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王国軍

 昨日の作戦会議で、地図などの道具を持っていくことを決めたリツは準備を整え広場に来ていた。


「なるほど、その勇者が俺を探してるのか」

「本当に思い出せないのですか? 少なくとも、勇者と関係のある人物だったはずですよ」

「さっぱりだ」


 リツの腰には、剣がぶら下げられている。カムジュ鉱の剣だ。


「リツさん、来たみたいです」

「エイス、離れるなよ」

「はいっ!」


 リツは村に入ってきた数台の馬車をまっすぐ見つめた。その中にいるはずの勇者を見るように。

 広場の目の前に馬車が止まった。中から、鎧姿の兵士が数人出てくる。


「ダルドさん……? 先回りしていたんですか」

「安心してください、抵抗するつもりはありません」


 リツもその言葉に頷く。


「どうする?」

「本人に確かめてもらうしかないだろ」


 兵士たちがなにやら話をし始めた。リツを連れていくことについての話し合いだ。

 少しすると、後ろをつけていた馬車が止まった。それと同時に、中から赤い髪の男が飛び出してくる。


「生きてやがったなリツ! こいつで合ってる、さっさと捕まえやがれ!」

「は、はい」


 バンを見た瞬間、ズキン……と、頭痛がリツを襲う。この男を、知っている。リツはそう感じた。


「僕とエイスさんも同行します、彼女はリツさんを一番初めに発見した人物です。僕はウィーダ村に詳しい商人。連れていくには、十分でしょう?」

「それはそうですが……」

「ああもういいだろ! 全員乗せちまえ!」


 リツを捕まえられればそれでいいと思っているバンは、考えずに発言した。


「落ち着けって。久しぶりだね、リツ」

「……」


 ウォルド、バンの次に律と会話をした勇者。

 奇しくも、律が召喚された時と同じ順番で、会話が進んでいく。

 リツは、ハッキリとは思い出せないのか、言葉が上手く出てこなかった。


「そう睨むなって。俺だって……こんなこと嫌なんだから」

「名前、教えて貰っていいですか」

「そ、そういえば自己紹介もせずにお別れしちゃったんだったね。俺はウォルド、風の勇者はフロー、光の勇者はキュロス、闇の勇者はダース」


 後から馬車を降りた三人が横に並ぶ。全員、気まずいのかリツと目を合わせようとしなかった。


「今はとにかく王国に戻るのが先です。馬車に乗りますよ」

「リツくん、中で話しようかー」


 キュロスとフローがリツに話しかけた。今ここで長話をするより、移動中に会話を済ませてしまえばいいと考えたのだ。


「乗るか」

「ええ」


 ダルドを先頭に、エイス、リツの順番で馬車に乗る。少し大きめの馬車で、勇者全員が乗っている馬車だ。


「さて。リツ、てめぇあの村で何してたんだ?」

「農業とか、かな」

「……なーんか雰囲気ちげぇんだよなー。ダース、おめぇはどう思う?」

「顔を忘れている、のかもしれない」


 リツの初めて会ったかのような言動を見て、ダースはそう判断した。


「はぁ? おいリツ、オレたちの顔忘れたのか? ああ?」

「実はその、記憶喪失で」

「え!? ええっと、エイスさんでしたね、それは本当なんですか?」


 キュロスが当初のことを知っているというエイスに聞く。


「はい。海岸に流れ着いた時から記憶が無いみたいなんです。あの、記憶を失う前のリツさん、というか、リツさんは何者なんですか?」

「なるほど、それも知らないのですね……リツくんは土の勇者です。僕達と同じ、召喚された属性の勇者でした」

「えっ!?」

「……? え? えええええええええ!?!?」


 エイスもなかなかに驚いていたが、ダルドは飛び跳ねるほどの驚きようだった。


「俺が土の勇者……?」

「そうですよー。私たちと同じ属性の勇者ですー」

「じゃあ、なんで指名手配を……?」

「それは……」

「リツさんを見つけた時、手首と足首に傷がありました。それも海岸に打ち上げられて……これはどういうことなのでしょうか?」


 エイスはふと、疑問に思ったことを声に出した。特に考えた言い回しではなかったのだが、勇者たちは責められていると感じ、言葉を詰まらせた。


「……こいつは罪を犯した。そして手足を縛られ海に捨てられた。それだけだ」

「じゃあ自殺じゃないんですね……よかったです」

「えっ?」


 エイスの中のひとつの疑問、リツが自殺をするために海に身を投げたのではないかという疑問が解決した。


「しかし、リツさんが死刑にされるほどの罪を犯すとは思えませんね……どのような罪を犯したのですか?」

「罪……いえ、罪を犯したというのは建前なんです」

「おい、キュロス」


 キュロスが真実を話そうとしたが、ウォルドに止められた。


「別に良いでしょう、僕達はリツくんに恨みがあるわけではないのですから」

「魔界へのゲートが開けば、私たちはそれでいいですからねー。王様がどう思うかはわかりませんが」


 魔王のいる魔界に繋がるゲートを開くには、属性の勇者を全員揃える必要がある。

 リツを殺して新しい勇者を召喚すれば、戦力を上げることができる。


「オレは反対だ。こんなやつ、神殿に辿り着く前に魔物に殺されちまう」

「じゃあどうするんですか、僕は平和のためだとしても何も悪いことをしていない人間が殺されるのを知って黙って送れませんよ……少しでも殺さずに済む方法があるのなら、僕はそっちを選びます」

「そりゃ、オレも、少しくらいは嫌だけどさ。仕方ねぇだろ? 王様が決めたんだ」

「もしも、もしもだ。リュタ王国に戻らずにリツを連れて神殿まで行ってゲートを開けば、リツは死なずに済むんじゃないか……?」

「!」


 ウォルドの提案に、他の勇者が目を見開く。


「何が何だかわからないのですが、殺す? なぜリツさんを?」

「私も、よくわかりません。教えて貰ってもいいですか?」

「僕が説明しましょう、僕達が召喚された時——」


 キュロスは、自分たちが召喚された当時の状況を説明した。

 リツが戦ったこともない力を持たない人間であったこと、王様が新たな勇者を召喚するためにリツを海に捨てたこと、王様が自分たちにリツを捕まえるよう命令をしたこと、などを話した。

 その話は長く、ゆっくりとリツの記憶を刺激した。そして、ひとつの結論に至った。


 リツを神殿、魔界を繋ぐゲートのある神殿へ連れていこうと。

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