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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第4章 神聖エルガラン王国の影

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19話 油断大敵

 オーヴィレンを発って二週間ほど移動を続け、一向は小さな町に辿り着いた。その町はオーヴィレンと王都ガラングライトのちょうど中ほどに位置する町で、王国の大動脈と言われる大街道沿いに存在する。それ故、町の規模は小さいながらも人の通りはそれなりに多い。良くも悪くも賑やかな町だった。

 それだけ不特定多数の人が行き交うだけに、あまり人に言えないような事を生業にしている者も少なからずおり、町の活気と同時に治安もお世辞にもいいとは言えない町だった。スラム街、歓楽街、高級宿泊エリアと王国の光と影を象徴するかのような町でもあった。


 この日、一向はこの町に宿泊する予定はなかったものの、昼時だった事もあって昼食と休憩がてら飲食店の立ち並ぶ区画に立ち入っていた。

 昼間だけに仕入れの商人や旅行者などで賑わい、どこの店も昼食を取ろうとする客で溢れ返っていた。


「アリ、りひおなかすいた…」


 町までもう少しだったという事もあって、いつも一行がお昼にする時間よりもかなり遅くなっており、リフィミィに限らず全員が空腹を覚えていた。


「リフィ、もうちょっと我慢ね。お店が空いてないから」


「あう~…」


 リフィミィは恨めしそうにアリエッタを見上げるがどうにかなるわけではない。アリエッタも可哀相だとは思うが、こればっかりは我慢してもらうしかなかった。

 ほどなく、少し待ちの少なそうな店を見つけて全員で順番待ちをしていると、アリエッタは少し催してきた。外であれば物陰に隠れてこっそりする(・・)のだが、町の中となればそうもいかない。こういった時は女の身である事が恨めしかった。


「ちょっとトイレ探して行ってくる」


 アリエッタはエメラに小さな声で耳うちすると、一行から離れていった。この時、もう少し注意深く動いていればよかったと後悔するのは少し後の話だ。

 王国に限らず、タンタラス大陸において公衆トイレは基本的には有料だ。地球でも公衆トイレが有料であることは珍しくないが、科学の発達が地球より遅れているアリスフィアでは尚の事管理にお金がかかるため、その補填だ。さらには慈善事業ではないので利益が上がらなければ意味がない。つまりは商売なのだ。アリエッタも幾度となく有料で利用したことがあり、それなりに勝手は知っているつもりだった。

 一人他の五人から離れて町の中を探すとすぐに有料の公衆トイレを見つけることができた。特に変わった様子もなく、表で金銭の授受をしている男が少しばかり表の世界の人には見えない程度だ。アリエッタはいつものようにお金を払って中に入り、綺麗に整えられた個室に入った時だった。

 アリエッタは今までに感じた事のないような脱力感を感じると同時に、背後に人の気配を察して振り返った。そこには筋骨隆々で屈強な男が二人いた。その男二人はそれぞれがアリエッタの左右の腕を取ると、いつしか見た事のある腕輪をアリエッタの両腕に嵌めていった。


「あんたら、何するんだ!」


 アリエッタは全力で腕を振り払ったつもりが、男たちの腕はビクともしなかった。そして何より、いつもであれば無意識に展開している魔力が、どういうわけか展開されていなかったのだ。魔力が無ければアリエッタはただの小娘に過ぎず、屈強な男たちの腕力に敵うはずもない。成されるがまま両腕に腕輪を嵌められたのだ。

 嵌められた腕輪は、リフィミィと出会ったばかりの頃、自分たちの安全のためにと彼女に嵌めたものと同じものだった。


"魔封じの腕輪"


 どういった働きでそうなるのかアリエッタは理解していないが、嵌められた者は自力で魔力の展開ができなくなる腕輪だ。その腕輪を嵌められた事の意味を理解して、アリエッタは背中に氷を入れられたように背筋が寒くなった。個室の天井には紫色にうっすら光る魔方陣が浮かんでおり、アリエッタの力を抑える何かしらの仕掛けがあった事は間違いないのだが、当のアリエッタはその事に気付く事はなかった。

 腕輪をアリエッタに嵌めた男二人はそのまま強引に腕を引いて、個室からアリエッタを引きずり出した。


「やめろ!」


 アリエッタは口では抵抗しているが、魔力の使えない状況だけに抵抗のしようがなく八方塞がりだということを嫌でも理解させられていた。


「へへ、大人しくなったな」


「しかし、極上の獲物がかかったな。うまくいきゃ一生遊んで暮らせるぜ」


「だな。高位貴族あたりに目を付けてもらえば数百万でもいけるかもなぁ!」


 男たちはそんなことを言い合いながら笑い合った。二人は所謂人攫いだった。目ぼしい女性や子どもを見つけては捕獲して売り飛ばすのだ。人身売買はこの国では違法ではない。最低限の労働力として認められている。しかし、本来は罪人や不法入国者、敵国の捕虜などの国家から見れば人として扱う必要のないものに限定されている。しかし、実際にはこういった人攫いや、貧困層の親が子を売るといった事は裏では当然のように行われており、国もそれを知りながら黙認しているのが現状だ。


「あんたなら大事にしてもらえるぜ」


 男の片割れが下卑た笑みを浮かべながらアリエッタに声をかける。アリエッタは必死に今の状況を抜け出せる策がないか頭を廻らせるが、どう足掻いても自力で抜け出す術は思い付かない。そして、その結論はアリエッタを絶望へと叩き落していったのだった。

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