本好きの少女
リツたちはダルドの商品を見ながら、しばらく会話をしていた。
すると、べジルとタユリが広場にやってきた。
「ほら、作物の種とクリスタルフラワーの種だよ」
「ありがとうございます、何か買っていきますか? いつも通りひとつサービスしますよ」
「タユリ、好きなの選んでいいよ。気にせず高い物選んじゃいな」
「それでは……これを」
「まいどっ」
タユリは木箱を覗き込み、手を伸ばした。
その手が木箱から出された時、手に持っていたものは一冊の本であった。
「タユリはいつもそれだねぇ、飽きないのかい?」
「はい、皆違う本なので」
タユリの手に取った本は、小説であった。
ダルドとしても、魔導書と同じくなかなか売れない商品なので助かっている。
「あの人がタユリ?」
「そういえば会うのは初めてでしたね。タユリちゃん、お久しぶりです!」
「お久しぶりです……その方が、リツさんですか?」
タユリは薄く青味がかった白髪を揺らしながら顔を上げた。肌は驚くほど白く、家からあまり出ないことが良くわかる。
「はじめまして、リツです。よろしくね」
「よろしくお願いします……」
タユリはべジルの後ろに隠れてしまった。
「タユリちゃんは人見知りなんです、基本家にいて、べジルさんのお手伝いをしています」
「どうすれば仲良くなれるんだ……? 話題、話題か……その本、なんていう本なの?」
「本に興味があるんですか!」
タユリが本を抱きかかえながらリツに迫った。
リツはいきなり目の前に飛び出してきた綺麗な青色の瞳に一瞬たじろぐ。
「ま、まあそうだな。知らないことも沢山あるし、休憩してる時に読めたらいいなって思うよ」
「で、ではわたしの本を……ああ……! 持ってきていません……! 仕方がありません……これを!」
タユリは先程貰った本をリツに差し出した。
「えっ、まだタユリさん読んでないじゃん。それは流石にできないよ」
リツは本を押し返した。
「うー……でも、でも……そうです! 明日、わたしの家に来てください! 家に置いてある本をお貸しします!」
「それなら……いいのか?」
既に読み終えた本もタユリは何度も読み返しているが、数冊貸す程度なら特に支障はない。それほど家に本が置いてあるのだ。
「タユリちゃんは本の話になると元気になりますから、同じ本を読んでくれる人を探しているんです」
「エイスは読まないのか?」
「お恥ずかしながら、難しい字は読めないので……」
村で育ってきたため、ほとんどの村人達は簡単な文字しか覚えていない。都会で使われているような難しい文字を読める人は限られている。
「ツェントは……なんとなくわかった」
「おう、あんな文字だらけのもん読めるわけなか」
過去にタユリから本を借りたツェントが、最初のページを開いて二秒で閉じたことがあった。
「じゃあ、明日タユリさんの家に行けばいいんだよね?」
「はい!」
「そうなると……べジルさん」
リツはダルドから受け取ったお金を数えていたべジルに話しかけた。
「ん? なんだい?」
「農場について色々と教えてくれませんか? 明日タユリさんの本を借りる時に家まで行くので」
「おお、構わないよ。どうせだから朝一で来な」
「? わかりました」
時々おばあさんであることを忘れそうなほど男前な言葉遣いのおかげで、逆に親しみやすくなっていた。
朝一で来いと言った理由は、べジルが農作業をリツに見せるためである。
「これでほぼ全員が買い物を済ませましたね。リツさん、これから昼休憩を取って、もう一度広場に集合ということにしませんか?」
「そうしようか、おつかれみんな」
「本当じゃな」
「帰りましょうか」
ダルドの商店も一段落し、リツたちは一旦解散となった。
次の集合は昼食後、広場だ。
* * *
全員が昼食を食べ終え、広場集まった。
「で、なんでフリンテが居るんだ?」
「また洞窟を探索するのよね? ならあたしを呼ばないのはおかしいわ!」
「ダルドが来てた時何してたの?」
「寝てたわ!」
ドヤ顔で寝過ごしたことを告白したフリンテに、全員が呆れた。そして数秒でフリンテだから、という理由で納得した。
「それでは行きましょうか、いざ、結晶山へ!」
「なによそのテンション、キモイわよ」
「酷いですねぇ、いくら村長の娘とはいえ許してはおけません。教育が必要ですね」
ダルドはフリンテの頭のリボンを掴み、上下に振った。
「やーめーなーさーいー!」
「あはははは」
「馬鹿なことやってないで行くよ三人共」
「また巻き込まれちょるんじゃが」
当然のようにいるツェントは金属結晶を餌に連れてこられた。
「川沿いに進むとあります」
「リツさん、それはなんですか?」
「前は手押し車で結晶を運んでたんだけどさ、上り坂だから手押し車を運ぶのが大変だったんだ。でも帰りは下りだから運びやすいし、ソリにすれば上り坂も楽かなって」
「いきなり木箱にソリを取り付けてくれとか言われたんじゃ」
こんなこともあろうかと昨日、リツはツェントにソリ付き木箱を作らせていた。
もう一度手押し車を押して歩く気にはなれなかったから。
「あれだ」
ツルハシを持ち、リツたちは洞窟まで歩いた。
ダルドは結晶山の価値をどう判断するのか、洞窟を使う権利はあるのか、それは城下町のことに詳しいダルドやフリンテの仕事になる。




