農場体験
農場まで歩いたリツは、鬱蒼と生い茂る雑草を前に足を止めた。
突然動きを止めたリツを不思議に思ったダルドは、リツの顔を覗きこむ。リツの光を失った目は、雑草を見ているようで、その奥、何もない空間を見ていた。
「終わるのかな……これ」
「風属性の攻撃ができるほどの才能を持った人ならば雑草を魔法でバッタバッタと切れるのですが、やはり僕達一般人は道具に頼るしかないみたいですね」
残念ながらダルドは魔法の才能は極々平凡、使えるには使えるが、日常で使えても攻撃に使えるほどでもない。
例えば、洞窟内でカムジュ鉱に炎を当てた時のような小さな炎。その程度だ。
「そういえば昼の水やりしてなかったな。ダルド、適当に見てていいよ、カマとか持ってくるから」
「わかりました。おや、この柵は……ふむ」
リツが去ると、ダルドは興味の湧いたものから調べ始めた。
雑草の種類を調べていると、エイスとフリンテが農場に到着した。
「あら、リツはどこに行ったのかしら」
「やけにツヤツヤしてますね。リツさんなら道具を取りに行ってますよ。そろそろ戻ってくるはずです」
げっそりとしたエイスとツヤツヤとした上機嫌のフリンテは、リツの家に目を向けた。
ちょうど、リツがカマやクワを持って出てくるところだった。
「お、もう来てたか。おーい! こっちまで来てくれ!」
「呼んでるみたいですね」
「リツさんが使ってる畑は家の前の一部分だけなんです。そこから少しずつ広げていって、畑を大きくしていくんです」
「終わりが見えないわね」
三人はリツの元へ向かった。
「ん? おお!」
「どうしたのよ」
「見てくれ、雑草じゃないよね? これカブの芽だよね?」
リツの指さす先には綺麗な緑色の芽が出ていた。二日前、カブの種を植えた場所だ。
「ええ、これはカブの芽です。種を植えたのはいつですか?」
「えーっと、結晶を掘りに行ったのが昨日だから……二日前だ。早いのかな?」
「早すぎますよ、発芽してから成長はさらに早くなります。数日後には収穫ができるくらいの成長速度です。つくづくこの村は僕の常識を超えてきますよ本当に」
リツは少し嬉しく思いながらも、雑草の成長速度もこれと同じだということを思い出し、テンションは上がらなかった。
「よし、この調子で他の作物も育ててみるかな。まあまずは畑を広げなきゃならないんだけども」
「さっそく始めましょうか、使ってもいいですよね?」
「ああ、ツェントが要らないからって押し付けてきたカマだ。存分に使ってやれ」
ツェントは剣だけでなく、道具も打っている。金属であればなんでもよいのだ。
そして作り続けるせいで家の中が武器防具で圧迫される。このカマはツェントが生活スペースを確保するためにリツに渡した物だ。
数時間後、リツ同様目の光を失ったダルドは雑草を見つめながら立ち尽くしていた。
「もういっそのこと火を放てばよいのでは?」
「それも考えたんだけどね。処理が大変だし、肥料にもならないからさ」
燃やし尽くせば雑草を一掃することができる。しかし、燃やしてしまったら肥料にはならないし、掃除も大変になってしまう。
さらに、煙も大量に出るため、村に迷惑かかかってしまう。リツは迷惑をかけることが大嫌いなので、その選択をしなかった。
「それでも結構広がりました!」
「そうね、柄にもなく夢中になっていたわ。このあたしが手伝ったんだから真面目に農業しなさいよ?」
「わかってるって、どのみちこれしかすることが無いんだ」
リツの両腕は土と汗でドロドロに汚れていた。日々真面目に草刈りをしているのは性格だからか、それとも恩返しのためか。
「また上手く使われてしまいましたね……ですがいい経験になりました。ありがとうございます」
「お疲れ、ダルドはいつ城下町に帰るんだ?」
ダルドは趣味でウィーダ村まで来ている。なので、本業である商店は閉まっている。
「今日の……夜ですね。明日の昼には城下町に着くはずです。かなり疲れましたし、明日は惰眠を貪ることにします」
「それがいい。よし、休憩しようか。夜ってことはもう少しだろ?」
「そうなります。ではもう一度僕の部屋に……その前に顔を洗いましょうか」
「それなら井戸があるぞ、こっちだ」
屋敷とは逆方向にある川まで行くのは疲れるだけだと考えたリツは、農場に設置されている井戸まで案内した。
「きゃっ、冷たいわっ!」
「ですねっ!」
水に濡れる女の子二人、草刈りの疲れも吹き飛ぶ光景ではあるが、男二人をそれ以外の疲れが襲っていた。
「結局、水を浴びたのは最初の一回だけだったな」
「ですね、僕もまだ一回しか浴びていませんよ」
ポンプを動かしているのはリツとダルドだ。
「リツ、もっと頑張りなさい」
「くっそが……ダルド、次にウィーダ村に来るのはいつだ?」
ポンプを上下させながらリツはダルドに尋ねた。
「七日後です。常連さんも、それを知っているので特に何も言われませんよ」
「じゃあさ。農業とか、酪農の本とか持ってきてくれないかな。当然金は払う」
リツは本に興味を持ち始めていた。記憶はないが、常識的なことは知っていた。だが、知らないことも多かった。
だからリツはまず知識を蓄えよう、そう思った。
「良い心がけです。ベジルさんに頼りっぱなしというのも嫌ですよね」
「まあな、あんまり迷惑かけたくないし、ベジルさんも仕事があるだろうしさ」
「どうせ城下町では売れない品物です。次回必ず持ってきますよ」
「助かる」
水浴びを終えたリツたちは、ダルドの部屋で談笑した後、解散となった。
ダルドとは七日後にまた会うことになるので、それほど悲しい別れにもならなかった。
数欠片の結晶を机の上に置き、照明で照らしたりして観察したリツは明日のベジル宅訪問に備え、眠りについた。




