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商人ダルドがやってきた

 ダルドが朝から馬を走らせ、ウィーダ村が見えた頃には空が赤く染まっていた。

 他の村は城下町との交易があるため、城下町のすぐ近くにある。ウィーダ村は城下町と交易をしていないため、他の村と比べて遠い。

 ダルドはいっその事、ウィーダ村に住んでしまおうかと思ったことがあった。しかしそれは叶わぬ願いであった。そう、商人としての本業だ。


「はぁ、やっと到着ですか」


 いつしかダルドがウィーダ村へ行くことは、気分転換にもなっていた。ダルドは自分が楽になることを最優先にして行動している。

 面倒くさい客は出禁にするし、休める時には簡単に店を休む。常連客もそれを知っているので、店が閉まっている時には「ああ、今日は休みか」としか思わない。


「お疲れ様ですダルド様。もうお部屋に入られますか?」

「こんばんはシュバルさん。休む前に挨拶をしてこようと思います」

「そうですか、ではフォリシス様に伝えておきますね」

「お願いします」


 執事服の男、シュバルは頭を下げた後、屋敷の中に消えていった。


「まずはベジルさんからですね」


 ダルドは最初に山を超える途中に見えていた大きな農場、ベジルの農場に行くことにした。

 村は夜になると一メートル、大きいもので二メートル程の青い光を放つ花、クリスタルフラワーによって照らされる。この花は緑のある場所ならばどこにでも生えている花で、土地によって色が変わる。


 城下町や他の村にもクリスタルフラワーは生えているが、ウィーダ村と比べるととても小さい。テュロル王国が街を整備している時に、クリスタルフラワーが邪魔だと思ったため全て切ってしまったのだ。

 明かりを外に取り付けていないウィーダ村は、巨大なクリスタルフラワーと月の光のみで照らされるため、とても幻想的で美しい。


「この花の種を手に入れられるのはここだけですからねぇ……大切にしなければ」


 ベジルは野菜の種だけでなく、花の種も作っている。雑草のようにどこにでも生えるクリスタルフラワーだが、一度抜くと数秒かからずに光を失い、二度と光らなくなってしまう。

 植える場所を変えるのならクリスタルフラワーの周辺の土も同時に持っていく必要がある。

 テュロル王国にとって、クリスタルフラワーは雑草と同列の存在だった。


 ベジルの農場に到着したダルドは、柵で囲まれた農場に入り、ドアをノックした。


「おお、ダルドじゃないかい。少し前に来たと思ったら、もうそんなに経つんだねぇ」


 小太りのおばあさんがドアを開けた。彼女が村の大黒柱ベジルだ。

 ベジルにはジーシュという息子がいる、ジーシュはまだ幼い子供を残して一人、旅に出てしまった。理由は、妻を亡くしたことだった。


 そしてベジルも、数年前、夫を亡くした。

 そのため、農場に残っているのはベジルと孫のタユリの二人だけだった。


「こんばんは、ベジルさん。とりあえず挨拶だけして回ってるんです。明日はお願いしますね」

「わかってるよ。ああそうだ、川の近くに農場があるだろう? あそこにリツっていう名前の男が住むことになったからね、挨拶するならそこにも行くようにね」

「この村に……? わかりました、ありがとうございます。タユリさんは……明日にしましょう、それでは」


 ベジルの農場を去ったダルドは、リツという男について考えていた。最近、そんな名前を聞いた気がしたからだ。


 そしてもうひとつ別のことを考えた。それはリツがどれほどの『変人』なのか、ということだ。

 この時点でリツとダルドは、お互いにどんな変人なのだろうかと思っていることになる。


 ダルドはいつか村に引っ越したら農業をしたいと思い、リツの貰ったあの農場をイルニスから貰おうとしたことがあった。しかし、大量の雑草を見てその思いは簡単に消え失せた。

 だからこそ、あの雑草を見て農場を譲り受けたリツという男に興味が湧いていた。


「次は雑貨屋さんにしましょうか」


 ひとまず近い家から回ることにしたダルドは、雑貨屋、民家、方言鍛冶バカ(軽い挨拶のみ)の順に挨拶をし、イルニスの家に向かった。


* * *


 午後の草刈りを終えたリツは、夕飯を食べるためにエイスの家に来ていた。

 夕飯を食べ終わったエイスとリツは、イルニスに洞窟で結晶を採った時のことなどを話した。


「そのうち城下町に行くかもしれんからな、エイスの買いたいもんはお前が買えよ?」

「あんた本当に父親かよ……あのですね、彼氏でもないのにお金を出すわけないじゃないですか、出しますけど」

「娘はやらんぞ!」

「話聞いてましたか」


 当然イルニスも変人なわけで、リツと毎日こんな会話をしている。リツは最初は遠慮しながら会話をしていたが、慣れてきて強い口調も使うようになっていた。

 イルニスから家族みたいなものなんだから無理に合わせなくていいと言われてから、リツのツッコミのキレが増した。


 家が賑やかになり、エイスはとても喜んでいた。エイスには母親がいない。いつも家で二人だったため、時々寂しくなることもあった。

 だが、リツが来てから笑顔が増えた。


「ごめんください」


 ノックの音が聞こえ、その後に男の声が聞こえた。イルニスが会話を中断してドアを開けると、そこには緑の帽子をかぶった男が立っていた。


「ダルドか、挨拶にくるなんて珍しいな」

「少し早く到着したので。エイスさんは元気ですか?」

「あーそうだ。おーいお前らこっちこい!」


 お前"ら"という言葉にダルドが反応する。ら、ということは二人以上いるということになるからだ。

 エイスと一緒にリツもドアに向かった。


「もしかして、リツさんですか?」

「なんだ、知ってんのか。なら話が早いな、ほらリツ、ダルドが来たぞ」

「おー」


 リツとダルドは互いに顔を見合わせた。


(この人がダルドさんか、思ったより若いな。一体どんな変態なんだ……?)

(この人がリツさんですか、思ったより若いですね。一体どのような変態なんでしょう……?)


 同じことを考えていたリツとダルドは、どちらから話しかけるか迷っていた。


「失礼を承知でお伺いしますが、リツさんに姓はありますか?」

「ない、ですけど」


 今長話になると夜遅くになってしまうと思ったリツは、一旦記憶喪失であることを隠して会話を進めた。

 リツは自分の名前に姓があるのかはわからないが、自分は貴族ではないと、なんとなくだが感じていた。


「そうですか……今日はもう遅いです。明日、色々お話をしたいのですが、いいですかね?」

「いいですよ、俺もダルドさんに用があるので」

「リツはお前に売りたいもんがあるんだとよ」

「ほほう、それは楽しみです」


 ダルドは目を輝かせた。リツへの興味から、珍しい物への興味に変わった瞬間であった。


 エイスとも挨拶をしたダルドはヴィアニルズの屋敷に帰り、眠りについた。

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