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犯罪者が村に

 ダルドの要求に応じたフォリシスは、村人達を広場に集合させた。村全体にそれを知らせるべく、リツたちもその手伝いをした。


「みんな、静かに。ダルド、いいわよ」

「はい。実は、村に王国軍が向かってきています」

「王国軍だと!?」


 村人の中の一人が声を出した。それに続いて他の村人たちもざわざわと騒ぎ出す。


「なぜ、王国軍が村に向かっているの? まさか……」

「いえ、その件ではありません。王国軍の目的は、リツさん、あなたです」

「俺……?」


 一切身に覚えのないリツは、なにか思い当たることがあるかひたすら探した。まず思いつくのが『カムジュ鉱』だったが、フォリシスとダルドの会話からしてその件ではないと判断。

 自分が目的となると、金属結晶の洞窟ではない。

 そうなると、残る可能性は一つだった。


「記憶を失う前の、俺?」

「ええ、リュタ王国が世界中に広めた指名手配、犯罪者が逃げたという内容でした。指名手配犯の名前は『タネザキ リツ』聞き覚えは?」

「タネザキ……リツ」


 自分のようで、どこか違う気がしていた。


「そうなのかもしれない。もしそうだとして、俺は何をしたんだ……?」

「王国反逆罪としか明記されていませんでしたね。ただの指名手配にしては手に入る金額もいささか多く感じました。それに、ここテュロル王国はリュタ王国から一番遠い王国ですから、ありえないと思っていたのですが……」


 ダルドがリツに会った時に聞いていた『姓はあるか』と聞いたのは、城下町で指名手配の名前を耳にしたからだった。


「リツくんは、その、悪いことをする人とは思えません、でした」

「私もそう思います」

「僕だってそう思っています。リツさんはそんなことをする人ではありません。たとえ記憶がなくても、その位はわかります。村の皆さんもそれは同じなはずです」


 村人たちは、皆頷いた。それはリツを村人と認めている証拠であった。


 ふと、目眩がした。次に、頭痛がリツを襲った。


「ぐっ……」

「だ、大丈夫ですか?」


 ふらつきながら頭を抑えるリツの体をエイスが支える。しかしそれでも支えきれず、ツェントがリツに肩を貸した。


「頭痛がか?」

「……俺の……記憶なのかわからないけど、何かが戻ってきている気がする……うっ」


 エイスやタユリたちは再び頭を抑えるリツを心配そうに見つめた。


 リツの頭がズキンズキンと痛む。その度に、頭の中に何かが入ってくる感覚を感じていた。

 灰色の巨大な建物が立ち並ぶ街並み。


「自分の名前を聞いて記憶が刺激されているようですね。近いうちに、全てを思い出すかもしれません。もしかしたらこのまま、思い出してしまうこともありえます」

「いや、少しずつだけど治まってきた……王国軍が着くのは、いつになるんだ?」


 リツは王国軍が村に着くまでの時間で、何かができるはずだと考えた。


「明日の昼でしょうね。時間はあります、リツさんはどうしたいのですか?」

「どうしたいか? 俺は……知りたい。自分のことを」

「そうですか……では、僕も同行しましょう。死なれては困りますからね」

「俺もついていくぞ!」

「俺もだ!」


 ダルドの言葉に村人達が反応した。次々と声が上がる。


「大人数は難しいですね。流れ着いたリツさんを発見したのはエイスさんでしたね、証言者として同行が許可されるはずです、行きますか?」

「行きます」


 エイスは即答した。


「ふむ、この三人ですかね」

「そういえばどうして村人を全員集めたんだ?」

「リツさんが王国に連行されそうになったとして、それを事前に知らせなかった場合村人達が王国軍に刃向かってもれなく全員犯罪者、などという事態が起こらないためです。もしも突然リツさんが連れていかれそうになったら、黙って見ていられる自信がありますか?」

「それは……」


 村人達が口ごもる。それは同じ村人としての優しさの表れであった。

 全員が家族のようなもの。フォリシスの理想としている村は、既に完成しているのかもしれない。


「ツェント、カムジュ鉱の剣のメンテナンスをお願いします」

「持ち出しても大丈夫なんじゃろな?」

「自衛用です。刀身さえ見せなければ、カムジュ鉱を使っているとは思われませんから。それに、一回加工した剣です。バレたところで、悪用される確率は低いでしょう。手練からしたら、見えないというだけでただの剣ですからね」


 カムジュ鉱はツェントの手によって剣へと姿を変えた。加工さえしてしまえばこちらのものなので、それほど隠す必要は無くなった。

 洞窟内を最下層まで調査した結果、薄くはあるが『金結晶』が見つかった。しかし、カムジュ鉱が見つかることはなかった。


「明日の昼までに王国に行く準備を済ませましょう。抵抗してはいけません、僕達は彼らを倒せるほどの実力は持ち合わせていませんから」

「……わかった」


 リツが振り向くと、その場にいた全員が顔を曇らせていた。


「んーっと……俺が戻ってくるまで農場の管理を誰かにして欲しいんだけど……どうしようかな」

「わたしがやります。戻ってきたら、わたしが手伝いをした分、一緒に本を読みましょう」

「仕方ないね、アタシも手伝うよ。農場はアタシたちに任せな」

「タユリさん、ベジルさん……ありがとうございます。もし記憶が戻ったら、その時は、タユリさんも知らないようなお話を聞かせられるかもしれません」

「楽しみに待ってますね」


 タユリとベジルはリツが連行された後の農場の管理をすることになった。

 村人達のざわめきも消え、皆散り散りに帰っていった。

 帰る前にリツに声をかける者も多かった。


「……さて、作戦会議だ」


 ヴィアニルズ家の屋敷に、彼らは集まっていた。明日、王国軍とのやりとりや、村までのルートなどを話し合うのだった。

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