実らぬ才能
目を覚ましたリツは、自分が横になっていることに気がついた。
そしてリツの頭は、タユリの太ももの上に乗っていた。
「目が覚めましたか」
「……えっ?」
リツの頭に、情報が流れ込んできた。
太ももの柔らかさ、タユリの匂い、読んだ本、夢、記憶、膝枕。
今のリツは、女の子に膝枕をされているという状況だけでも、脳がショートしそうだった。
「あまり、良い寝顔とは思えませんでした。夢を、見ていたのですか?」
「はい、自分の記憶なのか、寝てしまう前に読んでいた本に影響されたのか。よくわかりませんが、いい夢ではなかったですね……その、なぜ膝枕を?」
「わたしが本を読み終えた時、リツくんが隣で眠っていたのです。呼び出しておいて気がつかず、わたしは罪悪感に苛まれてしまいました。そこで、ベッドまで運んで膝枕を……」
償いにしてはサービスが過ぎていた。
「と、とにかくありがとうございます」
「いえ。そういえば『海神と勇者』を読んでいましたね。先程言っていた夢にも関係があるのかもしれません。感想を聞けますか?」
「感想ですか……勇者と海神の両方に感情移入ができましたね。その本の中に入ったような気分になって、悲しいことも嬉しいことも、本当に起こったことのように感じました」
リツは本を読んだ感想を正直に答えた。
「そこまで本に興味を……! で、ではこちらを! この本は魔法使いが冒険をする本で……」
「魔法……タユリさんは魔法を使って水をあげていましたね、得意なんですか?」
「えっと、はい。王国から来たダル……? ダル、ロ? ……その商人には、秀でた才能があると言われました。ですが、わたしは村を出られません。生まれつき体が弱く、体力もないので、動ける範囲は村の中だけです」
タユリはそう言っているが、リツを一人でベッドに運んでいる時点で、力はあるようだ。
「ダルドですね。それでいつも家に……なるほど」
「そういえばそのような名前でしたね。ダルド、ダルド、ダルト。よしっ、覚えました。もう間違えません」
「あ、うん。タユリさんってもしかして魔法の使い方とかわかったりしますか?」
リツはダルドから貰った魔導書を取り出した。これを読みながらタユリに教えてもらうという算段だった。
「なんとなくはわかります、教えられる自信はありませんが……」
「おお、本当ですか! えっとじゃあ水の魔法を……」
「ふふふ、まずは外に出ましょうか」
そのまま水魔法の練習を始めると部屋が、主に本が水浸しになってしまうと思ったタユリは、リツを連れて外に出た。
* * *
それから、リツはタユリに魔法の使い方、コツを教わった。
最初は何を言っているのかわからなかったが、コツを掴んでから、簡単な魔法なら使えるようになった。
「すごいです。リツくん才能ありますね。特に土魔法と水魔法が特化しています。農業をするために生まれてきたといっても過言ではありません」
「いやぁーそうかなぁ!? それ褒めてますよね?」
「ええ、褒めていますよ。わたしが得意なのは水魔法と風魔法なので、土魔法が得意なのは羨ましいです」
リツが使えるようになった魔法は、手からジョウロのように水を出すことができる『シャワー』と、硬い土を柔らかくすることができる『タガヤ』だ。
魔法という物には、基本的に名前はない。魔法を出すには、出したい形をイメージする必要がある。名前をつけることによって、イメージしやすくなるのだ。
某カードファイトの人も言っていたように「イメージしろ!」ということである。
「それでもタユリさんには遠く及びませんけどね」
「ふふっわたしが先生、ですね」
「それじゃあタユリ先生にもう一つ教えて欲しいことがあるんですけど『海神と勇者』で登場していた魔法って実際に使うことは可能なんですか?」
「確か……勇者が海神の力を手にして使った水魔法でしたね。周辺に雨雲を呼び寄せ、強制的に嵐を起こす魔法。雨雲を操ることはわたしにもできませんが、リュタ王国の勇者召喚で召喚された『風の勇者』と『水の勇者』が力を合わせれば可能かもしれません。勇者は、呼び出される前にどれだけ他の属性が得意でも、召喚されたら一つの属性に絞られてしまいますから、全属性を使えた物語の中の勇者でなければ一人で使うのは無理ですね」
もしも炎の勇者であるバンが元いた世界で水属性の魔法も得意だったとしても、この世界に召喚されたら炎属性の魔法のみしか使えない。
全属性の勇者が揃うことによって、初めて真の勇者パーティーになるのだ。
「物語の中の勇者が、現実に居れば良いのですが」
「勇者って、なんのために召喚されるんですか?」
「魔王を倒すため、と、聞きました」
「魔王ですか。わざわざ勇者を召喚するってことは、何か憎まれることでもしたんですか?」
「魔王は魔物の王です。本の世界の魔王も、人を襲う魔物に命令をしている魔王を倒すべく勇者が立ち上がります。元を断つ、ということですね」
「確かにそれは悪いやつですね。まあでも、魔王なんて俺たち村人は気にしてても意味ないですよね」
あははと笑うリツだったが、勇者や魔王という単語が何故か頭から離れなかった。
「ですね。魔法はこのくらいにして、リツくんに貸す本を選びましょうか」
「目的はそれでしたね……戻りましょう」
共に行動をしている理由を思い出した二人は、再び部屋に戻り本棚から本を選んだ。




