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謎の怪我人

 エイスは日課の散歩をするため、海岸に来ていた。いつも通り朝日に照らされる海岸沿いを歩いていると、海藻の塊を見つけた。

 時々固まった海藻が岸辺に打ち上げられるのだ、食べられるが、漁師が漁のついでに海藻を持って帰るので、わざわざ海岸の海藻を持って帰る必要は無い。


 しかし、その打ち上げられた海藻は今までに見たことのないような大きな塊だった。

 いつもなら通り過ぎていたところだが、大きな塊を見たエイスはその海藻に近づいた。


「……?」


 海藻と海藻の間に、布のようなものが見えた。ゴミに巻き付いたのだろうと、他の隙間を見ると、今度は人間の手が見えた。


「人……? た、助けなきゃ」


 エイスは海藻を掻き分け、中に入っていた人間の顔を見た。男だった。

 次に目に入ったのは、村ではまず見かけない上質な布で作られた服であった。


「死んでないですよね……?」


 手に触れると、男の体がビクッと動いた。


「生きてます! ええと、聞こえてますか?」

「……ぁ…………ぁぁ…………」

「お、大人を呼ばないと!」


 男は薄く目を開き、掠れた声を出したと思うと、再び目を閉じてしまった。

 少女一人では運ぶことができず、エイスは村まで走り、大人を呼んだ。


* * *


 村まで男を運んでもらったエイスは、自分の家で看病すると言い、男をベッドに寝かせた。熱があったので、濡らしたタオルを額に乗せている。

 男の手首足首には赤く、皮が剥がれた擦り傷ができている。傷の付き方からして、ロープで縛られていたようだ。


「自殺、だな」

「じ、さつ? お父さん、なんでそう思ったんですか?」


 エイスは横になった男の手を握りながら、父であるイルニスに尋ねた。

 服の質からして、かなり身分は上のはずだ。なぜ恵まれた人が自殺をするのか、エイスには理解出来なかった。


「手足を縛って海に入った時点で、自殺と考えるのが妥当だろう。それに、海には海竜が住んでいる。生きているのは奇跡と言っていい」

「本当に、死にたかったんですかね……私、タオル変えてきますね」

「ああ、頼んだ」


 エイスは額からタオルを取り、井戸水を汲みに行った。

 イルニスはエイスがいなくなったのを確認し、男の顔を見つめた。


「お前さんは、何者なんだ?」


 男はピクリとも動かなかった。帰ってきたのは、わずかな呼吸音だけであった。

 知りたいことは、山ほどあった。名前、出身、そして身分。もし上の身分だとしたら、看病をすれば見返りがあると考えたのだ。


「……起きたらたっぷり聞かせてもらおう」


 イルニスは、大きな石に窪みができた道具を取り出し、数種類の薬草を入れ、上から石ですり潰し始めた。

 傷薬の調合だ。これを、男の身体中にある擦り傷切り傷に塗るのだ。


「娘に感謝するんだな」


 そう呟きながら、ゴリゴリ、ゴリゴリと薬草を潰す。男を助ける理由は、二つ。ひとつは見返り、そしてもうひとつは娘に頼まれたから。

 イルニスは男が目を覚ますまで毎日、薬を作った。


* * *


 リツが処刑された次の日の朝、勇者たちは昨日と同様、王の前で膝をついていた。

 王は全員が話を聞こうとしていることを確認し、息を吸った。


「先日海に捨てた土の勇者が、生存していることが判明した」

「本当ですか!?」

「……まだ生きてんのか」


 勇者たちは驚きを隠せなかった。手足を縛られ、海に捨てられた。それだけで死んだという結論を出すのは、至極当然のことであった。


「なぜ、リツ……土の勇者が生きていると?」

「今日、勇者召喚をした。だが、土の勇者が召喚されることは無かった。今居る土の勇者が死なない限り、勇者召喚は成功しない。つまり、土の勇者は生きているのだ」

「その為に、リツを殺そうとしたんですね」

「これは王国にとって、この世界にとって、必要な犠牲だったはずなのだがな……」


 王国にとって、必要なものは即戦力であり、力のないリツを一から育てる利点は何一つない。そう考えた王はリツを追放したのだ。


「命令を出そう。お前達、土の勇者を探してくるのだ」

「探す……? ですが王、探すだけならば賞金をつけて指名手配すればよいのでは?」


 水の勇者が質問した。


「それはもうしてある。土の勇者を探すついでに、この世界を知ってもらおうと思ったのだよ。いつまでもこの街に置いておくわけにはいかぬ。勇者が揃い次第旅に出そうと思っていたのだからな」

「リツを探してぶっ殺せばいいんですよね? 明日の朝出発するぞてめぇら」


 バンが立ち上がり、拳をガチンとぶつけた。


「バン、急ぐな。王、探すと言いますが、殺してしまってもよいのですか?」

「いや、生かしておけ。手足を縛られたのだ、自力で助かったとは考えにくい。手助けをした人は助けたのだから情が移るであろう? 見た人間がいる限り、土の勇者を殺すと王国のイメージが悪くなってしまう。隠蔽をするために殺さず城まで連れてくるのだ」


 土の勇者は力を持たない。そのため、すぐ近くに助けた人間がいると考えたのだ。

 そんな人間の前でせっかく助けた男を殺したら、恨みを買ってしまうかもしれない、だから殺すのは避ける。


「そういうわけだ、頼んだぞ」

「はい!」


 熱心に聞いていた水の勇者も、面倒くさそうな顔をして聞いていた闇の勇者も、大きな声で返事をした。彼らがリツを見つけるまでに、どれほどの時間がかかるのだろうか。

 手がかりも何もない、彼らはさながらRPGのように目撃情報などを集めるだろう。


 数日後、土の勇者が欠けた勇者パーティーが、リュタ王国から出発した。

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