確認しようと足元を見ると、地面に木材が刺さっていた。何かを抑えているようにか見えない。

 リツがなんのために付けられたのだろうかと考えていると、イルニスがリツの腕を掴んで立ち上がらせた。


「向こうを見ろ」

「えっと、向こうにも杭がありますね」


 よく見ると、雑草はある範囲にだけ多く生えていた。


「ここはな、畑なんだよ」

「ここがですか!?」


 草がボーボーに生え、石も沢山落ちているこの地面が畑だとは、到底思えなかった。

 杭は全て合わせて四つ、それぞれを結んで四角になるように刺されている。草が多い土地が、畑だった場所だ。


「あの小屋とこの畑は俺のじいさんが使ってたんだがな、俺は別の場所に畑があるし、村のみんなも自分の畑を持ってて、ずっと放置されてたんだよ。小屋だけは暇な時に綺麗にしてたんだ」

「なるほど、それで、俺は何をすれば?」

「この畑を元に戻してくれ、食料も渡すし、金もやる。この畑は自由に使ってくれて構わない」


 リツは心の中で迷っていた。自分にそんなこと出来るわけがない、こんなに大きな畑を管理しきれないし、まず大量の雑草を排除することさえできなさそうだから。

 しかし、断るわけにはいかない。恩人の頼みなのだ、やるしかない。それに、自由に使えるのなら迷惑をかけずに生活をすることができる。


「わかりました、やります」

「よしきた! クワやカマは小屋に置いているからな、好きに使ってくれよ。ベッドも小屋にあるからそこで寝てくれ。じゃ、任せたぜ」


 そう言い残すとイルニスは振り返らずに手を振りながら去っていった。

 イルニスが見えなくなってから、リツは広大な雑草畑を見渡した。


「あっ本当に任せちゃうのか、マジか」


 一人取り残されたリツは、とりあえず小屋に入ることにした。

 家の横には、木箱が置かれていた。中には、枯葉が混じった土が詰められている。


「肥料箱か、雑草はここに入れよう」


 見知らぬ土地に一人なので、リツら無意識に警戒していた。小屋のドアをゆっくりと引く。


「お邪魔します……おお、綺麗」


 暗い色の木材で建てられた小屋は、急展開で驚いていたリツの心を落ち着かせてくれた。

 家具はクローゼットと大きな棚、テーブルとイスにベッドと生活に不備は感じないであろう充実ぶりだった。


「ここで寝るのか、雰囲気もいい感じだし。天職かもな」


 そんなことを言っているが、リツは農業の経験がない。記憶は関係なく、リツには農業の知識など最初から無いのだ。

 ベッドに座り、寝心地を確かめていると、壁に掛けられた農業道具が目に入った。


「カマと、クワと、ジョウロか、これは……オノだな、冬に薪を作るためかな」


 凄まじく貧弱な初期装備の中からカマを選び、早速外に出る。一気に除草をしたいところだが、手元にはカマしかない、地道に草取りをするしか道はない。


「まずは適当でもいいから根元を切って、ある程度の範囲を切ったらクワで耕すか」


 1メートルを超える高さの雑草をクワで掘り起こすのは、効率的ではない。耕す機械があるならまだしも、リツの体力で深い根を断ち切り続けるのはまず無理だった。


「リツさーん!」

「エイス、どうしたの?」


 エイスが眩しい金髪を揺らしながらリツの元に走ってくる。身長に比べて大きめな女性の象徴が揺れているのが目に入り、リツは目をそらした。

 ここに来るまでに汗をかいたらしく、髪の毛が首筋に張り付いていた。リツはそれを見ないように頬をポリポリと掻く。


「お手伝いしようと思ったんです、お父さんすごく勝手ですみません……焦らずとも少しずつでいいんですよ、少ししたらウィーダ村のみなさんに挨拶しに行きましょう!」

「そうだね、焦る必要なんてないか。よし、頑張るぞー」

「おー!」


 リツが拳を突き上げると、エイスも真似して突き上げた。いい子だなぁと思いながら、再び作業に戻る。

 作業に戻ったリツを見て、エイスはあわあわと自分に出来ることを探した。


「ええっと、切った雑草運びますね!」

「助かる、確か……家の横に肥料箱があるからあそこに入れて置いてくれ」

「わかりました!」


 大丈夫かな、服汚れて悲しまないかなと不安になりながら、作業を続ける。最初は不慣れだった草刈りも、少しずつスムーズにできるようになっていた。


「あと少しだな。エイス、クワ持ってきてくれるか?」

「クワですね? 行ってきます!」


 エイスがクワを持ってくるまでの間、リツはできるだけ多く草を刈った。

 小石も取り除き、残るは根っこのみとなった。


「持ってきました!」

「よーし、耕すから抜けた根っこの回収よろしく」

「任せてください!」


 ザクザクと地面に残った雑草の根ごと地面を耕していく。柔らかくなった土が増えていき、あっという間に草刈りをした範囲が耕された。

 クワを起き、エイスと二人で根っこを拾って捨てたリツは、近くの川で顔や腕についた汚れを落として村の中心へ向かった。

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