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僕と彼女と英雄の裏物語  作者: ヴィンディア
第4章 神聖エルガラン王国の影
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18話 北へ

 闘技会の終わった二日後、オーヴィレンの街北側の門の前にアリエッタたち六人の姿があった。

 決勝の翌日を休養と準備に充てて、その翌日に改めて出発という事になった。フィルブトでのモンスター襲撃の際の報奨金と、先日のアリエッタの闘技会準優勝の賞金で金銭面での不安がなくなった。さらにはルビアスへの手がかりとしてモンスター退治の依頼を受け続けてきたが、本人が見つかった事でそれすらも必要が無くなった。ただただ、ひたすらに北を目指し続ける事が当面の目的となった。


「なぁ、腕が(なま)るから少しはやろうぜ。な?」


 ガリオルとしては戦闘行為そのものが無くなるのは困るようで、モンスター討伐を続ける事を提案してきた。アリエッタとしてはできる限り早く北に向けて進みたいのだが、旅に何の楽しみも見出せないのではつまらない。それをモンスター討伐に見出すのは理解できないが、各町の近郊を観光がてら見て回るのは悪くない。結局ガリオルに押し切られる形で、今後もモンスター討伐を続けながら北に向けて進路をとると言うことで全員意見を一致させた。


 オーヴィレンの北門には門兵が三人張り付いていた。基本的に入りの検問は厳しいが出の検問は緩い。めったな物を街に入れないという事を最重要項目としているからであって、情報が漏洩するリスクを無視しているわけではない。それなりの身元確認と行き先、目的の確認はしっかりと行われていた。それはアリエッタ一行も同じ事なのだが、なにせこの中にアリエッタとガリオルがいるのだ。その検問も随分を簡素なもので完了した。


「お気をつけて!」


 そう言って敬礼する門兵だが、実のところガリオルはともかくとしてアリエッタには当然のように「人間ではない」疑惑が持ち上がっていた。疑惑どころか実際に人間族ではないのだが、それをこの場でカミングアウトできるわけがない。能天気に持て囃してくれる人にはいい顔をして、陰口を叩く人にはできる限りかかわらない事にして変な噂が蔓延しないように心がけるくらいしか手立ては無かった。

 この門兵はたまたま好意の目で見ていたため、特に問題も無くスムーズに検問が通ったのだろう。

 魔族でも屈指の魔力の持ち主であるアリエッタとルビアスの本気のぶつかり合いを見て、呑気に人間族だと思ってくれる人間はどちらかと言えば少数派だ。そんな少数派が検問担当だったのは僥倖だが、今後もそうとは限らない。特に闘技会準優勝のアリエッタは王国中にその名前が広がっていく可能性が高い。目を逸らし続けるのではなく、王国内を旅していくのであれば早急に対策を講じる必要があった。


「次の街からは髪の色変えよっか」


 王国内でも北に行けば行くほど金髪の人の割合は増える。そういった事もありオーヴィレンに入った時は金髪にしたのだが、アリエッタの状況を考慮すればまったく同じ装いと言うわけにも行かない。アリエッタのいた地球であれば簡単に画像や映像を共有されて、髪の色を変えた程度ではすぐに気付かれてしまうだろう。しかし、幸か不幸かそういった情報機器が発達していないアリスフィアでは、少し情報が違うだけで気づかれる可能性は大きく下がる。当然一度目にしたことある人間に見られてしまえばその限りではないが、それでも髪の色を変えるだけでも随分と印象が変わり、気付かれる危険性を抑えられるのは事実だ。

 一行はオーヴィレンから十分に離れて周囲に人がいない事も十分に確認をとってから、アリエッタとエメラの幻術を上書きした。金髪だとどこか西洋人形のような雰囲気を醸し出していたが、黒髪になると清楚な雰囲気に変わり、狙い通りイメージがかなり変わった事がよくわかる。


「やっぱり髪は黒が一番馴染み深いかな」


 元々日本人であるアリエッタからすれば、元の世界では自然には発生し得ない青髪、銀髪という色はもちろんの事、金髪ですら違和感が強かったのだ。


「金髪も良かったけど、黒髪も良いね!もちろん銀髪も良い!」


 デューンも褒めているつもりなのだろうが、結局「なんでもいい」と取られかねない発言をする。幸いアリエッタもエメラもそこまで穿った見方はしなかったが、エメラは少し意地悪をする。


「ふ~ん、なんでもいいんだ?」


 エメラのその言葉にデューンはあからさまに慌てる事はしなかったが、明らかに動揺しているのが見て取れた。


「い、いや、なんでも良いんじゃなくて、どれも良い、だよ。そこの所間違えてほしくないなぁ」


「どれでもいい、ね。一緒じゃない」


「いや、だから」


「僕、地毛青なんだけど…」


 珍しくしどろもどろになり、本気で焦りを見せ始めたデューンだが、その姿がアリエッタには滑稽に映って、つい噴き出してしまった。


「ぷっ、ふふ、あははっ!エメラ、これくらいにしてあげよ。あははは」


「…え?…え?」


「ふふ、冗談よ。ちょっとからかってみただけ。あたしたちそこまで天邪鬼じゃないわ」


「褒め言葉は素直に受け取ってるから。ありがと」


 デューンは二人の言葉を聞くと盛大な溜息をついた。薄っすら額に汗を浮かべているあたり、本気で焦っていた証拠だ。

 アリエッタも女性としての褒め言葉を真っ直ぐ受け止められる程度には今の体に馴染んでいた。アリスフィアに来たばかりの頃であれば、女性としての褒め言葉に対して今のように素直に反応できなかった。もしかすると途端に不機嫌になったり、気分が落ち込んだりしたかもしれない。少なくとも感情はプラスには向かず、マイナスに振れる事の方が多かったことだろう。


(随分と女でいることに慣れちゃったなぁ)


 アリエッタはそんな事を考えると少し焦る気持ちが無くもないが、思考や感情が体に引きずれられるという事だと、諦念と共に思考を停止させた。


「おい、そろそろバカやってねーで出発するぞ」


『もう!ガリオルはもっと空気読むべき!』


「お?なんだ?お前も怒ってんのか?だけどそんなに怒るほどじゃねーだろ」


『わたしはガリオルに言ってるの!』


 呆れたように声をかけるガリオルにちょっと憤慨した様子のエレアが絡むが、お互いが微妙にコミュニケーションが取れていないため話が噛み合わない。


「ガリオルもあぁ言ってる事だし、そろそろ出発しようか」


 ガリオルとエレアのやり取りを苦笑気味に見ていたアリエッタだったが、仲裁に入って次の行動へと促すと、他の面々も準備を始め、やがて移動を始めた。


 六月に入り少しづつ夏に近付く中、もう既に暑いオーヴィレンの地を離れ北に向かってオオトカゲを走らせるのだった。

やっと4章すべての執筆が終わって予約投稿が完了しました。


そこで改めてあらすじを見たのですが、我ながら

「世界転移のための設定がチープ過ぎる…」

と思ってしまいました。

私だったらあらすじだけ読んで本分にいかないレベルで、BMやPVが付かない理由のひとつなのだろうなと痛感してしまいました。


元々設定はともかくとして、TSモノのファンタジーが書きたい!という事で練習がてら執筆を始めたのですが、もう少し凝ればPVもついたのかなぁと少しばかり後悔しています。

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