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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第4章 神聖エルガラン王国の影
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21話 王都ガラングライト

 アリエッタが人攫いに遭いかけた町から二週間ほどかけてエルガラン王国のほぼ中心に位置する王都ガラングライトに辿り着いた。道中野盗に襲われる事はあったものの、それ以外の障害はほぼ無く予定通りの旅程だった。

 それでもエルガラン王国の治安はサーフィト帝国と比べると悪い。帝国には盗賊などほぼ見かけなかったが、王国には当たり前のように存在しており、その数も多い。特に土地が痩せている地域ほど多い。その裏には帝国と違い、隅々まで食料が行き渡っていないという背景がある。帝国には穀倉地帯は少ないものの、温暖で作物の育つ土壌が多いのに対して、王国北部の半分程度は寒冷地でほとんど作物は育たない。その結果として国民の胃袋を満たせる割合に差が出て、さらには貧しい地域の男たちが盗賊に身を(やつ)しているのだ。

 北に向かっている為か進むごとに季節は進んで夏になっているはずなのだが、その気温は王国入りした頃と大きく変わらない。この王都周辺は過ごし易い環境の土地の北限と言ってしまって差し支えない。さらに北に向かうと夏はそれなりに過ごし易くとも、短い夏が終われば非常に厳しい冬が待っているからだ。アリエッタが真っ先に思い浮かべたのが地球のロシア、特に寒さの厳しいシベリア地方だ。寒さにはとことん弱いアリエッタとしては絶対に行きたくない場所の一つだったが、今回ばかりは自分のわがままからの話でもあり、行かないという選択肢はない。


 さすがに大陸一の国家の王都だけあってガラングライトは大きな街だった。半径数キロに渡る広大な城下町を、高さ数メートルはあろうかという外壁が覆っていた。さらにその外にも第二街区が広がり、さらにその数キロ先の外側を一回り大きな外壁が取り囲む。その更に外側には幅数十メートルはあろうかという堀というには大きく、もう川と呼んで差し支えないような堀が取り囲んでいた。


「この堀、ガラングライトの街を作るときに本物の川を分割して堀にしちゃったらしいよ」


 少し呆れた様子でデューンがうん蓄を疲労する。確かに街の上流までは一本の川が流れており、街の手前で二手に分かれると、街が途切れたところまで流れてきたところでもう一度合流して一本の川に戻っている。街の周りを流れているのは片方が川でもう片方は堀というのが正しいようだ。


「この周辺まで攻め込まれても、ガラングライトだけはそうそう落ちねーだろうなぁ」


 そうガリオルが言うように、これでもかと言うほどの鉄壁ぶりだ。それでいて中でもある程度の農地があり、それなりの期間自給自足ができるという点を加味すれば難攻不落の都市といっていい。


「ここが落ちると王都が落ちるってだけじゃなくて色んな意味で王国は終わりだろうからね」


 デューンが言う通り、ガラングライトが落ちるという事は、純粋に都落ちするだけではない。

 王都より北の地域は痩せた土地が多く、特に最北部は極寒の地であり、農業には向かない土地が多い。結果として食糧事情が悪化し、徐々に国力は衰えていき滅亡を待つばかりとなるのだ。当然のことながら継戦能力も落ちるため、その前に武力で滅ぼされる可能性も高い。

 エルガラン王国は国土の大きさのわりには磐石の体制ではないというのが現状であった。




「そんな事より、今日の宿取らなきゃ」


 エメラにとっては王国の状況や王都の成り立ちよりも即物的な、即ちその日の寝床の確保の方が気になるようだった。この旅が終わればほぼ関わりのない国の状況など何の役にも立たないということなのだろうか。


「そうだね。でも僕も少し観光はしたいかな」


「あぁ、うん。それはあたしも同感。明日ゆっくり見て回ろっか」


「あう?」


 リフィミィは会話の内容が理解できず、アリエッタの手を握ったままアリエッタとエメラの顔を交互に見渡す。


「ふふ、リフィにはちょっと難しかったかな」


 一行は少し賑やかになりながらも宿の立ち並ぶ区画へ足を向けていった。



 さすがに一国の首都だけあって、宿の数が多いだけでなくバラエティにも富んでいた。純粋に宿泊だけを目的とした宿から、リゾートを目的としたもの、ゆっくりと体を休める事を目的としたものなど多岐にわたる。アリエッタたちは基本的には宿泊することだけを目的としているが、フィルブトでの報奨金や闘技会の賞金により金銭面ではかなり余裕があるため、高めの宿に泊まることが多かった。結局セヴィーグに戻ってしまえば使えない金だけに、残しておくだけムダだと考えているのが大きな理由だ。


「今日はここなんてどう?」


 そう言って先頭を歩いていたエメラが提示した建物は他とは一線を画し、外観からして高級感を醸し出していた。所々に繊細な彫刻のされた装飾があしらわれた建物は見るからに高級宿で、一般市民はまず宿泊しないであろう最高レベルの宿に見えた。壁面には一切の汚れが見えず、柱や屋根にアクセントのように取り付けられた金属の装飾は光を反射して輝いていた。外観を見るだけでも、いかにメンテナンスに人も金もかけているかが伺えるほどだ。


「いやいやいや!ここ絶対一泊千レムとか取られるから!」


「ここまで大きい街に滞在するのも多分最後だしさ、少し贅沢しようよ」


 元々過度な贅沢を好まないエメラがこういった発言をする事は非常に珍しい。それだけに、発言そのものも本気度が高いことがよくわかる。数十万レムもの大金があり、旅の終わりも見えてきた。そう考えれば、エメラのような考えが出てきてもおかしくはない。


「まぁ、いいんじゃねーの?無くなりそうになったらまたバリバリモンスター退治すりゃいいだろ」


 ガリオルの意見は概ね全体の総意のようで、特に反対する者はいなかった。アリエッタは少し不安を覚えながらも、高級宿に宿泊する事そのものに異論はなく、エメラの提案に従う事にしたのだった。


 エメラが口にした「最後」という言葉、その真意をアリエッタが知るのはもう少し先のことになる

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