17話 今後の指針
闘技会決勝の後、ルビアスは抱いたアリエッタをエメラたちに引き渡すと表彰式も出ずにどこかに消えていった。優勝者と準優勝者のいない表彰式はなんとも締まらない、微妙な雰囲気で行われ、三位のガリオルには相当に居心地の悪い空間であったことだろう。
「あんな主役のいねー表彰式なんか延期か中止にしちまえばよかったんだ」
そんなガリオルの言葉が彼の心情をよく表していると言える。
それでも主催者側からすれば表彰式のない締めなどできるわけもなく、主役抜きの開催は苦肉の策であった事は言うまでもない。決勝の影響で意図せず出られなかったアリエッタはともかくとして、完全に義務を放棄したルビアスには早々に懸賞付きで指名手配が出ており、半ば面子を潰された形の主催者である王家の怒り度合いがわかるというものだ。
いずれにしても翌年の闘技会には今年の上位三名が出ない可能性が高く、大会としてのレベル落ちは免れない。さらに今回の不手際を加えると、今後も同じように国民の熱狂的行事として続いていくかは微妙なところだろう。
「それで最北で待つって?」
アリエッタが決勝の後倒れて、次に気が付いたのは翌日の朝だった。その朝食の場でエメラからルビアスからの言伝を聞いたのだ。
「うん。場所とかは何も言ってなかったけど」
結局、性別を変える魔法の事も聞けずじまいで、一方的に言伝を預かる形で別れてしまったようだった。
「まぁ、まだ王国にも入ったばかりだ。少し気の長い話になるが行き先の指標だけでもわかってんだしよ、今までよりは楽じゃねーか」
今までは行き先を決めて移動しつつ情報収集を続けてきてはいたが、本当にいるかどうかもわからない手探りで答えの無い旅だった。ルビアスもすでに死んでいてその行為そのものが無駄であった可能性もあったのだ。それが、詳細な場所ではないながらも、おおよその予定場所が決まっていて確実にその周辺に目的があるというのは非常に大きい。
「そうなのよね。今までは雲をつかむような話だったから大きな進歩よ」
「うん、そうだね……」
アリエッタは同意する素振りを見せるも、反応が鈍い。
「アリィ?どうかした?」
「なにが?」
「どこか乗り気じゃないように見えるんだけど」
今までのアリエッタであれば前向きに「次に行こう!」と言い出していたはずが、今回に限っては歯切れが悪い。
「なんか、ずいぶんと僕のわがままに付き合わせちゃってるなって思ってさ」
ガリオルとデューンは勝手に付いてきているとは言え、基本的にはアリエッタが決めた指針に従っており、いてくれたことで随分と助かった事があったことも事実だ。今更ながら、アリエッタは自分勝手なわがままに付き合わせる事に気が引けてしまったのだ。
「アリエッタちゃん、なんか勘違いしてるみたいだけどさ、ボクは好きで付いてきてるだけだからね?」
「オレもだな」
『わたしもー!』
「今更何言ってんの。それに、あたしも今回の旅結構楽しんでるんだよ?」
「う~?アリ、エメ、りひーいっしょ、たのしいよ?」
デューンに続いてガリオルにエレアも同じだと言い、エメラですら似たような物言いをする。リフィミィだけは状況がわかっているのかいないのか、少しずれた事を言ってるが結局は五人ともアリエッタについてきているのはアリエッタの人徳と言える。デューンだけにはどうして嫌われないかアリエッタにとって大いに謎なのだが、アリエッタを好ましいと思って付いてきていることに変わりはない。
アリエッタにはその気持ちが嬉しくもありながら、それを素直に言葉にするには恥ずかしくもあり、反応に困って固まってしまう。
『アリエッタ顔赤いよー?もしかして照れてる?』
エレアは悪戯を思いついたような意地悪な表情をしてアリエッタの回りを飛び回る。
「なっ!違うし!」
他の四人にはエレアの言葉はわからないはずだが、二人のやり取りで大体何を言い合っていたかが想像できていた。アリエッタも顔を赤くして否定するあたり周囲には答えを言っている様なものだが、他の四人もそれを察してエレアに同調する者、見守る物と様々だ。
アリエッタは誰にも聞かれない程度に小さな声で、面と向かっては言えない本音の言葉を口にした。
「みんな、ありがとう」
そんなアリエッタの言葉をしっかりと聞いていたエメラは微笑ましいものを見たようなやさしい笑顔を浮かべていた。
(もっと素直になればいいのに)
そう思っていてもエメラは口には出さない。アリエッタはそんなエメラの様子にも気付く事はなく、相変わらず赤い顔のままからかわれていた。
 




