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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第1章 異邦の地ネマイラ
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7話 街中見物

 水浴びを終えた二人は森を通り抜けて、エメラの家に戻ってきた。


「少しゆっくりして、午後は街に行こうか」


 エメラのそんな提案で今度は街に出てきていた。折角だし買い物も兼ねるというわけだ。

 これも買い物の一つではあるのだが、今礼は試着室に押し込まれていた。壁にはデザインや色柄が違ってはいるものの、ワンピースばかりが数着掛かっている。

 やはりファッションの文化も地球とは違う。ボトムスとしてのスカートもあるにはあるが、あまり一般的ではない。礼は見るだけならミニスカートを身に着けた女の子は好きだったが、自分が身につけるとなると抵抗があり、内心そういった文化が無かった事に胸をなでおろしていた。

 しかし、礼にとって悪い事に、地球で言うところの女の子らしいファッションでアリスフィアでも同じように扱われているものが存在した。それがスカートのワンピースだった。男として生きていれば余興かそっちの趣味の人以外は身に着ける事はない。

 礼はまだ女の身になって時間が浅く、まだまだその辺は割り切れていない。結果として相変わらず女物の衣類を身に着けるのに男が女装するような気分になってしまうのは仕方なかった。


「終わった~?」


 エメラが暢気に礼へと声を掛ける。


「はい、一通りは着ました」


 そう言って礼が試着室から出てくるが、身に着けていたのはエメラから借りた青のワンピースだった。


「なんで試着したの見せてくれないのよー」


 エメラ相手にファッションショーなどする気のない礼は、試着した姿はすべて自分だけで確認するに止めて、さっさと試着を終わらせてしまったのだった。当然見られなかったエメラは不満タラタラだ。


「アリエッタだけで決めたら本当に似合ってるかわかんないでしょー」


 エメラがそうは言ってるものの、実は礼としてはかなり客観的に見ていた。それというのも、未だに鏡で見る自分の姿が自分のものに見えないのだ。そんな状況もあって、鏡に映る綺麗な女の子を自由に着せ替えしている、礼にとってはそんなイメージなのだ。ファッションセンスという点においては未知数ではあるが、少なくとも男性目線で見て可愛いと思えるものは選べている自信が礼にはあった。


「大丈夫ですよ。エメラさんが選んでくれたのはどれも可愛かったですから」


 エメラは褒められた事には嬉しくとも、話題をはぐらかされた事に納得のいかない顔をしていた。しかし、少し間を置いて意地の悪い笑みをしながら礼に提案する。


「それなら、買った服着ていこうか!あたしの服そのまま着てるより自分の気に入った服着たほうがいいよね!?うん、そうしよ!」


 言うが早いか、エメラはどういうわけか試着したすべてのワンピースを会計し、その中の一着を礼に手渡した。


「はい!じゃぁ、まずはコレ!」


 礼は嬉しそうに一着のワンピースを差し出すエメラを見て思った。


(結局遅かれ早かれだったんじゃん…)


 購入してもらったワンピースに着替えながら、エメラの方が一枚上手だったという事実に今更ながら気付かされた礼だった。



 一通りの衣類が揃うと今度はエメラ行きつけの店を巡回する。

 パン屋だろうか、焼いた小麦のいい香りが漂ってくる店に入っていく。中にいたのは体格の良い男性だった。年は20代半ばだろうか、魔族の特徴である銀髪に尖り耳で、きりっとした顔立ちは野生的な雰囲気ながらなかなかのイケメンだ。


「おう、エメラ、一緒にいるのはあの時の嬢ちゃんか?」


「おじさん、こんにちは。そうよ、アリエッタって言うの」


 おじさん呼ばわりされる男性だが、礼にはどう見ても20代にしか見えない。


「こ、こんにちは」


「おう、元気になったみたいでよかったな!」


 少し威圧感のある野生的な顔で笑うと意外にも愛嬌のある顔になる。少ししか話していないが、礼の印象は悪い人ではなさそうだなというものだった。


「アリエッタ、このおじさんが湖の前で倒れてたあなたをあたしの家まで運んでくれたのよ」


「そうなんですが…。本当にありがとうございました」


「いいって。気にすんな。それよりエメラ、俺にはフリッドって名前があるっていつも言ってんだろ」


 エメラとフリッドは呼び方でやいのやいの言い合っているが、礼にはどうしても気になった事を思い切って口にする。


「あ、あの!」


「ん~?」


「フリッドさんはおいくつなんですか?」


 そうなのだ。礼には20代にしか見えないフリッドがおじさん呼ばわりされていることが不思議で仕方なかったのだ。


「俺か?俺なら103歳だったかな。あれ104だったかな?まぁ、その辺だ」


 正確な歳がはっきりしないのは、礼にとってはこの際どうでもよかった。20代どころか100歳を越えているという答えに驚きを隠せなかった。礼の感覚で言えばおじさんどころかおじいさんだ。


「え?え!?もしかしてエメラさんも?」


「失礼ね!あたしは18よ!」


 礼はエメラが見た目通りの歳だったことに少し安心するが、老化のスピードや寿命が礼の知る人間と同じものではない事をこの時点で初めて認識した。


「まぁ、魔族は見た目で歳が判断しづらいからな」


「そう言う問題じゃないの!」


 思わぬとばっちりでエメラに怒られているフリッドはタジタジになっていた。女性にとって歳の話題は寿命の長短問わずデリケートな問題なのだなと、炊きつけた本人である礼が他人事のように思っていた。



 その日はエメラの友人・知人と礼を引き合わせるのも目的の一つだったのだろう。礼はお店関係の人には一通り挨拶をすることができた。概ね反応は良好で礼としても一安心といったところだ。

 一つ礼もエメラも気掛かりだったのは、50歳を越える人が一様に礼の顔を見ると驚きの表情を見せた事だった。例外的に一番最初訪れたフリッドだけはそういった反応がなかったが、それ以外の例外はなかった。そして、その驚いた理由を聞くと皆揃ってはぐらかすのだ。青髪が珍しいとか見た目が綺麗だとか、そういった事を理由にするのだが、少なくとも礼は明らかにそういった類の驚きではなかったと感じていた。


「街の人達が僕を見た時、みんな驚いてたのはどうしてでしょうね」


 夕食の後、礼は気になっていた事を口に出す。


「う~ん、わからない。あたしも思い当たる事ないけど、実は昔ここに住んでたとか?」


 礼の記憶が改竄されていて、本当はこの世界の住人で昔ネマイラに住んでいた。礼もそんな想像をしてみたが、本当にそうだとしたら街の人から違うアクションがありそうなものだ。しかし実際にあった反応は驚く事だけだったのだ。


「はぁ…考えるだけ無駄みたいですね」


 エメラも「そうね」と同意しながらもどこか気になっている様子だったが、あえてその話を続けるつもりもなさそうだった。


 当然、人々が一様に同じ反応をしたのには明確な理由があった。しかし、その理由を二人が知るのはもうしばらく先の事になる。

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