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出張ダルド商店

 ダルドは屋敷の部屋を借りて就寝した。リツは自宅に戻り就寝した。

 そして次の日、村の中央にある広場に村人達が集まった。


「それで、リツさんは僕に何を売りたいのですか?」

「これです」


 後ろからツェントが金属結晶が乗せられた手押し車を押しながら歩いてくる。


「なんでオリャはこんなことをしちょるんじゃ……」

「こ、これは……!」


 ダルドが手押し車に駆け寄り、触りながら品質を見定めた。


「なかなか良い濃さですね……これが沢山あれば金属にできるのですが、この塊ひとつだと観賞用として売るのが妥当でしょう。これはどこで採掘したのですか?」

「山の洞窟ですけど……これで濃いんですか?」

「はい、もっと濃いものはありますがほとんどの金属結晶はこれよりも透明で透き通っています。それこそ、普通の結晶に色がほんのりついている程度に」


 世間一般的な金属結晶は、色がついているのかも怪しい結晶が多い。

 リツの発見したあの洞窟の金属結晶は、全ての結晶の濃さが平均を上回っている異例の結晶山であった。


「ダルド、オリャこれでも薄い方じゃと思っちょったが、違うんがか?」

「逆にこれよりも濃い結晶がわんさかある洞窟があるのなら、見てみたいものです。城下町の鍛冶屋が見たら卒倒しますよ」


 ツェントは金属結晶という存在は知っていたが、実物は見たことがなかった。


「わんさかありましたよ?」

「本当ですか!? い、行きましょう、今すぐに」

「ダルドさん、まだ時間はありますから」


 帽子を落としそうになるほど動揺するダルドをリツが落ち着かせた。


「しかし……」

「後で皆さんで行きましょう! ああそうです。リツさんは魔法が使えないんです。ダルドさんは使い方を教えられたりしますか?」

「いえ、僕はそのような知識は持ち合わせていませんが。……! ちょっと待っていてください」


 ダルドは馬車に乗せられた木箱を漁り始めた。そしてその木箱から取り出したのは一冊の本だった。

 その本は金属の装飾が施された真っ黒な本だった。


「えーなになに。『魔導書〜魔抜け用入門編〜』です。普通は子供のうちに自然と魔法が使えるようになるはずなのですが、希に上手く扱えないまま大人になっていく人がいます。その人のための本ですね。これを読みながら練習をすれば上手く魔法を使えますよ」

「魔抜けって……」

「魔法が使えない者を指す言葉ですね。大丈夫です、使えるようになればその一件馬鹿にされたような称号は取り消されますよ」


 魔抜け、間抜けと同じ発音のため誤解を産むことがある。しかし、魔法が使えないことをコンプレックスにしている場合で、馬鹿にすることが目的だとするとあながち間違いではない。

 魔法の練習を怠ったという意味では、両方の意味で馬鹿にされることがある。ダブルミーニングとはこの事だ。


「やりましたねリツさん!」

「うん、これで使えるようになる……ありがとうございます、ダルドさん」

「いえいえ、500ギアレです」

「ダルドてめぇ……わかりました。あーいや、わかった。とりあえずこの金属結晶を売った金でそれを買う。何ギアレで売れる?」


 リツのダルドに対する口調を変えた。それはそうだ、完全にプレゼントする流れだったのだから。


「金属結晶はこの辺りでは珍しいですからね、かなりの高値になりますよ。銅結晶とスズ結晶を合わせて2500ギアレ、鉄結晶を3000ギアレでどうでしょうか?」

「ツェント、これは高く売れたのか?」

「大儲けじゃな、とりあえず喜んでおけ」

「やったー、じゃあ5000ギアレ受け取るよ」


 貨幣についてよく知らないリツはツェントの言葉に安堵しながら袋を受け取った。


「いえ、5500ギアレ渡します」

「え?」

「親交の証です。本はプレゼントしましょう」

「なんで値段出したんですか?」


 リツは少し申し訳なくなって口調が元に戻った。


「お茶目なジョークですよ。あと、無理に敬語を使わなくてもいいですよ。ですが、先程のような荒々しい口調は控えてもらえると助かります。僕の心はスライムよりも柔らかいので」

「言っとれクソ商人」

「わかった、気をつけるよ。ダルドも敬語じゃなくてもいいよ」

「いえ、僕はこの口調が一番落ち着きますから。職業病というやつです」

「そうか」


 ツェントを熱くスルーする二人は、互いの口調を決めた。リツはタメ口で、ダルドは敬語で。ダルドの場合は敬語がデフォルトのため、変えることができない。


「さて、皆さんお待たせしました。出張ダルド商店、開店します! 申し訳ないのですが、木箱を運んで頂けますか?」

「了解。ツェント、やるぞ」

「オリャもか!?」


 リツは作業場に帰ろうとしていたツェントの首根っこを掴み、引き寄せた。

 村人達がダルドの前に行き、話しかけ始める。


「えーっと、これと、これか。お前こっちな」

「ちぃ……ぬ、これは黒鉄の短剣か……資料として使えそうじゃな」


 物を運んでいる時あるあるで荷物の中身に夢中になりそうなツェントを横目に、リツは次々と木箱を運ぶ。

 木箱の中には剣や便利道具、魔法具が詰まっていた。


「ありがとうございます、そういえばこれも持ってきていましたね。ああそうだ、ちょっと使ってみますか」

「ん?」


 リツが運んだ木箱の中を見たダルドは、その中からひとつの金属の塊を取り出した。魔法具、別名マジックアイテムだ。


「これは嘘を見抜く道具です。僕の言葉に必ずはいと答えてくださいね」

「わかった」

「えー、あなたは犯罪を犯した?」

「……? はい」


 嘘発見器の上についている石が赤く光った。


「……すみません、あなたを疑っていたようです」

「はい」


 嘘発見器の石は黄色く光った。


「あ、もう戻していいです」

「ん、ああ。犯罪って?」

「実は、遠い国で犯罪を犯した男を探しているという噂を聞いたことがありまして……その犯罪者の名前が『リツ』という名前だったのです。同じ名前というだけで疑ってしまい、申し訳ございません」


 ダルドは深く頭を下げた。


「あーいや、誰でも怪しく思うよ。気にしてない気にしてない」

「そう言っていただけると気が休まります。そうそう、金属結晶の件ですが、昼食後に洞窟へ向かうというのはどうでしょう?」

「それでいいよ、じゃあ俺たちはもう客ね」

「ええ、好きに見ていってください」


 リツたちは様々な珍しい道具を見ることにした。逃げないようにツェントを監視しながら。

 出張ダルド商店は、しばらく続いた。

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