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結晶山の価値

 エイスとダルドの『ライト』によって洞窟内が照らされる。

 リツは入る度に姿を変える洞窟内を不思議そうに見つめていた。


「す、素晴らしい……! これ程価値のあるものが埋まっていただなんて……!」

「どうせ増えるのだし、ツェントに打たせるのはどうかしら?」

「勿体ないしね、まとめて採掘しちゃおうか」


 ツェントは真剣な表情で金属結晶の選別をしていた。ツェントは金属に対してだけは誠実な男のため、いつも以上に優柔不断になってしまう。

 まるで恋する乙女のようだ。相手は金属だが。


「ここの大部屋では銅結晶とスズ結晶が採れて、少し降りると鉄結晶が採れるようになるよ」

「ダルドさんもいますし、もう少し奥に行ってみますか?」


 鉄結晶が見え始めた時、エイスが指先の光を下へ続く通路に向けた。


「すでに調査を終えたわけではないのですか?」

「はい、私たちが調査したのは次の大部屋までです。それから先はまだ見たことがありません」


 鉄結晶の大部屋で終わっていれば、勝手に使っていたとしても結晶の質に目を瞑ればさほど問題ではない。

 しかし、まだ先がある、まだ金属を採掘できる範囲があるという事実にダルドが考え込む。

 ここまで大きい資源の存在は、黙っている方が難しい。むしろ、王国に報告をするべきことであった。


「……これはテュロル王国が黙っていませんよ。フリンテさん、ウィーダ村の範囲はどこまでと定められているのですか? ウィーダ村が孤立した時に、テュロル王国と契約を結んだはずです」

「この山には村が作られてから代々建築家が住んでいるのよ。だから、近辺の海からこの山までの範囲がウィーダ村として扱える範囲。そう決められているとお母様から聞いているわ」


 ウィーダ村は海と山に挟まれた村で、海では漁師が船を出し、山では建築家が己の腕を磨いている。

 ある貴族が王国から離れ、村を創設した。植物の育ちやすいその土地での村作りは見事成功し、皆平和に気ままに過ごしている。

 そしてその一員に、リツも加わった。


「そうですか……でしたら問題ありません。この資源はウィーダ村の範囲に収まっていますから、村で自由に扱える資源ということになります。しかし、この大きさの結晶山となると王国に報告しなければなりません。リツさんが売られた金属結晶の出どころを聞かれたら、質については誤魔化せるとしても結晶山についての嘘はつけませんし、流石の僕も王国に逆らうのは怖いですから」

「ええ、もしも王国が噛み付いてきたら契約文書でも見せつけてやるわよ」

「それは心強いです」


 テュロル王国という聞き慣れない単語が聞こえた時点で大事な話はダルドとフリンテに任せたリツは、ツェントと一緒に鉄結晶を採掘していた。


「そうじゃリツ! どうせ溶かすんじゃから形なんぞ気にしちょらんでええ!」

「そぉい! そぉい!」

「が、頑張ってくださーい!」


 リツとツェントはツルハシをひたすら鉄結晶にぶつけて砕いていた。

 それを照らしながら見守るのはエイス。微笑みながら汗を流す二人を応援していた。


「さて、下に降りるんじゃなかったんですか? 調査をする前に体力を使い切らないでくださいね」

「何してるのよあんたたち……」

「体力が余っちょる内に採掘しちょるんじゃ! よし、ここいらで切り上げるぞリツ」

「お、やっと終わったのか」


 日に日に体力が増えていくリツは、有り余る体力を存分に使って働いていた。

 その働きぶりをべジルが知ればきっと、これだけ動けるのなら畑仕事は楽勝だねぇと語ることだろう。


「結晶はこのままでいいのですか?」

「どうせ後で回収するし、ほっといたら増えるし無駄に掘っても損ではないからさ」

「金属結晶の正しい採掘方法ではありますが……まあいいでしょう。早く行きましょうか」


 金属結晶の成長速度は大きくなればなるほど遅くなる。そのため、量を求めるのなら中くらいの大きさになった頃に砕くのが一般的だ。

 そもそも金属として使える量は少ないので、効率優先となるのは当然であった。


 ソリ付き木箱を置き、さらに地下へ潜るダルドたちは途中小さな空間を見つけ、一旦金属の調査をし始めた。


「鉄結晶が少なくなってきましたね。もう金属結晶は生成されていないのではないですか?」

「そうなのかな……ん? なんだこれ、なんで土が浮いてるんだ?」


 リツはダルドの言葉に納得しかけていると、奇妙な物を発見した。

 一見何もない壁、そこに土埃が空中浮遊していた。浮いている、というよりかは見えない『何か』に乗っているという方が正しい。


「これはもしや……! 皆さん、見ててくださいね」


 ダルドは浮いている土埃に触れ、見えない何かを掴んだ。そして、その何かを火で炙り始めた。

 すると、少しずつ見えない何かに真っ黒い色がつき始める。


「黒い……これはなんだ?」

「カムジュ鉱、視認するには高熱で炙る必要があります。通称『ゴーストストーン』見てわかると思いますが、透明な金属です。これは結晶と違って有限です、売りに出すよりか、悪用される前に独占することをおすすめします」

「ゴーストストーン……加工難易度が最も高いと言われちょる鉱石じゃな、まさかこんなに近くで眠っちょるとは」


 カムジュ鉱、通称ゴーストストーンは並の鍛冶屋では加工ができない。熱している時は見えるのだが、冷えて少しずつ見えなくなっていく刀身のせいでまともに叩けない鍛冶屋が多い。

 鍛冶を極めた者のみが扱える金属と言っても過言ではないだろう。


「この洞窟は宝の山です、時に欲に目がくらむことも仕方がないほどに。リツさん、あなたはこの金属を悪用しないと誓えますか?」

「……わからない。でも、今は悪用しようなんて気持ちは微塵も湧いてこないよ」


 リツはとても誓えるとは言えなかった。自分が何者なのかもわからないのだから、そんな簡単に誓えるわけがない、そう思っていた。


「少なくとも、王国よりは任せられそうです。そうですね……ツェント、君にはこのカムジュ鉱を武器に加工できるだけの腕はありますか?」

「オリャは城下町の甘っちょろい鍛冶屋なんぞにまきゃあせん、任せちょれ」

「……では、この鉱石については僕達だけの秘密にしましょうか。ピンと来ない方もいるかもしれませんが、この鉱石はとても危険です。それこそ、この鉱石を手に入れるために争いが起こることもあります」

「そんなに貴重な鉱石がウィーダ村に……」


 生まれてからずっと過ごしてきた村に国が争うほどの鉱石が埋まっていたことに、エイスは恐怖した。


「お母様にも、秘密なの?」

「いいえ、フォリシスさんには僕から伝えておきます。村のトップですからね」

「……そう、よかったわ」


 その後、鉄結晶を回収したリツとツェントは重くなったソリを引きながら村に戻り、全員で村長の屋敷で休憩を取ることになった。

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