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人は農場へ、勇者は戦いへ

 時が経ち、勇者たちも落ち着いた。海神の説明で、大体のことは理解した勇者たちは、これから先のことを考え始める。

 そして勇者たちは召喚された初日のことを思い出した。リツが追放され、処刑された日。


「海神よ、どうかお聞かせ願いたい。なぜ、リツを助けたのですか……?」


 水の勇者であるウォルドが海の神である海神に尋ねる。同じく水の魔法を使う頂点同士、敬意を払っている。


「なぜ、か。海神はかつて力無き勇者に力を与え、一時人の姿になった。勇者は海神の力を使い、見事魔王を討ち果たした。という言い伝えがある。ここまでは真実だが、結末は違う。私は処刑などされていない。しばらく人間の姿のまま過ごし、満足して海の底に戻ったのだ。元の姿に戻ってな」

「『海神と勇者』という本がありましたね。確かに、あの本の結末は海神が処刑された後に勇者が魔王を倒していました」

「あの本を読んだ時に記憶が戻りかけたんだけどね、海神の記憶も刺激したせいで打ち消しあっちゃったけど」


 リツはやれやれとアメリカンなリアクションをとった。つまり、リツの記憶が戻るのは時間の問題ということだったのだ。


「つまりこうだ。私は勇者の体にしか変身できない。しかも弱くなくてはならないという条件付きだ。ま、目の前にその条件にぴったりな奴が沈んできたんでな、ちょちょいっと交渉したのだ」

「めっちゃ頼んできたじゃないですか海神様」

「また人になりたかったのだから仕方がないだろう。それに、助けた恩もあるだろう?」

「まあ……助かるには条件を飲むしかなかったし……」


 同じ顔の二人が言い合っている不思議な光景に、エイスは未だに目をくるくるさせていた。


「な、なるほど。理解しました。それで、俺たちはこれからどうすれば……?」

「私がついて行く。安心しろ、この身体は土の勇者として認められるから」

「ええ!?」


 他の勇者も同様に声を上げた。海神の身体はリツの身体をコピーしたものなので、土の勇者としての権限は失われていない。


「俺は早くウィーダ村に帰りたいよ。寝たいし」


 長い間海底に閉じこめられていたリツは海神の体験した記憶でこの世界のことを知ったので、召喚初日のような無知無能ではなくなっている。いや、無能である可能性は捨てきれない。

 とにかく。リツは海底の生活に飽き、のびのびと外に出たい気分だった。


「ここで役割は交代だな」

「うん、と言っても俺は海底で見てただけなんだけどね」

「そう言うな、私はもう十分楽しめたよ。一人の時間が長かったからな……」

「そうですか」


 海神は時々海底から上がり、泳ぐことがあった。たまには陽の光も浴びたいからだ。

 その結果、巨大な影を見かけた漁師が中央海域に魔物とは思えないほど大きな影を見つけたという噂を流した。その噂は瞬く間に広まり、海竜が住んでいるという噂に落ち着いた。


「水属性の魔力は多少付与しておいた。これまでと変わりなく使えるはずだから、農場は頼むよ」

「ああ。それにしても、もう一人の自分が体験した記憶が流れてくるってのはなかなかに気持ちが悪かったなぁ……自分ならこうするって思ったら本当にそう動くんだから、尚更気持ち悪かったよ」

「当然だろう、ウィーダ村に行った場合のリツの動きがそれなんだから」


 リツは海神の体験したことも全て記憶しているので、話をしてもエイスやダルドは違和感を感じなかった。記憶が戻ったリツ、という認識にしかならないからだ。


「さて、お別れだ。私たちはこのまま神殿へ向かう。リツ、エイス、ダルド。君たちはウィーダ村に戻り、これまで通り過ごしなさい。全て終わったら、報告しに行くから」

「……助けてくれて本当にありがとうございます。魔王を倒した時には、また農場に来てくださいね」

「楽しみにしてる。私なら、リツならきっと雑草を全て抜き、魔物も手懐けられる」

「はい、やります。絶対に」

「よし」


 リツの返事に満足した海神は、リツたちを海底から地上へ戻そうとする。

 リツたちのいた場所に泡が大量に発生し、三人の姿が消えた。


「おい! 本当に行くのかよ!」

「僕が見た限り、海神様の実力は僕達と同等と言えます。僕達は魔界へ向かう準備も済ませていますし、神殿へ向かうのには絶好の機会でしょう」

「だね。新しい勇者が俺たちより、海神様より強いとは思えない。バン、今行こう。異論はないよね?」

「いいと思いますよー」

「……ああ」


 勇者たちも満場一致? で海神の参加に賛成している。


「これからは私……俺のことはリツって呼んでね」

「呼べるかくそっ! 行くならさっさと行くぞ!」

「素直になれよバン、お前がリツに敵意を向けているのは弱いのに自分と同じ召喚に選ばれたからだ。話を聞いて、理解したはずだろ? リツは被害者だって」

「だーもう! 早く行こうぜ! 海神なら神殿なんて一瞬だろ!」

「リツだよ。悪いけど人間になった俺にその力はないよ。せっかく船があるんだし、それで行こうか」

「おー、久々の船旅だー!」


 世界最強の六人は、船に乗り、新たなスタート地点へ向かった。海神は土の勇者リツとして、律は村人リツとして、それぞれの道を進む。


おわり。

完結しました。

海神はリツの代わりに魔界へ赴く。リツは弱き人間として農業を続けるでしょう。


彼らの結末が輝かしいものと願って。

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