ゾマーの月、終焉の月
リツはここ数週間、ベジルに農業を定期的に教えてもらい、タユリに魔法を教えてもらい、ダルドに頼んだ本を読みふけった。
その間にカブが成長し、無事収穫をすることができた。リツは初めての収穫に喜び、農業の楽しさを知った。
そしてある日の朝。
「あづい!」
リツはあまりの暑さに悲鳴を上げた。
カブを収穫してから、リツは種を植えずに世話をする時間を草刈りの時間に回していた。
月の初め、初日くらいは朝の草刈りは休もう、エイスが来ても寝続けようと横になったリツだったが、その夢叶わず目が覚めてしまった。
「昨日は昼まで涼しかったのに、どうなってるんだ」
リツは服をバサバサ動かして体に風を通した。すると、部屋にノックの音が響いた。
「リツさん、今日からゾマーの月ですよ。あんまり畑仕事は……どうかしましたか?」
「急に暑くなりすぎじゃない? というか何その服、涼む気満々じゃん」
エイスが着ている服は白のワンピースだった。
「えへへ、似合ってますか?」
「似合ってる似合ってる。じゃなくて、ゾマーって?」
「季節ですよ、フリューは暖かい月、ゾマーは暑い月、ヘルストは涼しい月、ヴィターは寒い月です。別の言い方をするとゾマーは夏ですね。あまりこっちの言葉は使わないですけど」
「ああ、夏ね」
リツは夏という言葉で納得しかけた。が、突然の気温の変化には納得できなかった。
「記憶喪失でそこまで忘れてしまうものなのですね……それぞれの季節は三ヶ月ごとに変わります、季節の変わり目、今日一日から暑くなるんです」
「だんだん暑くならないの?」
「そのような話は聞いたことがないですね」
「そういうもんなのか」
ほとんど忘れてしまったリツの中の常識が壊れていくのを感じた。
同時に、これはこういうもの、という認識をすることによって無理やり納得した。
「ゾマーの月から育ちやすい作物が変わります、だいぶ雑草も減ってきていますし、新しい種を買いに行きませんか?」
「あんまり外出したくないけど、仕方ないか。ツェントも連れていこうよ、この暑さで家にこもりっぱなしは死ぬぞ」
「ですね。この時期になるとよく倒れますから」
衝撃の事実を知ったリツは、少し急いで着替えを済ませ(エイスは外に出した)ツェントの家に向かった。
「ツェント、生きてるかー?」
「いつもそれじゃな、それいか言えんがか?」
「おお、生きてたか。雑貨屋行こうよ」
「ふん……まあ腹も減っちょるからの、まっとれ、支度する」
「ゆっくりでいいですよ」
ツェントはドアを閉めようとした。
「40秒で支度済ませろよ」
「無理じゃて……」
水魔法の応用で使える氷魔法を使い、冷風を当てて涼みながらツェントの支度を待った。
いつものメンバーと言っても過言ではない三人は、寄り道することなく雑貨屋に入った。
「セズナちゃん、来ましたよー」
「あ! エイスと農業バカと鍛冶バカ!」
「なんつったおい」
言われ慣れているのかツェントは無視して出来たてのパンを選び始める。
「もはやパン屋だな」
「あはは、むしろこれしか売れないしね。パン以外を買いに来るのは種が切れた時と道具が壊れた時くらいだから。珍しい道具なんかはダルドが持ってきちゃうし」
雑貨屋の棚にも、ダルドから買い取った道具が数個並んでいる。
珍しいと言うだけで、便利道具とはとても言えない代物がほとんどだ。
「そういえばダルドって明日くるんだっけ?」
「そうだよ。リツは金持ってるんだから気になった道具ポンポン買えばいいのに、本ばっかり頼んでもったいないよ」
「記憶喪失だからね、知識を集めるのに精一杯さ」
リツの部屋には、自分で買った本とタユリに貸してもらった本が積んである。
それなりに村での生活を楽しんでいるので、日々の作業も苦ではなかった。
「タユリが泣いて喜んでるもんねぇ。二人でいつも魔法の稽古して……まさかそういう関係だったり?」
「そ、そうなんですか!?」
「落ち着けエイス、からかってるだけだって。っておい、種買いに来たんだよ俺ら」
「お前だけじゃ」
ツェントはそう言うと買ってもいないパンをくわえた。
「あー!」
セズナはものすごい速さでツェントの胸ぐらを掴み、ぐわんぐわん揺らした。
「んぐっ、ふぁらう、ふぁらうからまっとれ」
セズナはツェントが取り出した財布を奪い、食べた分の金を徴収した。
水無しでパンを頬張ったツェントは、上手く飲み込めずにいた。
リツがツェントの背中を撫でていると、ドアがバァンッと開いた。
「リツさん、ここにいましたか!」
「あれ、ダルドじゃん。なんでいるの? ってかなんで俺を?」
「明日来るんじゃなかったっけ? 暑さで狂ったの?」
「どうしましたー?」
「んむ? ん! だぅど! ……なんで来ちょるんよ」
会って早々辛辣な言葉をかけられたダルドだったが、その顔には焦りが見えた。
「ここではアレですね。フォリシスさんに頼んで村人全員を集めましょう。リツさん以外にも話さなければならないことがあるので」
「大事な話みたいだな」
「王国関係。いえ、他国も関わっている話です」
王国という言葉にその場にいた全員に緊張が走る。ウィーダ村と王国の接点は、まず無い。そのため、重要なことだと判断したのだ。
何より、ツェントが真剣な表情をしたのがその証拠だ。
リツたちは、ダルドについていき、ヴィアニルズの屋敷へ向かった。
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