勇者たち
各勇者たちは、リツを探して長い旅を続けていた。そして数週間後のある日、テュロル王国領のとある村に記憶喪失の少年が流れ着いたという情報を耳にした。
確証はないが、確かめる価値はあると踏んだ勇者たちは、さっそくテュロル王国に向かった。
「勇者たちよ、遠きリュタ王国から我が国に出向いたことを喜ばしく思うぞ」
「ありがとうございます。突然ですがテュロル王、リュタ王国からの指名手配の知らせはご存知でしょうか?」
光の勇者、キュロスが王に尋ねた。
「もちろん、ギルドに教えてやったら冒険者が血眼になって探しはじめおったわ」
「オレたちがテュロル王国に来た理由はそれだ。その指名手配犯が近くの村にいるかもしれねぇって聞いてわざわざ来たんだよ」
「バン、王様の前だぞ。言葉を慎め」
水の勇者ウォルドがバンを注意する。
「よいよい、世界を救う勇者様だからな。して、その指名手配犯のいる村の名前はわかるのか?」
「ウィ……ウィなんとかって村でしたよね」
「ウィーダ村ですよ、フロー」
「それですー」
風の勇者、フローにキュロスが村の名前を教える。
「なんと……ウィーダ村か。我が国はウィーダ村に手を出すことができん、互いに干渉しないことを条件にヴィアニルズ家を追い出したからな」
「ヴィアニルズ家……というのは?」
特に気になったわけでもないが、ウォルドはなんとなく王様に聞いた。
「過去に貴族同士でいざこざがあってな、そこで王国を追い出された貴族だ。そのウィーダ村は、ヴィアニルズ家が作った村だ。私が王座についてから、ウィーダ村に関わったことは一度たりともない」
「それじゃあ、ウィーダ村についてはほとんど何も知らないってことか……?」
ウィーダ村まで行くことは決定したが、その前に情報を集めなくてはならなかった。何も知らずに進んでいくほど、勇者は馬鹿ではない。
「そういうことに……いや、待て。一人、この国にウィーダ村に詳しい変わり者がおる。連れてこさせよ」
「はっ!」
兵士にウィーダ村に詳しい人を連れてくるよう命令した王様は、勇者たちに楽にしてていいと言い、兵士の帰りを待った。
十数分後、兵士が扉を開けた。
「お連れしました!」
「……これはこれは、テュロル王がただの商人の僕に何の用ですかね?」
「ふん、相変わらず気に食わんやつだ。聞きたいことがある、協力してほしい」
王様は有無を言わせぬ目でダルドを見つめた。
「はぁ……わかりました。ですが僕は情報屋ではありませんよ?」
「わかっている。ダルドはウィーダ村に出入りしていたな。最近は確か……そう、ある男が洞窟を発見したと。なに、結晶山の所有権を奪おうってわけじゃあない。その男の名前を教えて欲しい、最近住み着いたらしいじゃないか。こちらとしても、名前だけでも控えておきたいからな」
「どこでそれを……。名前、ええ、洞窟を占領しないと約束できるのなら」
ダルドは、名前を教えるくらいなら問題は無いだろうと思い、答えた。
「それはよかった、是非教えてくれ」
リツの名を口に出そうとした時、部屋の端で椅子に座っている集団がダルドの目に入った。
「……そちらの方々は?」
「客人だ、気にすることはない」
「……そうですか。名前は、リツです。姓はありません」
「姓がねぇだと……?」
端で聞いていたバンが立ち上がる。
「その男は『タネザキリツ』って名前じゃあねぇのか?」
「あなたは誰なのですか?」
「勇者だ。答えろ、本当にそいつには姓がねぇんだな?」
「ええ、姓はないです。直接本人に聞きましたから」
「見た目は? 会ったんならわかるだろ」
「……茶髪でしたよ」
もしかしたら、リツが危ない状況になるかもしれないと思ったダルドは、咄嗟に嘘をついた。
「嘘をついている」
瞬間——ダルドの目に紫色の目が映る。
誰も気がつかなかった、ダルドとバンの目の前に、闇の勇者が立っている。
「嘘……?」
「お前……隠し事をしているな。自分を守るためか、リツを守るためか」
「ダースが喋ってるー!?」
フローだけがシリアスな空気の中緊張感のない声を上げた。闇の勇者、ダースは旅の最中、ほとんどと言っていいほど会話をしていない。
発した言葉といえば『はい』か『いいえ』くらいだった。
「僕は嘘なんて……」
「引く気は無い……か。あとは頼む」
「頼むだと? おい、戻るな寝るなゴラァ!」
ダースは椅子に座り、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「バン、落ち着きなさい。とにかく、ウィーダ村に直接行ってみるしかないでしょう、王様、いいですか?」
「もちろんだ、こちらからも軍を出そう。彼らが案内をしてくれるはずだ」
「しゃっ! 明日出発だな、今日でもいいぜ」
「すまないが兵士の準備もある、明日出発でいいな?」
「わかりました。帰るぞ、起きろ」
「……もうか」
寝てすぐに起こされたダースは半目になりながら立ち上がった。
そして、ウォルドとキュロスは残りの勇者を連れて城を後にした。
「テュロル王……これは一体どういうことなのですか?」
「ウィーダ村に指名手配犯がいると聞いてな。貴様がどう動くかは勝手だが、その犯罪者は王国まで連行させてもらう」
「……そうですか。僕はもう帰りますね」
「もう要はすんだからな、これからも王国の役に立つことを願っているぞ、大商人」
「……では」
こうして、ダルドは王国軍が村に来ると知ったその日に出発した。
リツの正体を考えつつ、ダルドは馬車に揺られ、ウィーダ村へ向かったのだった。




