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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第4章 神聖エルガラン王国の影
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23話 最北の拠点カリディア

 ガラングライトを出て約一月と少しで、王国内の防衛機能のある最北端の街に辿り着いた。これより北は細々と人々が暮らす小さな町や村、それから千年前にアーレム王国が築いたといわれる要塞都市の名残と遺跡があるだけだ。

 カリディアというこの町は気持ち程度の防衛兵が駐屯しているだけで、出るかどうかすらわからないモンスターに対しての守りに限定されると言っても過言ではなかった。

 盛りは過ぎたとはいえ、まだ八月の半ばだというのに上着を着ていてまだ肌寒い中、一行は町の中へと歩いていく。人通りは少なく、町に活気があるとはお世辞にも言い難い。その原因は最初に訪れたギルドで明らかになった。


「モンスターの大量発生?」


 目を白黒させたエメラがギルドの受付の女性に聞き返した。


「そう。ここ一ヶ月くらいだよ。みんな精々Cランク程度なんだけどね、頻繁に出るようになったんだよ」


 その女性が言うには、それなりのレベルの傭兵であれば難なく討伐できるレベルだが、いかんせん頻度が高く人手が足りていないようだ。さらには切れ間なく発生するため、討伐のできる者が休みなく働き疲労もピークに達しているのだとか。


「そんなわけで、できる限り手伝ってもらえるならありがたいねぇ」


 そう言う受付の女性も少し疲れた表情をしていた。もしかすると彼女も討伐を手伝っているのかもしれなかった。


「わかりました。あたしたちも手伝います」


「ありがとうねぇ。それじゃ明日から討伐隊のローテーションに入ってもらえるかい?」


「僕たちは単独で動かせてもらっていいですか?ある程度の成果は約束しますので」


 アリエッタもエメラもできる限りの協力はするつもりだが、一組織として組み込まれるのは困る。それに実際はアリエッタたちだけで動いたほうが効率的であろう事も容易に想像できたこともあって単独行動を申し出た。受付の女性は申し出が意外だったのか、少しほうけた表情を見せたがすぐに気を取り直し特に問題ないという事で話がついた。


 アリエッタたちがギルドから出ようとしたタイミングで、アリエッタが何気なく目を向けた先に一つの依頼書が貼り付けられていた。依頼書を見たアリエッタはそこから目が離せなくなった。


"帰省途中の娘の安否確認"


 そう銘打たれたタイトルの下に視線を下ろすと、アリエッタより少し年下くらいの可愛らしい少女の肖像画と、依頼内容が書き込まれていた。


"外出先から少し前に帰省するはずの娘が帰ってこないから探して欲しい"


 そんな内容の依頼だ。"少し前"というタイミングに"娘"というキーワードからアリエッタが思い浮かべるのは、ガラングライトからの道すがら見つけた、盗賊に襲撃されたと見られる馬車の事だ。半月経った今でもアリエッタは思い出すと胸を締め付けられるような気持ちになる。その件とアリエッタの目に留まった依頼書が同じものだとは限らないが、同じものとして感情移入してしまっていた。


「その依頼ね…。本当はすぐにでも捜索隊出してあげたいんだけど人手がなくてね…」


 モンスターの討伐ができる者はそちらに駆り出され、自信のない者はモンスターが頻出している現状に臆して町から出たがらず、結果として依頼を受ける者がいないのだ。


「実はここに来るまでに思い当たる事がありまして…」


 アリエッタは道中見つけたもぬけの空だった人用の荷車を見つけたこと、その周りに惨殺された数人の亡骸が転々としていたこと、荷車の中は甘い花の香りが漂っていたこと、囮作戦で犯行グループの炙り出しを試みたが失敗し救出は断念したこと、殺された人たちは近くに埋葬したことを説明した。


「断定はできないけど、ライムお嬢さんの可能性が高いねぇ…」


 受付の女性はそう言って目に涙を浮かべた。殺されてはいないだろうが、場合によっては死んだほうがマシだと思わせられるような扱いを受けているかもしれない。それを思うとアリエッタですらつられて涙が出そうになる。


「ライムお嬢さんっていうのが」


「そう。カリディアを統治するミルグラス伯爵家の二番目のお嬢さんで、依頼の()さ」


 馬車で移動するくらいだからそれなりに良いところの女性だとはアリエッタも思っていたが、本当にお嬢さまだったというわけだ。実際に攫われた女性の知り合いと顔を合わせると、改めて何とか助けられなかったのかと自責の念にとらわれてしまうアリエッタだった。



 モンスター退治は翌日からという事で決めて宿を取り、全員揃って夕食を取りに大衆食堂に入った。日も沈み、それなりにいい時間ではあるが客はまばらだ。少しばかりの客も表情に覇気が無く、どことなく疲れが見て取れる。他の町であればアルコールが入って陽気に騒ぐ者も少なくない時間帯だが、この大衆食堂にそんな空気は微塵もない。誰もが淡々と食事を終えると早々に会計を済ませて出て行ってしまうのだ。


「なんだか辛気臭えな」


 ガリオルが何気なく零した言葉ではあるが、アリエッタ含めて全員が同じ事を思っていた。


「疲れ果てている感じ?気持ちにあんまり余裕がなさそうだよね」


「一ヶ月もモンスターばかり相手にしてればそうもなるさ」


 聞きなれない声のした方にアリエッタが視線を向けると、給仕の女性が伝票片手に注文を取りに来たところだった。

 その給仕が言うには半月ほど前まではここまで酷くなかったようだが、それを過ぎたあたりから徐々に疲労が溜まっていったのではないかという事だった。終わりの見えないモンスター討伐地獄は体力だけでなく精神的にも住民を追い詰めているのだろう。

 ギルドの受付女性が言うには大量発生の原因も特定できていないようでもあるし、本当に先の見えない状況が人々を疲弊させるのに拍車をかけているのだ。アリエッタはできれば根源を見つけて排除したいと考えていた。結局出てきたものを排除するだけのもぐら叩きでは埒が明かないからだ。


「僕たちはできるだけ発生源の原因探せるように頑張りますね」


「あぁ、頼んだよ。でも命あっての物種だからね、無理は禁物だよ」


 アリエッタは力強く給仕の女性に宣言するが、給仕の女性はあまり期待はしていない様子だった。ガリオルはともかくとしてその他の面々は確かに頼りになるようには見えず、その反応も仕方ないことではあった。

 この異常の先に何か欲しい情報が出てくるような、理由は説明できないがそんな確信に近いものがアリエッタの中にあるのが不思議ではあった。それでもその直感に基づいて行動して間違いないと、アリエッタは疑うことはなかったのだった。

5章ですが、全然筆が進んでいません…。

楽しみにして頂いている方には大変申し訳なのですが、4章終了後、5章の開始まではかなりお時間を頂くことになりそうです。

なんとか年末年始で追い込めればいいのですが…。

やっぱり年末は忙しいです。

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