ツェントに報告しよう
リュタ王国とは正反対の大陸、そこに城を構えているテュロル王国の城下町にある商人の集会場。そこで、荷物をまとめている男がいた。
「よおダルド、まーたウィーダ村に行くのか?」
「ええ、あそこの村は第二の故郷のような物ですから……っと」
ダルドと呼ばれた緑の帽子をかぶった男は、銅貨、銀貨、金貨を袋に詰めながら答えた。
定期的にウィーダ村に行くダルドの本業は商人、村にある珍しいものを買い、城下町の珍しいものを売る男だ。
「ウィーダ村ねぇ……テュロル国がわざわざ支援をすると言ったのに断ってきたあの村だろ? 労働は多くなるかもしれんが、そうした方がもっと金も手に入るだろうに、変な村だよあそこは」
「確かに変な村です。ですが、自分で言うのもなんですけど、僕も変でしょう? 同じ変同士相性がいいんですよ」
「違いない。だがな、お前は商売成績でトップなんだ、お得意さんだっている。趣味で向こうに行くのはいいが、本業のことも忘れるなよ」
筋肉質の商人がそう言った。
商人同士の関係は、ライバルであり、仲間でもある。時に手助けし、時に競い合う。それが商人というものである。
「わかっていますよ。まあ、今はあの村に行くことが本業と言えるようになってしまいましたが……」
小さな声で呟いたその言葉は、他の商人たちの耳には届かなかった。
後日、馬車に乗ったダルドは城下町を出発し、ウィーダ村へ向かった。
* * *
村に帰ってきたリツたちは、ツェントに採掘の成果を見せに来ていた。
「まーた打ってるのかあいつは」
「窓は……開いていますね。とりあえず入り……うわっ!?」
ガチャっとドアノブが音を立てた。それと同時に、ドアを押しのける勢いでツェントが外へ飛び出す。
「採掘が終わったがか!?」
「おう、とりあえず三種類ね」
リツは手押し車に乗せた三種類の金属結晶をツェントに見せた。
「ほぉ……改めてみっと、質がよいな。じゃが、これよりも色の濃い結晶があったはずじゃが?」
「金属として売るわけじゃないから、なるべく綺麗なのを選んだんだ」
「うーむ、確かに綺麗じゃがオリャの求める金属はもっと濃い金属じゃな。今回の結晶はダルドの奴に売りつけることになっちょるし、その方がええかもじゃな」
ツェントは結晶に反射した自分の顔を見ながら呟いた。
自分の番になったらとびきり色の濃い結晶をリツに採らせることを決めたツェントは、手に持ったままのハンマーで肩を叩いた。
「ダルドが村に来るのは夜じゃ、明日は一日中村を練り歩いちょるはずじゃから暇な時に捕まえてからかうことをおすすめするぞ」
「そんなことしていいのか?」
「ダルドは興味を持ったら止まらないからの、無理矢理農場に興味を持たせて草刈りの手伝いをさせるのも手じゃ」
過去にツェントは作った武器を見せて興味を持たせ、金属を運ぶ手伝いをさせたことがある。本人もいい経験になったと語っているため、意外とウィンウィンな関係なのかもしれない。
「よくわからないけど変な人なんだな」
「この村に趣味で来ちょるんじゃから変に決まっちょるじゃろ」
「それは……そうだな」
色々な擁護を考えたが、リツは否定ができなかった。
「リツさん、ダルドさんが来るまで時間がありますから家でお昼を食べて草刈りを進めませんか?」
「どうせやることないもんな、そうするか。じゃあなツェント、たまには休めよー」
「わかっちょるわ」
その後、エイスの家でお昼を食べたリツは自宅に戻り、作業の続きを始めた。
相変わらず鬱蒼と生い茂る雑草畑の草刈りは、終わる気配がしなかった。ブチッブチッと飽きるほど聞いた雑草のちぎれる音、淡々とした作業を続ける。
常人ならば休憩を多く挟むのだが、リツは休憩も忘れて夢中で草刈りをしていた。
「あら、偶然ね」
「フリンテ!? って農場で偶然も何もないと思うんだけど……」
突如現れたフリンテに、リツは困惑した。何故フリンテがここに、毎日ぐーたらしているはずなのに、と。
「エイスはどうしたのかしら?」
「エイスなら川で金属結晶を洗ってるよ。隙間に入った土をとるんだってさ」
商人は渡された時の状態で値段を決めるため、できるだけ綺麗にした方がいいと考えたエイスは、川で結晶を洗っている。
見栄えも良くなり、結晶もさらに透き通って見えるはずだ。
「ふぅん、じゃああんた一人ね。寂しいわね」
「かまって欲しくて来たのか?」
「ち、違うわよ! 家に居てもすることがないから、わざわざ来てあげたのよ! 感謝しなさい!」
「はいはいありがとうございます。あ、そうだ。そこにある雑草を家の横にある肥料箱に入れてくれると助かるんだけど、ダメかな?」
流石に村長の娘に労働をさせるのはダメかと思ったリツは、訂正するために口を開いた。
「あー嫌なら」
「そんなに困っているのならやってあげないこともないわ!」
嬉しそうに手伝いを始めたフリンテに、リツは驚きを隠せなかった。フォリシスの言う通り、やはりフリンテは口が悪いだけでとても優しい女の子なのだと、リツは思った。
ちなみにだがフリンテは今、自分が誰かに頼られたことに喜んでいる。
「やってあげたわ!」
「う、うん。ありがとう」
フリンテの手伝いにより、リツはいつもの数倍の効率で草刈りを進められた。余っていた種も拡張した土地に撒き、水をあげた。
途中でエイスも手伝いに参加し、みんなでせっせと作業を進めた。
そして気がついた頃には、空が薄暗くなっていた。ダルドが村に来る時間が、近づいていた。




