テンプレ通りの異世界は、
「あーつまんねーな」
俺はそんな毎日を過ごしながら今日も午後9時。朝早いから寝なきゃなと思いながらスマホをいじる。俺はいつものごとくなろうのサイトを開いて、今日もまたお気に入りのなろうのテンプレをもうつまんなくなったけど、これヒロインどうなってるかなーとかダラダラ思いながらスマホをいじる毎日。布団に寝た時に呼び鈴が鳴る。買い物に出かけて外に出る。きちんと扉に鍵をかけてエレベーターで一階まで降り道に出たところで、人に殺されてしまう。
くそっ最近なんかいろいろ事件あったけど俺が住んでるこの辺ってこんなに物騒だったのか。走馬灯のように死ぬ瞬間、いろんなことを考えて倒れる。スマホの電源切ってねーよ。とかどうしようもなくそんなくだらないことしか思い出せなかったのは、俺の人生がやっぱつまんなかったからなのかな。薄れゆく意識の中、救急車の音や周りの人の悲鳴を聞きながら、俺は最後の現実世界の風景をこの目に焼き付けた。
「ゴホゴホ」
気がつくとあたりは異様に寒い。風邪でも引いたかな、咳がいように止まらない。
「ここは」
目の前は見たこともない神殿のような場所。それこそまさに中世の世界とでも言うべきなのか。この時点で俺は既に一抹の不安を覚えていた。
あれなんか……知らないとは言えないかもな。体に巻き付いた埃を叩いてジャージを首元まで上げる。目の前に見える背中まで歩いていく。
「あのーすいません」
振り返るとだいぶおでこが来ているヒゲのおっさんが、何やら忙しそうにしている。そのおっさんが口走る前に俺はそのセリフを喋る。
「間違えて殺しちゃったってやつですか」
「おお、君なんだねそういう能力」
「そのいいですから」
嫌な予感を見事に当てた俺をすごいと言うべきか、否か。日々これといってやることもない俺は、スマホをいじりつつまたこれテンプレじゃねーかつまんねーな、を言ってクソみたいなレビューや感想を書くばかり。最初は丁寧に応じてくれた作家も次第に更新が。中には更新が止まっちまったりしたやつもいた。俺が今までそうやって馬鹿にしてきたの。喉元まで浮かび上がっているこの疑問。俺はまだ言わずに次の言葉を待つ。
「その代わりにね君にちょっと不思議な才能みたいな、アーティファクトを用意しようと思ってたんだよ」
「3種類の中から好きなやつを選べるから」
そのおじさんは申し訳なさそうにそんなことを言う。あっ、やべ。これ俺がさっきスマホで見てたやつと結構似てんかもな。
俺そういうのいらねーから、って言うのもなんかかっこつけてんのかな。
「じゃあこの何でもわかる、どんなものでも判別できる水晶玉ってやつをください」
「おう、君はいいね、その水晶玉というのがね」
「あ、自分で調べますから」
俺はその水晶玉をもらうとその場を後にしようとする。
「ごめんね、代わりに君に特別な世界へ転生させてあげるから」
「それで勘弁して」
「わかりました、はーい」
あーやっぱりそうだ、なんだこれ。俺はここでどうしたらいいんだ。混乱気味だった頭も、自分の体がその転生先へと転送されるにつれ徐々にはっきりしてくる。
目の前に現れるは王族の乗った馬車が強盗に襲われる場面。そしておそらくあらかじめ入れられたコマンドのごとく、俺のパラメータは周りの奴隷商よりもぐっと高く、水晶玉でそれは簡単に確認できる。そんな確認をせずにあっという間に奴隷商をやっつける。銀髪で耳も大きいエルフのような形のしたヒロインが、そんな俺を見つめてくる。
「くそ覚えてろ」
簡単に盗賊たちをやっつけるとお礼を言うためなんだろう、ヒロインが降りてくる。あーそうだよな、まだ習ってないからこの子がヒロインかどうかわかんねんだよ、でも最初のヒロインってことなんだろうな。
「危ないところを助けていただき」
「ありがとうございました私は」
「エルト王国のカリルでございます」
「あなた、この辺りでは見かけない言葉遣いですが」
こういう時って何て言ったらいいんだったっけな。
「えーとあごめんなさい俺田舎の方の出身だから」
「そうでございましたか」
「失礼いたしました」
この王女様の言葉がわかるってのもこの水晶玉を通して、全ての言葉は俺が理解できるように翻訳されてくれている。もう何も言わなくてもわかる、ここはテンプレ通りの異世界だ。
だったらあえて言わせてもらおう。
「トラックで死なせてくれ!」
あ、それはもはやテンプレですらないのか。